これまで薬のなかったT細胞リンパ腫にも、もうすぐ新たな薬が あきらめない!新薬登場続く悪性リンパ腫の治療

監修:新津望 埼玉医科大学国際医療センター造血器腫瘍科教授
取材・文:半沢裕子
発行:2012年4月
更新:2019年7月

悪性リンパ腫の治療の基本は薬物療法

[治療はこうして決める]
治療はこうして決める

病型によって治療が変わる悪性リンパ腫。どの病型であるかに加え、また患者さんの年齢、全身状態をよく考慮して治療法を決める

ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫のいずれも、基本は薬物療法だ。リンパ球が腫瘍化する悪性リンパ腫では、明らかな浸潤が見られない場合でも、腫瘍細胞がほかの場所に広がっている可能性があるからだ。一般的には単独での放射線治療や手術は行われない。自家骨髄移植(自家造血幹細胞移植)は、再発して薬物療法を受け、寛解になった患者さんが対象で、あくまでも強い抗がん剤治療のサポートとして行われる。

ホジキンリンパ腫の標準治療はABVD療法()という抗がん剤の併用療法で、4週ごとに4~8コースを投与する。

最近は治療効果と副作用を考慮し、薬剤の量や組み合わせを変えた臨床試験がドイツで行われている。

「1~2期のホジキンリンパ腫の人は、治療をすれば80~90%は寛解になります。その場合、患者さんの治療後の生活も考えて、副作用などを考慮する必要があります」

一方、悪性リンパ腫の大多数を占める非ホジキンリンパ腫では、標準治療はCHOP療法()と呼ばれる抗がん剤の併用療法を3週ごとに6~8コース行う。

ただし最近は、B細胞リンパ腫、とくにびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対しては、CHOP療法に分子標的薬リツキサン()を併用したR-CHOP療法が標準治療になりつつある。リツキサンはB細胞リンパ腫に出るCD20という抗原を目印にして、腫瘍化した細胞を攻撃する薬だ。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の高齢者(60~80歳)に対して行った比較試験では、完全奏効割合がCHOP療法で63%、R-CHOP療法では75%、2年生存割合は57%対70%とCHOP療法にリツキサンを併用したほうが良いという成績が出ている。

[びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対するR-CHOP療法の効果]
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対するR-CHOP療法の効果

び���ん性大細胞型B細胞リンパ腫にはR-CHOP療法が標準治療である。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の高齢者(60~80歳)に対して行った比較試験では、CHOP療法よりR-CHOP療法のほうが完全奏効になる割合が高かった

ABVD療法=アドリアシン(一般名ドキソルビシン)+ブレオ(一般名ブレオマイシン)+エクザール(一般名ビンブラスチン)+ダカルバジン(一般名同じ)
CHOP療法=エンドキサン(一般名シクロホスファミド)+アドリアシン(一般名ドキソルビシン)+オンコビン(一般名ビンクリスチン)+プレドニゾロン(一般名・商品名同じ)
リツキサン=一般名リツキシマブ

新しい薬が続々登場これを上手に使うには

それでも、CHOP療法やR-CHOP療法のあと、再発・再燃してしまうB細胞リンパ腫の患者さんもいる。そうした患者さんのうち、「再発または難治性の低悪性度B細胞非ホジキンリンパ腫、および、マントル細胞リンパ腫」に対し、ここ数年、新薬が次々保険認可されている。

フルダラ()は国内第2相試験で、全奏効割合が65%、完全奏効割合30%という結果が出ている。「そこにリツキサンを加えた試験では、全奏効割合76%、完全奏効割合68%、病気の進行がとまった無増悪生存期間は20カ月という好成績です。飲み薬で、5日間飲んで23日休むという投与サイクルも患者さんには楽。

ただフルダラは、R-CHOP療法後にすぐ再発してしまった人には効果は限られますし、感染症などに注意が必要です。また、何回も化学療法を受けている人は効果が低くなります」

ゼヴァリン()は放射性同位元素(放射性物質)がついた薬で、体内でCD20に取りついてβ線を放射し、リンパ腫細胞を破壊する。放射性物質を含む薬剤であるために取り扱いが難しく、特定の施設でしか治療は受けられない。費用も高額だが、

「治療はたった1回のみで完了します。入院も10日~2週間ですみます。しかし必ず根治するなら価値はありますが、1~2年で再発することもありますし、治療回数の多い人や治療で骨髄の機能が落ちている人には効果が高くなく、骨髄抑制()などの副作用も少なくありません」

発売後1年たったトレアキシン()はさらに画期的だ。

「国内第2相試験で、再発、再燃の低悪性度のろ胞性リンパ腫に対して全奏効割合90%、完全奏効割合69%という結果です。そのうえ、予後の悪い再発、再燃のマントルリンパ腫で、17例ながら全奏効割合が何と100%でした。また、ドイツでは初発の低悪性度B細胞リンパ腫に対して、リツキサンを加えたR-トレアキシン療法とR-CHOP療法を比べた試験が行われ、R-CHOP療法より優れた結果が出て、今後低悪性度リンパ腫の治療を変える可能性があります」

問題は、再発に対して、これらの薬をどう使っていくかだと新津さんはいう。

「再発したとき、どの薬を使うかはケースバイケース。高齢で経口薬がいい人はフルダラ、仕事を持っていて1回で治療を終えたい人はゼヴァリン、免疫不全が起こりやすく、点滴で2日間かかるから大変だけれど、治療成績がいいのでトレアキシンと、ある程度患者さんの状況に合わせて選ぶことができます」

フルダラ=一般名フルダラビン
ゼヴァリン=一般名イブリツモマブ
骨髄抑制=がん治療で抗がん剤、放射線治療などにより、一定期間、骨髄の造血態が障害される状態
トレアキシン=一般名ベンダムスチン

薬をうまく使うことで長期生存を望める

臨床試験の行われている新薬はまだまだあるという。

「リツキサン以外でCD20という抗原を目印にしてがん細胞を攻撃する抗体薬、それ以外にも分子標的薬などがあります。新薬が毎年のように出て、これだけ治療が進んでいる分野はないと思います。適切な治療を受ければ寛解になり、再発してもいろいろな手段がある。あきらめずにがんばりましょうと、患者さんにお話ししています」

また、これまで薬のなかったT細胞リンパ腫に対する薬も登場しそうだ。CCR4という抗原をもつT細胞リンパ腫に作用する薬は、年内発売ともいわれている。

ただし気をつけたい点も。

「低悪性度リンパ腫で再発し腫瘍が少しでも大きくなると、すぐ次の薬を使ってしまう。そうすると治療手段は限られていますし、副作用も強く出るので、次の治療方法がなくなることもあります。ろ胞性リンパ腫などは主治医と相談し、注意深く定期的に診察や検査を受けて、待てるなら待ってから次の薬を使えば、20年30年生きられる可能性がある。たとえ体内にリンパ腫細胞が残っていても、長生きできればいいんです。高血圧や糖尿病も完治はしませんが、薬で病勢がコントロールできる。だから、悪性リンパ腫も長期的な治療の中で上手に薬剤を使っていくことが大切だと思います」


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