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ドナー不足を一気に解消したHLA半合致移植と移植後GVHDの新薬 白血病に対する造血幹細胞移植の最新情報

監修●豊嶋崇徳 北海道大学大学院研究院血液内科学教室教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2024年7月
更新:2024年7月


移植後の患者さんに残されたGVHDの課題は?

造血幹細胞移植は、他の治療では治せなかった白血病でも、約40%ほどは治癒させることができます。ただ、白血病が治っても、GVHDが起きてしまうことがあります。

「どのくらいの人にGVHDが起きるかというと、おおざっぱに言えば、だいたい1/3くらい。GVHDに対しては、ステロイドホルモンによる全身治療を行いますが、効く人は約半分で、効かない人が半分くらいいます。そのステロイドが効かない人たちに対する治療法がない、というのが問題でした。白血病は治ったけれど生きて行くのがつらい、と訴える患者さんが残されていたのです。白血病が治るようになり、ドナー問題も解決し、残された課題はGVHDを発症した患者さんのQOL(生活の質)でした。最近になって、ようやく新しい治療薬が登場してきました」(図4)

2021年にイムブルビカ(一般名イブルチニブ)が承認されたのが最初でした。Tリンパ球とBリンパ球を特異的に抑える薬剤で、適応症は「造血幹細胞移植後の慢性移植片対宿主病」(ステロイド薬の投与で効果が不十分な場合)となっています。

2023年には、ジャカビ(一般名ルキソリチニブ)が承認されました。Tリンパ球を抑える作用があり、この薬は急性GVHDにも慢性GVHDにも使うことができます。

そして、2024年5月に、レズロック(一般名ベルモスジルメシル)が承認されました。Tリンパ球を抑える薬で、適応症はイムブルビカと同様です(図5)。

これらの薬は、それぞれ異なる作用機序を持っており、いずれもがんの治療薬として開発された分子標的薬です。標的分子を免疫細胞も持っていることで、GVHDの治療で効果を発揮することができます。

今年承認されたレズロックは、日本国内で実施された第Ⅲ相試験で、全奏効率85.7%という治療成績を残しています。ステロイド薬が効かなかった患者さんでも、85.7%に効果が認められたわけです。

「全奏効率とは、完全奏効と部分奏効を足したものですが、完全奏効はいなくて、部分奏効が85.7%です。慢性GVHDの症状は、皮膚、関節、目……など、全身のあらゆる部位に症状が現れます。多くの膠原病がいっぺんに発症したようなもので、それが全部消えないと完全奏効にはなりません。1つの薬で多くの膠原病を治すことができないのと同じで、完全奏効はむずかしいのです。効果は高い薬ですが、まだ完全ではない、ということでしょう」

これらの薬が登場したことで、GVHDの治療は大きく前進しました。しかし、治療はまだまだ発展途上で、今後も新しい薬剤が登場してきそうです。

造血幹細胞移植で白血病が治癒したにも関わらず、GVHDで苦しんでいる患者さんがいます。その人たちのQOLが、少しでも向上することが期待されています。

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