進行別 がん標準治療 分子標的薬の出現で大きく飛躍した悪性リンパ腫の治療法

監修:堀田知光 東海大学医学部長
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2005年10月
更新:2019年7月

非ホジキンリンパ腫の治療

B細胞かT細胞かで分けるのがポイント

日本人の悪性リンパ腫の大多数を占めるのが、非ホジキンリンパ腫です。これには30種類以上ものタイプがあるのですが、まず非常に未熟な細胞ががん化したものか、すでに成熟した細胞ががん化したものかで分類します。リンパ球は骨髄にある未熟な細胞が成長(これを分化といいます)して、成熟した1人前のリンパ球になります。そのどの段階でがん化しているかをみるわけです。未熟なものは、芽球性といって急性白血病とほぼ同じだそうです。

さらに、成熟したリンパ球ががん化したものは、「かつては悪性度によって治療方針が考えられていましたが、最近はがん化したリンパ球がB細胞なのか、T細胞なのかで分けて考えるのが一般的」だそうです。B細胞かT細胞かが重視されるようになったのは、あとでお話しするようにリツキサン(一般名リツキシマブ)という分子標的治療薬が登場したためです。

B細胞は抗体を作るリンパ球で、病原菌を駆逐したり、アレルギーにも関与しています。T細胞は、細胞性免疫を担当し、キラーT細胞などのリンパ球が直接異物の排除に働いています。移植による拒絶反応もT細胞によるものです。これとよく似たリンパ球にナチュラルキラー細胞(NK細胞)があります。

[濾胞性リンパ腫]
濾胞性リンパ腫

[びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫]
びまん性大細胞型B胞性リンパ腫

B細胞ががん化したのが、びまん性大細胞型リンパ腫やバーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫などです。一方、T細胞ががん化したリンパ腫には、成人T細胞リンパ腫やリンパ芽球性リンパ腫などがあります。

下の表のように、MALTリンパ腫や濾胞性リンパ腫は進行が遅くて何年もの間あまり進行しない悪性度の低いがんです。これに対して、バーキットリンパ腫や成人T細胞型リンパ腫は週単位で悪化していく極めて悪性度の高いがんです。その中間にあたるのが、びまん性大細胞型リンパ腫やマントル細胞リンパ腫です。これは、月単位で進行していきます。このように、ひと口に悪性リンパ腫といっても、その性質はかなり違うのです。

この中で、日本人に一番多いのはびまん性大細胞型リンパ腫で、悪性リンパ腫の35パーセントを占めます。このびまん性大細胞型リンパ腫をはじめ、B細胞ががん化したものには、リツキサンという薬を併用した治療を行うのが現在の標準治療です。

リツキサンは、分子標的治療薬と呼ばれるタイプの抗がん剤です。従来の抗がん剤が、細胞に対する毒性でがん細胞を攻撃したのに対し、分子標的治療薬は特定の目標にターゲットをしぼって攻撃します。リツキサンの場合は、B細胞の表面にあるCD20という細胞の目印(抗原)を標的に、攻撃する抗体です。したがって、「画像診断で、リンパ節が腫れているから悪性リンパ腫らしいといった程度の判断では、治療はできないのです。まず生検でリンパ腫であることを確認し、リンパ腫であれば、B細胞なのかT細胞のがんなのかを調べ、さらにB細胞でもCD20が陽性かどうかを確認した上でなければ、治療は始められないのです」と堀田さんは語っています。実際にはB細胞の悪性リンパ腫にはたいていCD20がある、つまり陽性だそうです。

[非ホジキンリンパ腫の悪性度]
悪性度 B細胞性 T(NKを含む)細胞性
低悪性度/慢性
(年余にわたる経過)
小細胞性
MALT
濾胞性(グレード 1、2、3a)
菌状息肉症
高悪性度
(月単位の経過)
形質細胞腫/骨髄腫
マントル細胞
濾胞性(グレード 3b)
びまん性大細胞型
末梢T細胞性
血管免疫芽球型
NK/T細胞性鼻型
未分化大細胞型
高々悪性度/急性
(週単位の経過)
リンパ芽球型
バーキット(非定型を含む)
リンパ芽球型
成人T細胞性

