進行別 がん標準治療 分子標的薬の出現で大きく飛躍した悪性リンパ腫の治療法
標準治療も効果がないリンパ腫
●濾胞性リンパ腫
悪性度は低く、進行は遅いのですが、抗がん剤の効果は十分とはいえない状態です。堀田さんによると、「従来の化学療法による生存期間の中央値は6~7年です。しかし、リツキサンを加えると縮小効果はあるので、延命も期待されていますが、まだ検証は行われていない」といいます。リツキサンが濾胞性リンパ腫の治療に認可されてまだ4年、延命効果に期待が集まっていますが、これを証明するにはまだ時間が必要なのです。

4期の濾胞性リンパ腫
女性、55歳の治療前。
腸間膜リンパ腫が一塊となして腫れている

治療跡のCT。R-CHOP療法が効いて
リンパ節は消失している
●MALTリンパ腫
胃に発生することが多く、おとなしいタイプのリンパ腫です。このリンパ腫は、胃の粘膜にすむヘリコバクター・ピロリという細菌との関係が強く、現在はピロリ菌の除菌治療が第1選択とされています。これで効果がなかった場合に、化学療法が行われます。
●マントル細胞リンパ腫
悪性リンパ腫の3~5パーセントを占め、月単位で進行します。堀田さんによると、このリンパ腫は「見かけはおとなしいのですが、白血病になったり、脾臓が腫れたりするタチのよくないリンパ腫」だといいます。リツキサンを加えたR-CHOP療法では効果に乏しいというのが、専門医の見解です。そこで、他の化学療法としてフルダラ(一般名フルダラビン)にリツキサンを併用する化学療法が期待されています。ただし、フルダラはまだ日本では認可の申請中だそうです。
もう1つ、期待されているのがゼバリンといってネズミのモノクローナル抗体にイトリウム90という放射性同位元素を乗せたものです。これは、リツキサンと同じようにB細胞上のCD20に取りつきます。しかし、この場合は抗体に乗せたイトリウム90ががん化したリンパ球を攻撃することが目的です。つまり、CD20に取りつく抗体を、放射性同位元素の運び屋として利用するわけです。
「リツキ��ンの場合は、CD20陽性のB細胞にしか効果がありません。しかし、実際にはがん化したB細胞全てにCD20があるかどうかはわからないのです。その点、ゼバリンは、放射性同位元素が周囲のがん化したB細胞まで攻撃するのが、利点です」と堀田さんは語っています。リツキサンに十分反応しないリンパ腫や治療後再発した場合でも60パーセントに効果があるというのも大きな魅力です。
アメリカでは、ヨード(I-131)を乗せたベクサーという治療薬も認可されているそうです。日本では、ゼバリンの治験が終わり、これから治療薬としての認可を申請する段階です。堀田さんによると、1~2年の間には承認を得られる、と見られているそうです。
T/NK細胞の悪性リンパ腫
大量抗がん剤に末梢血幹細胞移植の組み合わせも
「悪性リンパ腫の中でも、いまだに治療が難しいタイプです」と堀田さんが語るのが、T細胞ががん化した非ホジキンリンパ腫です。わが国では悪性リンパ腫の約25パーセントを占めます。従来のCHOP療法ではなかなか効果が上がらず、かつそのCHOP療法を超える化学療法がないのが現状なのです。
そこで、末梢血幹細胞移植を行って、大量の抗がん剤で強力にがん細胞を攻撃するという方法も行われています。強力な化学療法を行うと、赤血球や白血球をつくり出す造血幹細胞が傷害されて重大な副作用を起こすので、これを末梢血幹細胞移植で修復するわけです。
●NK/T細胞性鼻型リンパ腫
日本も含めてアジア地域では、NK/T細胞性鼻型リンパ腫が多い、悪性リンパ腫です。これは、T細胞やその仲間であるナチュラルキラー細胞ががん化したもので、鼻が腐っていくリンパ腫です。これには、CHOP療法も効果がなく、放射線だけでも効果はありません。そのため、日本ではCHOP療法と放射線の併用を行っていますが、CHOP療法以外の効果的な化学療法が求められるところです。
そこで、堀田さんらはデカドロン(一般名デキサメタゾン)、ラステット(一般名エトポシド)、パラプラチン(一般名カルボプラチン)という3剤併用療法と放射線治療の同時併用を開発中です。これはCHOP療法が効かなくなったものにも効果が期待され、現在臨床試験が行われています。
●成人T細胞性リンパ腫
成人T細胞白血病ウイルスの感染と関係があり、感染者の1~2パーセントが発病すると言われています。これにもいくつかの種類があり、慢性型やくすぶり型は、放置しても長期に生存する人もいます。これに対して急性型やリンパ腫型はCHOP療法も効かず平均的な生存期間は7カ月と厳しいのが現状です。
そこで、いろいろな抗がん剤を組み合わせた結果、生存期間の平均は7カ月から1年まで伸びています。ここで使われたのは、アドリアシン、ラステット、パラプラチンなどを含む多剤併用療法の交代療法だそうです。日本での臨床試験でも、CHOP療法を2週間ごとに短縮して行うよりも、こうした多剤併用療法のほうが効果が高いと結論されています。
ただし、「延命効果は決して高いものではなく、ブレークスルーにはなっていないのです」と堀田さんは述べています。そのため、成人T細胞性リンパ腫でも、造血幹細胞移植が考えられています。
再発リンパ腫と治療
ホジキンリンパ腫でも、非ホジキンリンパ腫でも、再発すると治療は難しくなるので、救援化学療法を行い、これで効果があった場合はそのあとで自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法を行うのが標準とされています。
この救援化学療法はヨーロッパで開発されたESHAP療法(最近日本で認可された)などがありますが、造血幹細胞を集めやすいとの理由で、日本ではCHASE療法が行われます。これは、エンドキサン(一般名シクロホスファミド)、ラステット、キロサイド(一般名シタラビン)、デカドロンを組み合わせた方法で、3週間ごとに3~5コースを行います。多くの再発性リンパ腫に奏効する、つまりがんを縮小させる効果が高いことが示されています。また造血幹細胞の採取効率も優れています。その後にさらに強力な化学療法を行い、骨髄の傷害を回復させるために自家造血幹細胞移植を行います。
CHOP療法の副作用
化学療法の多くがそうであるように、CHOP療法の場合も、赤血球や白血球(好中球)、血小板の減少などが起こります。そのため、全ての患者さんが貧血を起こしますが、輸血が必要になることはほとんどないそうです。とくに、白血球が減少して病原菌などに感染しやすくなるので、治療によって白血球を増やすと同時に、患者さんも感染に注意が必要です。化学療法も現在は、通院で行われることが多いので、うがいや手洗いを敢行し、人込みをさけ、外出時にはマスクをする。なまものや調理してから時間がたったものは避けるといった注意をしましょう。発熱があれば、ただちに担当医に連絡が必要です。
この他出血性膀胱炎を予防するためにできるだけ水分をとるようにします。オンコビンの副作用で、手足の先にしびれが出ることがありますが、これは治療が終わればゆっくりと回復します。便秘も予防のために緩下剤を投与しますが、それでも便秘がひどければ下剤を投与します。アドリアシンには心臓毒性があるので、治療前はもちろん治療中も心臓のチェックが行われます。CHOP療法では皆無とはいえませんが、命に係わるような重い副作用はほとんどないそうです。
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