病型ごとに治療の開発が進む B細胞性リンパ腫

監修●丸山 大 国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科病棟医長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年2月
更新:2019年8月


びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)~再発後に自家移植を行うことも

DLBCLの限局期の場合は、R-CHOP療法を3コース行ったあと放射線治療をする方法と、R-CHOP療法を6~8コース行う方法のどちらも標準治療となっている。腫瘤の部位や広がり具合、化学療法が適応できるかどうかなど、患者の状態に合わせて選択される。進行期はR-CHOP療法を6~8コース行う。

R-CHOP療法を行うと、8割近くの人は完全寛解(CR)となる。初回治療でCRと判定されたら、あとは経過観察となる。

CRにならなかった場合や、CRになったが再発した場合は、R-CHOP療法とは異なる薬剤を組み合わせで化学療法を行う。この治療をサルベージ療法(救援化学療法)という。サルベージ療法で効果が得られた患者さんでは、引き続き自家移植を行う。自家移植では大量の抗がん薬を投与するため、その対象が若年者に限られる。

若年者=一般的には65歳以下

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)~DLBCLの新たな治療の動き

❶投与スケジュールの変更

DLBCLの新しい動きを3つ紹介する。まず、リツキサンの投与スケジュールの変更だ。

これまでの投与スケジュールでは、CHOP療法の投与に合わせて3週に1回リツキサンを投与していたが、それよりもリツキサンを毎週投与して血中濃度を上げたほうが、治療効果が上がるのではないかという第Ⅲ(III)相試験が日本で行われている。リツキサンは副作用の少ない薬剤なのでできることだという。再発までの期間を延ばすなど良好な結果が得られれば、標準的な投与スケジュールが変わることもあり得る。

❷新たな薬剤の組み合わせ

R-CHOP 療法に替わる化学療法も開発中。1つは抗がん薬の組み合わせだ。EPOCH療法(ラステット、オンコビン、エンドキサン、アドリアシン、プレドニン)にリツキサンを加えた治療法(EPOCH-R療法)とR-CHOP療法との比較試験が米国で施行され、登録が終わった段階にある。しかし、丸山さんはハードルの高さを指摘する。

「医療機関にもよりますが、R-CHOP療法は初回のみ入院すれば、あとは外来で行うことが可能です。ところがEPOCH-R療法は、半年近く入院しなければなりません。患者さんの負担を考慮すれば、臨床試験の結果でよほど効果の差が出ないと標準治療と入れ替わるのは難しいでしょう」

❸遺伝子タイプによる研究

DLBCLは、少なくとも3種類の遺伝子学的サブタイプ(胚中心B細胞型=GCB型、���性化B細胞型=ABC型、原発性縦隔大細胞型=PMBCL型)があることが確認されている。分子標的薬のibrutinib(イブルチニブ) は、GCBではないタイプ(nonGCB)の遺伝子を持つDLBCLに対し、がん細胞増殖のシグナル伝達を阻害する可能性が指摘され、世界各地で臨床試験が行われている。

ラステット=一般名エトポシド ibrutinib(イブルチニブ)=商品名Imbruvica(インブルビカ)

濾胞性リンパ腫(FL)~無治療経過観察も選択肢の1つ

非ホジキンリンパ腫の中で、DLBCLの次に多いのが、濾胞性リンパ腫(FL)だ。患者数は増加傾向にある。

「FLは進行が遅いタイプ(低悪性度)で、多くの患者さんは自覚症状のないまま進行し、診断時が限局期であることは少ないです。また、DLBCLのような標準治療はありません。化学療法がよく効くものの、いずれ再発してしまいます」

FLでは、腫瘍量や臓器障害(骨髄浸潤による貧血など)などで治療法を判断する。高腫瘍量であれば、R-CHOP療法あるいはR-CVP療法(R-CHOP療法からアドリアシンを除いた療法)がよく行われる。低腫瘍量であれば、無治療経過観察か、リツキサン単独療法を行うことが多い。

「実臨床の印象では、副作用の少ないリツキサンが登場してから、以前より経過観察は減ってきているように感じますが、腫瘍量が少なく、無症状の患者さんでは数年にわたり無治療経過観察が可能の方が少なくないです」

また、FLはDLBCLに変化することがある。その場合にはDLBCLの治療が行われる。

濾胞性リンパ腫(FL)~新薬の開発とFLの支持療法

リツキサンとは作用機序の異なる新規の抗CD20抗体Gazyva(ガジーバ)の開発が進み、DLBCLとFLの両方を対象にリツキサンとの比較試験が行われている。試験の結果によっては、ガジーバがリツキサンに取って代わるかもしれないという。

また、FLの治療では、維持療法としてのリツキサンの使用も注目されている。リツキサンを併用した化学療法の終了後、さらに2カ月ごとにリツキサンを12回、2年間使っていく方法だ。

「リツキサンは長く体内に残る薬なので、ある程度濃度が保たれます。この方法により、再発までの期間が有意に延長したという報告があります」

Gazyva(ガジーバ)=一般名オビヌツズマブ

マントル細胞リンパ腫(MCL)~ベルケイドを使った新たな治療法

マントル細胞リンパ腫(MCL)は中悪性度のB細胞性リンパ腫で、日本人の発症頻度は全悪性リンパ腫の3%前後。発症年齢中央値は60歳代半ばで男性に多い。

65歳以下と高齢者とでは治療法が異なり、65歳以下の場合は強い化学療法で効果が認められたあと、自家移植が行われる。一方、高齢者の場合はR-CHOP療法が行われる。

2015年6月から、多発性骨髄腫(MM)の治療で使われているベルケイドが使えるようになった。VR-CAP療法という新たな治療法で、R-CHOP療法のオンコビンとベルケイドを入れ替えた組み合わせだ。

R-CHOP療法とVR-CAP療法を比較した臨床試験では、VR-CAP療法は無増悪生存期間を有意に延長している。

「VR-CAP療法は高齢者のMCLに対する標準治療になりました。ただ、この療法は、3週間で5回の来院が必要になるため、3週間で2回の来院で済むR-CHOP療法に比べると、使いやすい治療法とは言い難い点が問題です」

最後に、丸山さんはB細胞性リンパ腫のここ数年の治療法について、「かつては薬の強さが追求されていましたが、ここ数年でこれまでとは全く違ったタイプの新薬の開発が進み、副作用を軽減して治療効果を高めることが求められています。今後もこの傾向が続くでしょう」と語った。

ベルケイド=一般名ボルテゾミブ

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