渡辺亨チームが医療サポートする:悪性リンパ腫編
再発には拒絶反応のない自己末梢血幹細胞移植治療を
強力な抗がん剤治療のために体外で幹細胞を保存
堀田知光さんのお話
*1 サルベージ療法
悪性リンパ腫が再発したとき、これまでの抗がん剤が効かなくなったということが考えられます。そこで、自己幹細胞移植と大量の抗がん剤投与に先立ってこれまで使用していない抗がん剤の組み合わせによるサルベージ療法という治療が一般的に行われます。しかし、現在のところ、サルベージ療法は、どの組み合わせがもっとも優れているかはよくわかっていません。
薬剤名(一般名) | 投与方法 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6日 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
リツキサン(リツキシマブ) | 点滴静注 | ↓ | |||||
ベプシド、ラステット(エトポシド) | 点滴静注 | 96時間持続点滴 | |||||
オンコビン(硫酸ビンクリスチン) | 点滴静注 | 96時間持続点滴 | |||||
アドリアシン(塩酸ドキソルビシン) | 点滴静注 | 96時間持続点滴 | |||||
エンドキサン(シクロホスファミド) | 静注 | ↓ | |||||
プレドニン(プレドニゾロン) | 経口 | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ | ↓ |
*2 自己幹細胞移植
悪性リンパ腫が再発した場合、がんがこれまでの抗がん剤に抵抗性を持ったと考えられるので、もっと強力な薬で治療することが必要になります。しかし、強い抗がん剤で治療をすればより多くのがん細胞が死にますが、同時に正常な血球に育っていくタネである幹細胞も死ぬので、自分で血液を造ることができなくなります。
そこで、自分自身の幹細胞をいったん外で保存しておいて、抗��ん剤でがん細胞を殺したあと、体に戻す自己幹細胞移植が1990年頃から取り入れられるようになりました。
その仕組みは、(1)あらかじめ血液を採取してその中から末梢血幹細胞だけを分離して凍結保存しておく、(2)体に残っているがん細胞すべてを大量の抗がん剤で殺してしまう、(3)静脈から輸血のように末梢血幹細胞を体に戻す、(4)血液を育てる“畑”である骨髄が末梢血幹細胞からまた血をつくるようにする――というものです。
現在、全国で年間約700例の自己末梢血幹細胞移植が悪性リンパ腫を含む様々な疾患に対して行われています。ちなみに中悪性度の悪性リンパ腫に対しては5年生存率が57パーセントという多施設共同研究の成績があり、抗がん剤単独の35パーセントと比べて有意に生存率が向上しています。

*3 幹細胞採取による危険性
幹細胞を増やすために投与するG-CSFの副作用としては、多くの方に一過性の骨痛が現れます。重篤なものとしては、極めて稀ですが、脾臓破裂や脳梗塞(高齢者の場合)が報告されています。
造血幹細胞の採取時には、血小板も採取されますので、連続した複数回の採取で血小板が下がる場合があります。
*4 自己末梢血幹細胞の採取
末梢血の造血幹細胞は抗がん剤治療の後の10日前後をピークに増えます。そのタイミングに末梢血を採取するのです。患者さんの末梢静脈にカテーテルを挿入して、それを血球成分分離装置につなぎます。患者さんの末梢血がカテーテルから分離装置に流れ、その装置で必要な細胞を分離して、その他の血液はもう1本のカテーテルで患者さんの体に戻ります。この操作は1日に約2~3時間かかります。これを末梢血の造血幹細胞が増えている数日の間のタイミングをみはからって1日ないし2日間で必要な量の自己末梢血幹細胞を採取するのです。
虫歯や腸内細菌まで有害になることも
堀田知光さんのお話
*5 体内無菌化
大量の抗がん剤の投与で白血球はほとんどなくなってしまいます。このため、普段なら体に害のない虫歯や口内炎の菌、腸内細菌などの常在菌まで有害になることがあります。そこで予防策として、虫歯を治したり、イソジンでうがいをしたり、薬で腸内菌を駆除します。
*6 自己末梢血幹細胞で用いる抗がん剤
悪性リンパ腫の再発に対する自己幹細胞移植で、サルベージ療法に続いて行う大量抗がん剤療法として、ランダ(一般名シスプラチン)、エンドキサン(シクロホスファミド)、デカドロン(デキサメタゾン)、キロサイド(シタラビン)、メソトレキセート(メトトレキサート)、ベプシド(エトポシド)、ブレオ(ブレオマイシン)、イホマイド(イホスファミド)、ナツラン(プロカルバジン)など、様々な抗がん剤の併用が行われています。日本ではCHASE(エンドキサン、デカドロン、キロサイド大量療法、ベプシド)という方法が注目されています。
健康を回復するまで半年が必要
堀田知光さんのお話
*7 自己造血幹細胞移植の実際
大量の化学療法後に凍結保存しておいた造血幹細胞を37度のお湯で溶かした直後に点滴をします。細胞を生きたまま凍らせるためにDMSOという匂いのついた液体を加えるので、点滴した直後にその液体が身体に回って、その匂いを感じることがあります。ごく稀ですが、移植直後にショックを起こす場合があります。稀ですが、移植した造血幹細胞が働かなくて血球が増えてこないこともあります。また、さまざまな内臓の障害がおこる可能性もあります。
*8 白血球の回復
自己幹細胞移植を受ける方は、移植日までに白血球数は0に近くなります。移植した細胞はすぐに白血球を造るわけではないので、移植後もしばらくの間、白血球と血小板がとても少ない時期が続きます。感染症や出血の危険性が高くなり、このため数パーセントの患者さんは亡くなってしまいます。しかし、約20日以内には白血球数は増えてきますので、その時点で無菌室から外へ出られるようになります。血小板、赤血球の輸血も徐々に回数が減り、やがて不要になります。さらに完全に食事がとれるようになったら退院できます。移植は完了したことになるのですが、実際にはだるさがしばらく残り、健康をとり戻すには最低半年はかかります。また、白血球が増えてもその働きが悪く、さまざまな感染、特にウイルス性感染にかかりやすい状態が続きます。

・毎日尿を測る
・感染予防のため薬はしっかりのむ
・朝、体重を測る
・生もの等は禁止
・部屋から出てはいけない
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