あきらめない! 飛躍的進歩を遂げる悪性リンパ腫の最新治療

監修●大間知 謙 東海大学医学部血液・腫瘍内科講師
取材・文●祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2013年1月
更新:2013年4月

リツキサンの登場で治療に変化

■図4 CHOP療法と第2、3世代治療法の生存曲線
■図4 CHOP療法と第2、3世代治療法の生存曲線

Fisher Rl.N Engl J Med 328:1993
各種多剤併用療法も、CHOP療法を上回る生存率を示せなかった

では、実際の治療はどうか。

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の場合、治療を大きく進展させたのが、リツキサンだ。

1960年代にCHOP療法と呼ばれる4剤併用療法が登場し、治療の基本になった。その後、1980年代には様々な抗がん薬が登場し期待されたが、「1993年に行われた比較試験で、結局生存率は変わらないことがわかり、CHOP療法が標準治療と決まったのです」と大間知さんは振り返る(図4)。

しかしその状況を一気に変える薬剤が登場する。それがリツキサンだった。

■図5 CHOP療法とR-CHOP療法における生存比較
■図5 CHOP療法とR-CHOP療法における生存比較

Coiffier B.NEngl J Med346,2002
リツキシマブを併用することで生存率は大きく改善した

リツキサンはCD20というB細胞上の抗原にとりつく抗体。これをCHOP療法と併用することで、生存率が20%ほど上乗せされたのだ。現在、進行期の標準治療はリツキサンを併用したR-CHOP療法になっている(図5)。

一方、ろ胞性リンパ腫など低悪性度のリンパ腫は、「進行が遅いので、診断がついてすぐに治療をしても、少したってから治療を行っても生命予後に差はないといわれていた」そうだ。

それならば、毒性のある抗がん薬を早くから使うより、症状が出たり、血液検査で異常が出てから薬を使えばいいのではないか。こうした考え方から、経過を観察しながら待機するという考え方も出てきた。実際に積極的に治療を行った場合と比較したところ、生命予後には差がないことがわかり、待機療法も選択肢の1つとされている。

とはいえ、低悪性度の場合も、リツキサンの登場で治療効果がかなり上がっていると言う。

「アメリカで報告された試験は、低悪性度のリンパ腫の患者さんを対象にCHOP療法で治療を行った場合、以前の治療法より生存割合が10%ぐらい向上し、さらにリツキサンが登場して、CHOP療法と併用することによって、さらに生存割合が10%ぐらい向上しています」と大間知さん。

ただ、リツキサンが臨床で使われるようになってまだ10年ほど。経過の長い低悪性度のリンパ腫の場合、本当に生命予後まで改善されるのか、まだ明らかになっていないそうだ。しかし、大間知さんは「この臨床試験でR-CHOP療法を受けた患者さんの中には、10年以上再発がない人も出ています。これをみると、完治もあるのではないか」と期待をしている。

リツキサン=一般名リツキシマブ CHOP療法=エンドキサン、アドリアシン、オンコビン、プレドニンの4剤の併用療法

再発した場合の治療は?

■図6 ベンダムスチン塩酸塩の効果
■図6 ベンダムスチン塩酸塩の効果

ベンダムスチン塩酸塩を使うことで長い無増悪生存期間が得られた

このように、初回治療の成績は、リツキサンが登場して格段に向上している。大間知さんによると「中悪性度でも低悪性度でも、R-CHOP療法で7割から8割が寛解に入ります。中悪性度の場合はその5割が再発しません。つまり治っています。ただ、低悪性度の場合、まだ完治するかどうかはわかりません。再発する方が多いのです」と語っている。R-CHOP療法を行っても、まだ救われない患者が多いのだ。ここが、従来からの問題だった。

再発した場合、中悪性度の場合は抗がん薬が効けば「自家移植による大量化学療法」が基本になる。強力な化学療法でがん細胞を徹底的に叩き、ダメージを受けた骨髄細胞は移植で補うというやり方だ。大間知さんによると、使う抗がん薬の組み合わせはケースバイケースで、標準治療はないそうだ。

一方、低悪性度の場合は、「明確な治療指針はないのですが、リツキサン単独、あるいはフルダラ、トレアキシンやゼヴァリンなどの新しい抗がん薬を使い治療します」

フルダラは経口の抗がん薬で、脱毛や吐き気がなく、リツキサンと併用すると高い奏効率が期待できるという。トレアキシンは腫瘍を縮小する効果が強く、国内で行われた臨床試験でも再発までの期間の延長が確認され、期待が集まっている。(図6)ただし、トレアキシンは副作用の吐き気が強いため、制吐剤と併せて使用したい。

また、ゼヴァリンはリツキサンと同じようにCD20を標的としる抗体だが、放射線同位元素であるイットリウム90を抱えている。つまり、がん細胞を放射線によって攻撃する薬だ。この薬は高い効果が期待できる反面、放射性物質を扱うため、限られた医療施設でしか受けることができないのが難点となる。

また、これらの薬剤はどれも高額なのが問題となっているそうだ。そのため大間知さんは、「まず、正確に診断して適切な薬を使い、不要な薬剤を使わないことが重要です」とアドバイスをくれた。

フルダラ=一般名フルダラビン トレアキシンン=一般名ベンダムスチン塩酸塩 ゼヴァリン=一般名イブリツモマブチウキセタン

新たにジェムザールも登場

また、ここ最近、新たな治療薬として、ジェムザールが公知申請で使用できるようになった。

この薬はこれまで肺がんや膵がんなど固形がんでは使われていた薬剤だが、血液がんに使われるのは初めてのことだ。そのため、「まず単独でジェムザールを使い、副作用も含めて使い方がわかるようにすることが大切です。その後、欧米の報告にあるような、デキサメタゾンとシスプラチンとの併用やエルプラットとの併用などの白金製剤との併用が考慮されていくでしょう」と大間知さんは予測する。

ただし、ジェムザールは残念ながら、リツキサンのような画期的な効果は期待しにくいのが実情のようだが、患者さんにとっては新たな治療選択が1つ増えることは心強い。

最後に、大間知さんは今後の展望をこう話す。

「その他、現在臨床試験中の薬剤として、ゼヴァリンや同じくCD22の抗体に抗がん薬を付けたイノツズマブオゾガマイシン(一般名)など、かなり効果が期待されている新薬もあります。ですから、諦めずに治療を続けて頂きたいですね」

さらなる新薬の登場にも是非期待したい。

デキサメタゾン=商品名デカトロン/レナデックス シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ エルプラット=一般名オキサリプラチン

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