渡辺亨チームが医療サポートする:悪性リンパ腫編

取材・文:林義人
発行:2005年2月
更新:2013年6月

悪性リンパ腫4期といっても、正しい治療で予後は改善される

堀田知光さんのお話

*1 リンパ節とは

血液が流れるルートは、大動脈から毛細血管まで、全身にくまなく張りめぐらされています。一方、体にはリンパ管という血管よりもっと細くて軟らかい管が、もう一つ張りめぐらされており、その中を透明なリンパ液がゆっくりと循環しています。リンパ液には腸から吸収された脂肪分や、血管から漏れ出た水分が含まれています。

また、リンパ管は血管とつながっていて、血液の中の白血球のうち、細菌やウイルスなどの感染と戦う働きを受け持つリンパ球の一部は、リンパ管を通って戻っていきます。リンパ管はリンパ節という器官で合流していきますが、リンパ節はリンパ液の中を流れている異物や細菌などをせき止めるフィルター役も果たします。リンパ節は体の中に全部で数百個ありますが、特にわきの下、頸部、鼠径部(足のつけ根)、腹部、骨盤部に集まっています。

[主なリンパ節の場所とリンパ液の流れ]

人体イラスト

(1)頸部(けいぶ)リンパ節
  首のほぼ全域

(2)ターミナス
  鎖骨の上、全身から戻ってきた
  リンパ節が血管に合流する最終地点

(3)腋窩(えきか)リンパ節
  わきの下

(4)鼠蹊(そけい)リンパ節
  脚の付け根

(5)膝窩(しっか)リンパ節
  ひざの裏側


*2 リンパ節が腫れる病気

リンパ節は普通、小さくて皮膚の上からさわってもわかりません。ところが、風邪をはじめとする感染症にかかったりけがをすると、リンパ節が腫れてきます。これは細菌やウイルスがリンパ液の中に入り込んできてリンパ節の中でせき止められ、ここへ外敵と戦う白血球やリンパ球が集まってきます。これらの免疫細胞が戦っていることを示すものとしてリンパ節の腫れが出てくるのです。下の表のような病気の場合に、リンパ節に腫れが生じます。腫れがどんどん大きく(2センチ以上)、硬くなってきたり、数が増えてきたり、痛んだり、発熱など他の症状が出てきたりする場合は、病院を受診してください。

[リンパ節が腫れる病気]
細菌感染 上気道炎や扁桃腺炎などの病気で、細菌がリンパ節の中で白血球などの攻撃に打ち勝って起こる腫れです。早めに抗生剤による治療��必要です。
ウイルス感染 細菌感染による化膿性の腫れに比べ、発熱と痛みは小さく、通常、複数のリンパ節が腫れています。抗生剤は効きませんが、時間が経つと自然に腫れは治まってきます。
結核感染 普通の抗生剤で効果がなく、リンパ節の腫れが長引きます。疑いがあればツベルクリン反応検査をする必要があります。
原因不明 亜急性壊死性リンパ節炎といって、発熱を伴い、首のリンパ節が腫れて痛み、時間とともに自然に治まってくることがあります。
猫ひっかき病 猫にひっかかれるか、接触すると、バルトネラという細菌の感染により、その部位に発疹を生じ、近くのリンパ節が腫れて痛むことがあります。
悪性リンパ腫、白血病などの悪性腫瘍 リンパ節の腫れが親指の頭大を超えてさらに大きくなることがあり、しこりはさわると動きますが、押さえても痛みません。また時には他のリンパ節も腫れてきます。疑いが出れば、リンパ節生検をして診断をつけます。
他のがんからの転移 他の臓器に原発して、リンパ節に転移した場合は、とても硬くてさわっても動かないしこりができます。
川崎病、伝染性単核症、若年性関節リウマチ、風疹など 全身の症状の1つとしてリンパ節が腫れます。他の症状のほうが目立つため、リンパ節の腫れが主訴になることはまれです。
リンパ節の腫れではないのに間違いやすいもの おたふくかぜや皮膚の下の深い部分が化膿した蜂窩織炎など、耳下腺や顎下腺の腫れが、リンパ節の腫れと紛らわしいことがあります。

