希少がんだが病型が多い皮膚リンパ腫 なかでも圧倒的に多い「皮膚T細胞リンパ腫」の最新治療
進行期に新規薬剤が増え、治療の幅が広がる
早期でもステロイド外用や紫外線療法を行って効果が得られない場合や、ⅡB期以降の進行期になると、内服薬や点滴薬による全身療法が行なわれる。まずは、インターフェロンγやエトレチナート(ビタミンA誘導体)が使われ、効果が見込めない場合は多剤併用化学療法や放射線治療が行われるのが従来の標準治療だった。
「抗がん薬は最初効果が出ても、治療を続けるうちに効果が得られなくなり、中止に至ることが少なくありません。しかし、この数年で、従来の副作用の強い抗がん薬の前に使える新規薬剤が増え、治療選択が大きく広がりました」と大塚さん。
新規薬剤とは、たとえば以下のような薬だ。
レチノイドの1種である、タルグレチン(一般名ベキサロテン)は、2016年1月に皮膚T細胞リンパ腫に保険適応になった。タルグレチンは早期でも進行期でも、そして単独でも有効で、用量が多いほど奏効率などが優れているが、反面、有害事象の発症頻度も高くなるとされている。
抗体薬では2014年3月、ポテリジオ(一般名モガムリズマブ)が、CCR4陽性の再発または難治性皮膚T細胞リンパ腫に保険適応になり、2018年にはCCR4陽性の制限が取れた。特定の血液がん細胞に多く発現しているCCR4というタンパクを標的とした薬剤で、とりわけセザリー症候群で効果が見込まれるという。
セザリー症候群は菌状息肉症に比べて予後が短く、診断後数年で亡くなる人も多かったとのことだが、今日ではポテリジオを投与して5年以上、症状はあるが元気な患者さんも少なくないという。
臨床試験が難しくても、新規薬はまだ増える可能性が
CD30タンパク陽性の未分化大細胞リンパ腫に対し、2014年に保険承認されたアドセトリス(一般名ブレンツキシマブベドチン)も抗体薬であり、2019年12月にはCD30陽性末梢性T細胞リンパ腫に適応病名が変更された。
「全身療法を行っても効果が得られず、しかもCD30陽性の進行期の菌状息肉症に対しては、使わざるを得ない場面が出て来ています。神経障害や感染症などの有害事象も多く、最初から使う薬剤ではありませんが、ほかの治療が有効でなかったCD30陽性の進行期症例に対しては選択肢の1つになる新規薬です」
現在も皮膚T細胞リンパ腫は保険適応症には含まれていないが、大きな括りでは末梢性T細胞リンパ腫の1種であり、治療法の少ない再発または難治性のCD30陽性の皮膚T細胞リンパ腫については、新たな武器が加わったといえそうだ。
そして、2021年5月に皮膚T細胞リンパ腫に保険承認された抗がん薬のレミトロ(一般名デニロイキン・ジフチトクス)も、これらの薬剤とともに治療選択肢の1つとなった、と大塚さんは語る。
これはインターロイキン-2(IL-2)とジフテリア毒素の部分配列から成る融合タンパク質で、リンパ腫細胞上にあるIL-2受容体と結合し、細胞内に入ったジフテリア毒素断片がリンパ腫細胞のタンパク質合成を阻害し、細胞死に誘くというもの。
多施設共同、非盲検、単群の臨床第Ⅱ相試験(205試験)などの結果に基づき、承認された。205試験では、再発または難治性の末梢性T細胞リンパ腫と皮膚T細胞性リンパ腫の患者36人全体の奏効率(ORR)が、36.1%となっている。
目指すのは症状の少ない状態
このように、抗がん薬を使う前に使える薬剤が増えたことは、患者さんにとって朗報といえる。
「実は、どの薬剤も臨床現場で効果が得られるのは30~40%くらいです。しかし、1つの薬が効かない場合、別な薬を次々と試せるので、選択肢がなかった頃とは患者さんのQOL(生活の質)は改善されていると思います」と大塚さん。
しかし、現在は菌状息肉症・セザリー症候群には、根治をめざす治療がない。唯一可能性があるのは骨髄移植(同種移植)だが、この病気は中高齢で診断されることが多く、ゆっくり進行するため、進行期になる頃には移植可能年齢を超えてしまうことが多いという。
「進行がゆっくりで皮膚に限局していることが多く、ステロイド塗布や紫外線療法などにより症状も抑えられることが多いので、まずは早期の紅斑期に症状緩和を続けて局面期、腫瘤期に進まないようにすることです。そして、局面期、腫瘤期などの進行期に入ってしまったら、選択肢の増えた薬剤を上手に使い、症状緩和をさらに続けていくことだと思います。
この病気はかつて『皮膚悪性リンパ腫』と呼ばれていましたが、悪性という言葉が病状にあわないというので、最近、『皮膚リンパ腫』と呼ぶようになりました。なぜ進むのかはわかっておらす、日常生活では特段気をつけることはなく、長くつきあっていく病気といえるでしょう」と、大塚さんは話を締めた。