骨髄異形成症候群の最新治療 2つの顔を持つやっかいな病気。分子標的薬やサリドマイドの出現で希望も

監修:坂巻壽 都立駒込病院血液内科部長
取材・文:松沢実
発行:2006年10月
更新:2014年1月

予後を予測するIPSSのリスク分類

骨髄異形成症候群の治療方針は、FAB分類やWHO分類の病型分類と、予後を判定する国際予後判定システム(IPSS)に基づいて立てられる。

IPSSは、(1)骨髄における芽球の比率と、(2)骨髄細胞の核型、(3)血液中の3系統(赤血球、血小板、白血球)の血球減少の3項目について配点し、その合計点数から、個々の骨髄異形成症候群のリスクを低リスク、中間-1リスク、中間-2リスク、高リスクの4群に分けて予後を予測する。

「IPSSのリスク分類で急性骨髄性白血病へ移行する確率や生存期間中央値(全患者の生存のうち、真ん中の患者が生存した期間)が予測できるので、骨髄異形成症候群の1人ひとりの患者さんの具体的な治療法を立てるのに大いに役立ちます」(坂巻さん)

ちなみに、IPSSの核型とは、骨髄細胞の染色体の数と形態のことで、染色体異常の有無やそのタイプがわかる。骨髄異形成症候群はその約半数に核型の不良=染色体異常が認められ、染色体異常の有無やそのタイプによって予後も大きく異なってくる。

「骨髄異形成症候群は染色体異常が認められないケースや、染色体異常が認められても20番染色体長腕欠失やY染色体欠失、5番染色体長腕欠失のタイプは予後が良好です。一方、3個以上の染色体異常が認められる複雑型や、7番染色体に異常が見られるタイプは予後不良といえます」(坂巻さん)

[骨髄異形成症候群の国際予後判定システム(IPSS)]

予後因子の配点 0点 0.5点 1点 1.5点 2点
(1)骨髄での芽球 5%未満 5~10% 11~20% 21~30%
(2)核型 良好 中間 不良    
(3)血球減少 0/1系統 2/3系統      
(2)核型(染色体異常の有無とその種類)
  良好:正常、20q-、-Y、5q-
  中間:その他
  不良:複雑(3個以上)、7番染色体異常

(3)血球減少(白血球〈好中球〉、赤血球〈ヘモグロビン〉、血小板の3系統の血球減少の基準)
  好中球減少 1,800/μL以下
  ヘモグロビン 10g/dL以下
  血小板減少 10万/μL以下

リスク群 合計点数 生存期間中央値 急性骨髄性白血病移行率
低リスク 0 5.7年 19%
中間-1リスク 0.5~1.0 3.5年 30%
中間-2リスク 1.5~2.0 1.2年 33%
高リスク 2.5以上 0.4年 45%
IPSSは、(1)骨髄での芽球、(2)核型(染色体異常)、(3)血球減少に関してそれぞれ配点し、
その合計点数によって4つのリスク群に分ける


[骨髄異形成症候群の分類]

FAB分類 WHO分類
日本語名称
(仮称)
英語略 末梢血所見 骨髄所見 日本語名称
(仮称)
英語略 末梢血所見 骨髄所見
不応性貧血 RA 芽球1%未満
単球1×109/L未満
芽球5%未満
環状鉄芽球15%未満
不応性貧血 RA 貧血
芽球(-)
またはごくわずか
赤血球系の異形成のみ
芽球5%未満
環状鉄芽球15%未満
多系統の異形成を伴う不応性血球減少 RCMD 血球減少(2~3系統)
芽球(-)
またはごくわずか
Auer小体(-)
単球1×109/L未満
2系統以上で10%以上の細胞に異形成(+)
骨髄中芽球5%未満
Auer小体(-)
環状鉄芽球が総赤芽球の15%未満
鉄芽球性不応性貧血 RARS 芽球1%未満
単球1×109/L未満
芽球5%未満
環状鉄芽球15%以上
鉄芽球性不応性貧血 RARS 貧血
芽球(-)
環状鉄芽球15%以上
赤血球系の異形成のみ
芽球5%未満
鉄芽球増加がみられる多系統の異形成を伴う不応性血球減少 RCMD-RS 血球減少(2~3系統)
芽球(-)
またはごくわずか
Auer小体(-)
単球1×109/L未満
2系統以上で10%以上の細胞に異形成(+)
芽球5%未満
Auer小体(-)
環状鉄芽球が総赤芽球の15%以上
芽球増加を伴う不応性貧血 RAEB 芽球5%未満
単球1×109/L未満
芽球5~19%
Auer小体(-)
環状鉄芽球さまざま
芽球増加を伴う不応性貧血-1 RAEB-1 血球減少
芽球5%未満
Auer小体(-)
単球1×109/L未満
1~3系統で異形成(+)
芽球5~9%
Auer小体(-)
芽球増加を伴う不応性貧血-2 RAEB-2 血球減少
芽球5%未満
Auer小体(±)
単球1×109/L未満
1~3系統で異形成(+)
芽球10~19%
Auer小体(±)
        5q-症候群 5q-syndrome 貧血
血小板数は正常
または増加
芽球5%未満
低分葉核をもつ巨核球が正常または増加
芽球5%未満
染色体検査でdel(5q)の単独異常Auer小体(-)
        分類不能型MDS MDS-U 血球減少
芽球(-)
またはごくわずか
Auer小体(-)
赤血球系以外の1系統で異形成(+)
芽球5%未満
Auer小体(-)
移行期の芽球増加を伴う不応性貧血 RAEB-t   芽球20~29%
Auer小体(±)
環状鉄芽球さまざま
急性骨髄性白血病
慢性骨髄単球性白血病 CMML 芽球5%未満
単球1×109/L以上
芽球30%未満
環状鉄芽球さまざま
骨髄異形成/骨髄増殖性疾患

FAB分類では骨髄中の芽球の比率が30%以上ならば急性骨髄性白血病としていたが、WHO分類では骨髄中の芽球が20%を超えたら急性骨髄性白血病としたところに大きな違いがある。また、FAB分類のCMML(慢性骨髄単球性白血病)は骨髄異形成症候群から骨髄異形成/骨髄増殖性疾患という別の病気の範疇に移された。FAB分類のRAとRARS、RAEBは、WHO分類ではそれぞれ比較的軽いものと重いものの2つに細分化された。ほかに5q-という染色体異常を持つ骨髄異形成症候群は白血病化が起きにくく予後良好のため新たに1つのタイプとして括られ、どのタイプにも括られないものを分類不能型として分けた。


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