リスクに応じた治療戦略がカギ 骨髄異形成症候群の最新治療
5番染色体の欠失がある場合レブラミドが使われる

骨髄異形成症候群の診断では染色体検査が行われる。人間には46本の染色体があるが、5番目の染色体の一部に欠失が起きているタイプがある。このタイプは「5q-症候群」と呼ばれている(図5)。
「このタイプの骨髄異形成症候群で、低リスクなら、*レブラミドという抗がん薬による治療が行われます。貧血の改善が得られ、さらに輸血からの離脱も可能になります」
*レブラミド=一般名レナリドミド
貧血治療薬ネスプの働きで 輸血を減らすことが可能に
5番染色体に欠失がない場合は、血液中のエリスロポエチン(EPO)濃度を調べる。エリスロポエチンは赤血球を作らせる赤血球造血刺激因子で、ホルモンのような働きをしている。貧血が重いほど赤血球を作らせる必要があるため、血液中の値が高くなる。
このエリスロポエチン濃度が500mIU/mL未満の場合には、赤血球を作らせる作用のある*ネスプという薬で治療する。昨年(2014年)12月から使えるようになった薬である。
だが、ネスプは新しい薬というわけではない。実は透析治療を受けている人に見られる腎性貧血の治療薬として、以前から使われていた薬なのである。
「海外のガイドラインでは、骨髄異形成症候群による貧血の治療薬として推奨されているにもかかわらず、日本で使えないのはおかしいのではないかと、ずっと言われていた薬でした。この薬を早く使いたいという医師もたくさんいましたし、患者さんたちも待ち望んでいた薬だったのです」
こうした状況もあり、昨年になってようやく適応が拡大され、骨髄異形成症候群に伴う貧血にも使えるようになった。
「ネスプを使用することにより、輸血量を減らせるだけでなく、輸血からの離脱も可能になるケースもあります」
ネスプは、人工的に作った赤血球造血刺激因子製剤(ESA)で、エリスロポエチンと比べると、アミノ酸配列を5カ所変えてあるという。
「5つのアミノ酸を変えることで、持続性を獲得しました。エリスロポエチンを治療に使う場合には毎日注射する必要がありますが、ネスプは持続的に効果を発揮するので、1週間に1回注射するだけでいいのです。これは画期的で、患者さんの生活を考えると大きなメリットがあります」
また、ネスプが使えるようになったことで、ヘモグロビン濃度をより高いレベルでコントロールできるようになり、今まで難しかったこと���できるようになるなど、患者さんの活動の幅も広がると期待されている。
*ネスプ=一般名ダルベポエチン アルファ
白血球と血小板の減少には基本的には薬は使わない
低リスクで白血球や血小板が不足している場合、ガイドラインでは抗がん薬の*ビダーザが使えることになっている。ただビダーザの副作用で白血球や血小板が少なくなることもあり、十分な注意が必要である。
「白血球を増やす薬剤としてG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤があります。ただ、これは白血病への移行を促進する作用があるため、安易に使うべきではないとされています。例外は、肺炎など重症の感染症にかかっていて、このままでは危険という場合です。使用するのは、そういう場合に限られます」
血小板に関しては、少ない場合には血小板輸血が行われる。
*ビダーザ=一般名アザシチジン
ビダーザによる治療が白血病への進行を抑えた

高リスクの骨髄異形成症候群は、白血病細胞が増えてきた状態である。まず造血幹細胞移植を考える必要があるが、多くの人は移植以外の治療を選択することになる。
「現在、高リスクの治療に使われているのは、ビダーザという抗がん薬です。従来の治療より生存期間が延長することと、白血病へ進むのが抑えられることが明らかになっています。また、高リスクの骨髄異形成症候群は白血病の前段階ですが、白血病と同じ治療を行っても、ビダーザのような効果は現れないこともわかっています」
高リスク骨髄異形成症候群の治療として、新しい薬が開発中だが、これまでのところビダーザを超える成績は得られていない。
骨髄異形成症候群の治療は、エクジェイド、ネスプ、レブラミド、ビダーザといった薬が使えるようになり、ここ数年で大きく進歩した(図6)。これらの薬を適切に使うのが最良の治療である。
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