渡辺亨チームが医療サポートする:悪性リンパ腫編

取材・文:林義人
発行:2005年2月
更新:2013年6月

抗がん剤4剤に分子標的薬を組み合わせた併用療法8サイクル

長期にわたる有効性はまだ不明

堀田知光さんのお話

*1 悪性リンパ腫の予後

IPI(International Prognosis Index、国際予後指標)とは、CHOPなどの抗がん剤療法を受けたB細胞性非ホジキンリンパ腫の中悪性度の患者さんを対象に行われた研究によって示された予後指標です。B細胞性以外のいくつかの非ホジキンリンパ腫にもあてはまることが示唆されています。

[IPI(=International Prognosis Index、国際予後指標)に基づくリスク分類]
予後因子

●年齢 61歳以上
●PS(パフォーマンス・ステータス) 3以上
●LDH値 正常値を超える
●病期 3以上
●節外病変 2つ以上

左記の5つの因子のうち、いくつかあてはまるかでリスク分類

低リスク群 0~1個
低中間リスク群 2個
高中間リスク群 3個
高リスク群 4~5個


[リスク分類ごとの治療成績]
全年齢を対象としたIPI
リスク分類 完全寛解率(%) 5年無病生存率(%) 5年全生存率(%)
低リスク群(全体の約35%) 87 61 73
低中リスク群(全体の約27%) 67 34 51
高中リスク群(全体の約22%) 55 27 43
高リスク群(全体の約16%) 44 18 26
60歳以下を対象とした年齢調整IPI (AA-IPI、Age Adjusted IPI)
低リスク群(全体の約22%) 92 79 83
低中リスク群(全体の約32%) 78 51 69
高中リスク群(全体の約32%) 57 30 46
高リスク群(全体の約14%) 46 27 32

*2 リツキサン

リツキサンはモノクローナル抗体といって、ネズミの細胞を使って作った抗体で、人に安全に使えるようにした薬です。白血球の中のBリンパ球の表面に存在するCD20というタンパク質を標的にした薬で、従来の抗がん剤と全く違った仕組みで悪性細胞を選択的に攻撃します。悪性リンパ腫の治療で、初めて単独でもCHOP療法を超える有効性を示した歴史的な意味をも持つ薬剤です。2001年9月に保険に収載されました。ただし、新しい薬なので、長期にわたる有効性はまだよくわかっていません。リツキサンによりさらに効果的な治療を行うために、現在CHOP療法などの抗がん剤治療との併用による治療が進められています。

*3 CHOP療法

1976年に開発された中悪性度リンパ腫のごく標準的な抗がん剤治療法で、エンドキサン(一般名シクロホスファミド)、アドリアシン(一般名塩酸ドキソルビシン)、オンコビン(一般名硫酸ビンクリスチン)の3種類の抗がん剤と副腎皮質ホルモンのプレドニン(一般名プレドニゾロン)を加えた併用療法です。これら薬剤の頭文字をとってCHOP療法と名づけました。その後、他の薬剤と組み合わせたり、投与量を増やしたりしても、どれもCHOP療法をしのぐ効果を示す療法は見つかりませんでした。そのため、現在も標準治療として用いられています。

*4 R-CHOP療法

CHOP療法にリツキサン療法を組み合わせたのがR-CHOP療法です。高齢の中悪性度びまん性大細胞型リンパ腫の患者さんを対象とした臨床試験などで、R-CHOP療法のほうがCHOP療法よりも良い治療成績が得られており、悪性リンパ腫の標準的な治療法となってきました。リツキサンがCHOP療法の抗がん剤の感受性を高めるのではないかとも考えられています。

アレルギー、脱毛、吐き気、感染、口内炎、便秘、下痢などに注意

堀田知光さんのお話

*5 R-CHOP療法の治療スケジュール

R-CHOP療法は、患者さんの状態によって3週間1サイクルとして、6~8サイクルを行います。

リツキサンの投与の前に、副作用の予防のために解熱鎮痛剤と抗ヒスタミン剤を内服します。リツキサンの点滴もアレルギーが出にくいように最初はゆっくりと開始して、だんだんペースを速めていきます。このあとに続いて、あるいは翌日にCHOP療法を行います。

リツキサンは新しく治療に用いられるようになった薬なので、まだどのように使用すれば最もよい効果が得られるかはよくわかっていません。そのため、各施設によって多少治療スケジュールが異なる場合があります。

[主な血液検査項目と基準値]
薬剤名(一般名) 投与方法 1週 2週 3週 4週 5週 6週 7週
リツキサン(リツキシマブ) 点滴静注        
エンドキサン(シクロホスファミド) 点滴静注        
アドリアシン(塩酸ドキソルビシン) 点滴静注        
オンコピン(硫酸ビンクリスチン) 静注        
プレドニン(プレドニゾロン) 経口

*6 R-CHOP療法の副作用

リツキサンは攻撃する対象が限定されているため、その他の細胞が影響を受けることがなく、従来の抗がん剤のように、悪心・嘔吐、脱毛、白血球の減少(易感染)、貧血などといった強い副作用が出現する可能性は高くありません。しかし、ネズミの細胞で作ったモノクローナル抗体の成分が含まれているため、リツキサン特有の副作用として、発熱、悪寒、頭痛、倦怠感等などのアレルギー症状が出ることもあるので十分な注意が必要です。

一方、CHOP療法では副作用としての吐き気や脱毛などが生じます。もちろん吐き気に関しては、最近きわめてよく効く制吐剤が開発・使用されていて全く吐かない方も増えてきました。このほか抗がん剤療法では、脱毛がほぼ必発であるほか、外敵と戦う好中球が減少するため感染が起こったり、口内炎、末梢神経障害(手足のしびれ)、便秘もしくは下痢などの消化器症状、肝機能障害、腎機能障害や心筋障害など種々の副作用も伴うこともあります。副作用の現れ方は個人差が大きく、副作用で命をなくしてしまう場合もあるので、医師も患者さんも細心の注意が必要です。

[リツキサンの副作用]
リツキサンの副作用

(国内の効能・効果追加時までの安全性評価症例157例)

*7 外来治療の際の心得

現在の悪性リンパ腫の治療は、入院よりもむしろ外来で行われることが多くなっています。多くの方が、仕事、家事、学業など日常生活を続けながら外来治療を受けています。 

しかし、外来治療の場合には、感染症に注意が必要です。表に出るときはマスクをし、人ごみは避けるようにしましょう。

多くは担当医から抗生物質が処方されていますから、高い熱(38度以上)が出た場合はすぐ服用します。それでも熱が下がりにくいときや、抗生物質をもらっていない場合はすぐに病院に電話連絡をしてください。

また、悪性リンパ腫で治療を受けていると、感染に対する抵抗力が落ちているため、帯状疱疹が合併しやすくなります。帯状疱疹になると水疱を伴った発疹が体の半分に帯状に現われ、ピリピリとした痛みをともないます。

早めに治療を始めれば重症化を防ぐことができますので、このような症状が出た場合は早く担当医に連絡するか、皮膚科の医師の診察を受けてください。


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