*3 悪性リンパ腫とは

悪性リンパ腫は、リンパ節やリンパ管ががん化した結果、腫れやしこりが現れる病気です。日本で1年間に発生する悪性リンパ腫は約1万人で、少しずつ増えています。ちなみに欧米人は、人口当たりの悪性リンパ腫の発生率はおおむね日本人の2倍くらいです。

リンパ節やリンパ管はほとんどすべての臓器に行き渡っているので、悪性リンパ腫は体のどこでも発生する可能性があります。また、リンパ球は白血球の1種として血管の中も移動しているので、リンパ節やリンパ管ではない臓器にもリンパ腫が発生することがあるのです。これを「節外病変」といいます。

なお、リンパ性白血病といって、悪性リンパ腫と同じようにリンパ球ががん化する白血病がありますが、こちらはがんになる細胞が増える場所が主に血液や骨髄(骨の中にある血液製造工場のようなもの)である点が、悪性リンパ腫と異なります。

*4 悪性リンパ腫の症状

悪性リンパ腫になると、頸部、わきの下、足のつけ根などのリンパ節が腫れてくることが多く、通常は痛みを伴いません。病気が全身に拡がるタイプの悪性リンパ腫は、発熱や体重減少、寝汗、身体のだるさ、かゆみなどがみられることがあります。リンパ節以外の臓器に発生する悪性リンパ腫の場合は、その部位が腫れたり、健康診断の際のX線検査などによって悪性リンパ腫が偶然発見される場合もあります。

何週間もリンパ節の腫れが続いている、けがや虫歯などリンパ節炎の原因が見あたらない、腫れているのに痛みがない、あるいはいろんな部分のリンパ節が腫れてきたなどという場合に悪性リンパ腫を疑う必要があります。しかし、リンパ節の腫れだけで、悪性リンパ腫かどうかを判断することは専門医でも難しいと思われます。

*5 5悪性リンパ腫診断のための血液検査

悪性リンパ腫の疑いがあると、まず血液検査が行われます。これによって、白血球の数やどのタイプの白血球が増加しているかをみます。また、悪性リンパ腫は、炎症性の病気にかかったときなどに上昇する「CRP(炎症反応)」という値や、肝機能を表す検査値「LDH(乳酸脱水素酵素)」、「可溶性インターロイキン2レセプター」などの数値が、上昇することがあります。

[主な血液検査項目と基準値]
血 液 白血球数(WBC) 5,000~8000/μl
ヘモグロビン値(HGB) 14~18 g/dl
血小板数(PLT) 13万~32 万/μl
網状赤血球数(RET) 4~20 ‰
肝機能 GOT(AST) 8~38 IU/l
GPT(ALT) 4~44 IU/l
LDH(乳酸脱水素酵索) 106~211 IU/l
腎機能 尿素窒素(BUN) 8~20mg/dl
クレアチニン(CRE) 0.6~1.1 mg/dl
尿酸(UA) 3.8~8.3 mg/dl
その他 CRP(炎症反応) 0.25 mg/dl以下
sIL・2l 500 U/ml以下

*6 画像診断

レントゲン写真と同じ放射線で身体の輪切り写真を撮影するCT検査では、悪性リンパ腫によって体内にリンパ節のむくみなどが現れていれば、これをとらえることができます。MRI検査では中枢神経、骨髄、軟部組織などに病変があれば、これをとらえることができます。また、ガリウムシンチといって、腫瘍や炎症に集まる性質があるガリウム67というアイソトープを含んだ薬を飲んでもらい、全身の画像を撮って診断する方法も取り入れます。

アイソトープ=放射性同位元素

*7 病理組織検査(生検)

悪性リンパ腫が疑われる場合に最も重要な検査は、腫れているリンパ節や腫瘤の一部を試験的に切除して顕微鏡などで調べる病理組織検査です。腫れている部位の切除は、首やあごなら耳鼻科、わきの下や鼠径部なら外科、手足などは皮膚科というふうに、場所によってそれぞれの専門医が担当します。普通は1週間くらいで検査の結果がでますが、これにより本当に悪性リンパ腫であるかどうか、どのタイプの悪性リンパ腫か、どのような悪性度かを知ることができます。

