悪性リンパ腫治療の最近の動向
新しい試み~R-CHOPにもう一薬
新しい治療法の試みも行われている。「一部の遺伝子学的サブタイプに対して、R-CHOPにもう一剤加えることが世界中の臨床試験で検討されています。例えば、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬の*インブルビカ、骨髄腫治療で使われている*レブラミドなどを上乗せすることで治る患者さんの割合が増えるのではと考えられていますが、結果はまだ出ていません」
●濾胞性リンパ腫 無治療経過観察も大きな選択肢
濾胞性リンパ腫は、低悪性度のインドレントリンパ腫だ。「ちなみにインドレントとは怠けるという意味で、悪性腫瘍の本分が大きくなることだとすると、その本分を怠けてあまり急に大きくならない、という意味です」
リンパ節が腫れる以外は発熱、体重減少などの自覚症状が出にくいので、知らないうちに進行しており、多くの場合、診断されるときにはステージⅢかⅣの進行期に当たる。健康診断や人間ドックでの腹部超音波検査で腫瘍が指摘されたことが受診の契機になることもしばしばだという。
初回治療としてはいろいろな選択肢があり、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫のほとんどでR-CHOPが行われるのとは状況が違う。「診断されたときに症状が全くなくて腫瘍量がそれほど多くない場合には、治療をしないで定期的にCT(コンピュータ断層撮影)を実施しながら、経過観察していき、症状が出たり、病変が大きくなったりした場合に治療を開始するというやり方も非常に一般的です。これはウォッチフル・ウェイティング(無治療経過観察)と呼ばれています」。この段階では、リツキサン単剤療法も選択肢になる。
次に非常に大きい腫瘤(しゅりゅう)があったり、リンパ節の腫れが尿管や静脈などの臓器を圧迫して水腎症(すいじんしょう)や浮腫を起こすなど問題を生じている場合には、R-CHOP、あるいはそこから最も効果と副作用が強いアドリアシンを抜いたR-CVP治療を行う。
最近の動きとしては、*トレアキシンとリツキサンを併用するBR療法が、濾胞性リンパ腫の初回治療として適応拡大の承認を受けた。「BR療法は寛解率や無増悪生存期間(PFS)において、R-CHOPとほぼ同等の治療効果があります。異なる点としては副作用としての脱毛が少ない、末梢神経障害がないといったことがあげられます。ただしBR療法に特徴的な副作用もあり、悪心やリンパ球減少の程度が強いことから現れるニューモシスチス肺炎というような日和見(ひよりみ)感染症を起こしたりします」
*インブルビカ=一般名イブルチニブ *レブラミド=一般名レナリドミド *トレアキシン=一般名ベンダムスチン
リツキサン維持療法も
「症状がなくて腫瘍量が少なければ、半数以上は無治療経過観察を選びます。以前はそのような患者さんにもリツキサン併用化学療法を多くの病院で勧めていたと思いますが、今はそこまでやるところは少なくなっています。そして、濾胞性リンパ腫は早い時期に強力な治療を行ったとしても残念ながら治癒させることはできません。症状がなく治療の必要がない状態で、切り札となる大事な薬剤を使ってしまわないようにという意味合いもあります」
そして、化学療法後の維持療法としてリツキサンを用いることが出来るようになった。化学療法が終わった後に病変が小さくなったのを確認して、概ね2カ月に1回、2年間定期的にリツキサンだけを投与する方法だ。再発を先送りにする効果がある。
●MALTリンパ腫 ピロリ除菌により1週間治療で治癒も
MALTリンパ腫は、「節外性辺縁帯リンパ腫モルト型」というのが正式な名称。リンパ節以外の臓器に出るのが特徴で、胃や唾液腺、甲状腺、目の周囲、皮膚などの節外臓器に病変が出て来る。
胃に発生することが一番多いが、多くのケースでピロリ菌が原因なので、その除菌治療を行う。プロトンポンプ阻害薬(胃酸分泌抑制薬)と抗菌薬2種類を1週間服用することによって、半数以上が治癒する。ピロリ菌陰性の場合は胃の放射線治療をすることで多くが治せる。胃以外のMALTリンパ腫では、1カ所に限局しているならば切除や放射線治療が行われる。
●マントル細胞リンパ腫 治療に大きな進歩
マントル細胞リンパ腫(MCL)はアグレッシブリンパ種で、治療なしだと数カ月の単位で病変が大きくなる。診断されたらすぐ治療を始めるが、化学療法では治し切ることはできない。
治療では、自家移植が可能な患者とできない患者に分け、70歳以上など高齢の場合はR-CHOPや、R-CHOPのオンコビンと*ベルケイドを入れ替えたVR-CAP療法、BR療法などが行われる。そして、その後にリツキサン維持療法をすることで生存期間が延びることが分かっている。
若い患者では、高用量の*キロサイド療法を含むような寛解導入療法を行ない、自家移植を行う治療が良いとされている。
また近年は再発・難治のMCLに対してインブルビカの適応拡大が承認をされており、効果が高く、予後を改善する可能性がある。
●希少型にも新薬登場
リンパ腫全体の6~7%に当たるホジキンリンパ腫(HL)にも新薬が登場し、治療が変わって来ている。分子標的薬*アドセトリス、免疫チェックポイント阻害薬*オプジーボが承認された。再発難治の患者には大きな朗報となる。
末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)にも新薬の動きがある。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬など3薬の承認申請が出されている。HDAC阻害薬*ロミデプシン(一般名)、葉酸拮抗薬*プララトレキサート(同)、PNP(プリンヌクレオシドホスホリラーゼ)阻害薬*フォロデシン(同)だ。予後が悪いところに選択肢が増えることに期待が集まっている。
*ベルケイド=一般名ボルテゾミブ *キロサイド=一般名シタラビン *アドセトリス=一般名ブレンツキシマブ ベドチン *オプジーボ=一般名ニボルマブ *一般名ロミデプシン=開発中(承認申請中) *一般名プララトレキサート=開発中(承認申請中):米国での商品名FOLOTYNフォロチン *一般名フォロデシン=開発中(承認申請中)
医師からきちんとしたと説明を
伊豆津さんは「インターネットを中心に様々な情報が溢れており心配も増えますが、医師からよく説明を聞いて、病気をよく知った上で前向きに治療することをお勧めします。新薬や適応拡大が増える見込みにあり。それも希望につながります」と話している。