リツキサン

CD20というB細胞上の抗原を標的にとりつく抗体です。抗原は、細胞の目印のようなもので、病原菌などが侵入した場合にも、病原菌の抗原に抗体がとりついて、駆逐します。これが、抗原抗体反応です。

B細胞にCD20という抗原があることは、1980年代の初めにはわかっていました。そこで、すぐにCD20に対する抗体が作られたのですが、当初はなかなかうまくいきませんでした。ネズミで作った抗体なので、人間の体内に入ると異物として破壊されてしまい、効果がなかったのです。

そこで、遺伝子操作によってネズミの抗体の95パーセント以上をヒト型に変えたのが、リツキサンです。

従来の抗がん剤のような副作用はほとんどなく、CD20陽性のB細胞型の悪性リンパ腫の治療成績を向上させた画期的な分子標的治療薬です。ただし、この種の薬は非常に高価です。治療を受けるときには、病院で領収書や証明書をもらえば、医療費控除の手続きをとることができます。

B細胞の悪性リンパ腫

進行期の標準治療はR-CHOP療法

限局型のびまん性大細胞型リンパ腫

日本人に最も多く、非ホジキンリンパ腫の典型ともいえるのが、びまん性大細胞型リンパ腫です。非ホジキンリンパ腫の場合も、ホジキンリンパ腫と同じように、病気の広がり方によって病期が決まります。

限局型の場合は、3種類の抗がん剤とホルモン剤を1つ〔エンドキサン(一般名シクロホスファミド)、アドリアシン、オンコビン(一般名ビンクリスチン)、プレドニン(一般名プレドニゾロン)〕組み合わせたCHOP療法を3週ごとに3コース繰り返したあと、放射線を病変のある局所に照射します。この治療法で「5年生存率は70パーセントを超える」そうです。

一方、進行期になると、これまではCHOP療法を8コース繰り返すのが標準的でした。しかし、現在はB細胞性のものであれば、CHOP療法にリツキサンを加えたR-CHOP療法を行うのが標準治療になっています。CHOP療法は8コース行われますが、その初日か前日にリツキサンを加える方法です。堀田さんによると「リツキサンを加えることで、3年生存率が60パーセントから75パーセントぐらいに上がることが明らかにされている」そうです。

リツキサンは、従来の抗がん剤とは異なり、吐き気や脱毛、白血球減少といった副作用はほとんどないので、CHOP療法に加えても副作用が助長されることはなく、効果だけを上乗せするそうです。そういう点でも画期的な治療薬です。

ただ、アレルギーなどが起こることはあり得るので、初回の投与時は入院で慎重に観察が行われます。

[限局型の中・高悪性度非ホジキンリンパ腫の治療法]
限局型の中・高悪性度非ホジキンリンパ腫の治療法
[進行期の非ホジキンリンパ腫の治療法]
進行期ホジキンリンパ腫の治療法
他のB細胞の非ホジキンリンパ腫

他の非ホジキンリンパ腫には、びまん性大細胞型リンパ腫ほどのデータの蓄積はまだありません。しかし、B細胞ががん化したタイプであれば、リツキサンを加えることで効果が上乗せされると期待されています。

「奏効率ではリツキサンを加えると明らかに効果があります。しかし、それが延命につながるかどうかはまだわかっていない」と堀田さん。びまん性大細胞型リンパ腫の場合は、奏効率が予後と一致するので、奏効率が延命の指標になるそうです。しかし、濾胞性やMALTリンパ腫などゆっくりと進行するものでも、病巣の縮小が延命につながるのかどうかは、まだわからないのです。


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