*8 ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫

悪性リンパ腫は大きく分けると、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2種類があります。欧米ではホジキンリンパ腫が悪性リンパ腫の3分の1を占めていますが、日本では1:9と大半が非ホジキンリンパ腫で、人種によってその割合は大きく異なっています。

ホジキンリンパ腫では病気がリンパ節にできることが多く、リンパ節からリンパ節へと順次拡がることがほとんどです。一方、非ホジキンリンパ腫は全体の3割くらいが節外病変で見つかり、発見されたときには全身に拡がっていることも少なくありません。

また、ホジキンリンパ腫の発生が20歳代から30歳代にかけて、40歳代から50歳代にかけてと2つのピークがあるのに対し、非ホジキンリンパ腫の発生のピークは60歳代です。もっとも若年者や小児にも非ホジキンリンパ腫が発生することもあります。

*9 悪性リンパ腫の種類

リンパ球には、T細胞、B細胞、NK細胞などの種類があり、そのうちのどれががんになるかによって悪性リンパ腫にはT細胞リンパ腫、B細胞リンパ腫、NK細胞リンパ腫といった種類があります。さらに腫瘍細胞の増殖の仕方や、がん細胞の形などから、30種類以上のタイプに分類され、「濾胞性」、「びまん性」、「マントルセル」などの名前がつけられます。悪性リンパ腫はこうしたタイプによって治療法が違う上、病期や年齢、状態などによっても治療が異なることがあります。

濾胞性=多数の袋状の細胞からなる非ホジキンリンパ種の1つ
マントルセル=B細胞リンパ腫の1つで、散在性の小さな裂かれた細胞が多く見られる

*10 悪性リンパ腫の病期

悪性リンパ腫の臨床的な病期は、簡単にいうと表のように分類されています。

1期 1つのリンパ節領域の腫れ

2期 横隔膜より上半身か、下半身のみ2カ所以上リンパ節領域の腫れ

3期 横隔膜の上半身、下半身両方にまたがってリンパ節が犯されている

4期 1つでも臓器や骨髄、血液中に悪性細胞が拡がっている

[悪性リンパ腫の病期と分類]

非ホジキンリンパ腫
病 期 1期 リンパ節の腫れが、1つのリンパ節領域に限局している。
2期 2つ以上のリンパ節領域に浸潤しているが、上半身、もしくは下半身のみにとどまっている。
3期 上半身、下半身両方のリンパ節領域に浸潤している。
4期 ほかの臓器に浸潤したり、骨髄、血液中にがん細胞が広がっている。
下記の症状がない場合はA、いずれかがある場合はBをつける。
●過去1カ月、原因不明の38℃以上の発熱
●盗汗
●過去半年間、原因不明の10%以上の体重減少

悪性度 症状がなく、進行が穏やか。反面、治療の効果が出にくいタイプ。
徐々に進行する。ほうっておくと、1年後には命にかかわることも。
症状が激しく、進行も速い。すぐに治療を始める必要がある。

*11 パフォーマンスステータス

患者さんの全身状態をパフォーマンスステータス(PS)といいます。無症状で社会活動ができる「0」から、身の回りのこともできずつねに介助が必要な「4」までの5段階で評価します。

*12 悪性リンパ腫の危険度

下表の5つの因子のうち、0~1個あてはまるものは低リスク群、2個が低中間リスク群、3個が高中間リスク群、4~5個が高リスク群に分類されます。そしてリスクが高いほど治療効果が不良だったり再発しやすく予後は不良となります。

[悪性リンパ腫の予後予測因子]

予後予測因子 リスク分類(IPI) リスク分類(AA・IPI)
(1)年齢が61歳以上
(2)LDHの値が正常値を超える
(3)パフォーマンスステータスが2~4
(4)病期が3期または4期
(5)節外病変が2個以上
左の(1)~(5)でいくつあてはまるかで分類
低悪性度 : 0個~1個
低中悪性度 : 2個
高中悪性度 : 3個
高悪性度 : 4個~5個
左の(2)~(4)でいくつあてはまるかで分類
低悪性度 : 0個
低中悪性度 : 1個
高中悪性度 : 2個
高悪性度 : 3個
全年齢を対象としたIPI(international prognostic index)と60歳以下を対象としたAA-IPI(Age Adjusted IPI)


同じカテゴリーの最新記事