病勢をうまくコントロールして共存 原発マクログロブリン血症/リンパ形質細胞性リンパ腫(WM/LPL)の最新治療

監修●口分田貴裕 近畿大学医学部血液・膠原病内科講師
取材・文●半沢裕子
発行:2022年3月
更新:2022年4月


WM/LPL治療の考え方は?

「無症状状態をできるだけ長く保ち、症状が現れたら治療して症状を落ち着かせ、再び症状が現れたら治療する」ということを繰り返して、できるだけ長く病気と共存するのがWM/LPLの治療戦略です。

通常のがんでは初回治療に使う薬剤、2次治療、3次治療と使用する薬剤は標準治療で大体決まっていますが、WM/LPLでは現在ある治療法の中で、患者さんの状態や希望に合わせた薬剤を選択して投与して、予定された治療が終了したのちに再び症状が出たら同じ薬剤または違う薬剤を使う、というように治療を進めます。

また、十分な治療効果がない場合や治療による副作用などが強い場合も治療内容の変更を検討します。

リツキサン単剤もしくは他の薬剤と併用して投与する場合、定期的に外来通院してもらいながら薬剤の投与を行います。治療内容により受診の頻度は異なりますが、1コース1~3週毎の治療を継続し、合計の治療期間としては1~4カ月程度で治療は終了になります。

そう聞くと、「リツキサンのほうがいい。以前から使われていて安全性もわかっているし、一定の期間で治療が終了するので」と考えるかもしれませんが、リツキサンも抗がん薬などを併用すれば、その分副作用のリスクが高まる可能性があり、必ずしも優しい治療とは言えません。IgMフレアが起きやすいリスクもあります。

新しい分子標的薬ベレキシブルとは?

そうしたWM/LPL治療に新たに加わったのが、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬、ベレキシブル(一般名チラブルチニブ)です。BTKとは、B細胞系リンパ球細胞の増殖や分化に関わるB細胞受容体(BCR)に関係する酵素で、BTK阻害剤はこの働きを阻害することで細胞の増殖を阻害するものです。

2020年3月、再発または難治性の中枢神経系原発リンパ腫に適用となりましたが、同年8月、WM/LPLにも適応追加されました。リツキサンを中心としたレジメンがひとつ大きくあったところにベレキシブルが加わったことで、WM/LPL治療の選択肢は広がり、治療は大きく変わりました。

ベレキシブルは経口の分子標的薬であり、奏効率や安全性において優れた治療成績が報告されています。ベレキシブルは、高腫瘍量で早急な治療効果が必要な患者さんから、年齢や持病を理由に強力な治療を行うことができない患者さん、さらに仕事や家庭の事情で点滴治療を受けるための頻回の受診が困難な患者さんまで、幅広い患者さんの治療に適しているといえます。

しかし、全員に向いているかというと、必ずしもそうではありません。継続内服薬���ので、もしかしたら休薬することなく長期間飲むことになるかもしれません。有害事象としては、発疹などの皮膚障害の頻度が高いことが報告されています。また、新しい薬剤だけに、長期内服したときの安全性のデータもまだ十分ではありません。

ですから、私たち医療者としても、患者さんの病状、病勢、持病、体調や社会的状況などから治療の選択肢を示し、メリットとリスクを丁寧に説明して、患者さんに選択していただけるように気をつけています。

WM/LPLでは造血幹細胞移植は行いますか?

『治療ガイドライン』のWM/LPLの治療アルゴリズムを見ると、治療を開始し、それが奏功しなくなったときに「救援療法(別治療)±造血幹細胞移植」となっています。

造血幹細胞移植は非常に強力な治療法で、その分他の治療法と比較するとリスクも高いですので、十分に体力があり、ある程度若年の患者さんにしか行えません。

また、一部の白血病や悪性リンパ腫などの血液がんでは造血幹細胞移植が有効であるというエビデンス(科学的根拠)が確立していますが、WM/LPLではいまだその有効性を示すエビデンスが十分ではないことから、一般的には推奨されず、ガイドラインにも「臨床試験として実施するのが望ましい」と書かれています。やはり、WM/LPLの治療方針は、できるだけ寝た子を起こさず、起きたらなだめてまた寝かせ、少しでも長く共存していくことです(図3)。

日常生活で注意することは? コロナのワクチンは受けても大丈夫ですか?

とにかく「感染に注意」が必要です。とくに血液腫瘍に共通するところですが、リンパ球が腫瘍化する病気なので、どうしても免疫力は落ちます。無症状、経過観察の方でも「感染症予防に注意」する必要があります。薬物療法を受けている患者さんは、治療によって免疫細胞である白血球の働きが抑制されていることから、さらに免疫が落ちているので、より気をつけることが大事です。

もうひとつ注意してほしいのは、「自覚症状の変化を見逃さない」ということです。日々、自分の状態を観察していただき、今までより倦怠感が強くなっている、手足のしびれが強くなった、紫斑、出血斑のようなものが皮膚にできた、といった変化に気づき、それを医療者に必ず伝えてください。それが治療介入の判断のタイミングを逃さないためにも重要です。ですから、そうした変化を伝えてもらえるよう、私たち医療者も患者さんにお願いしています。

そうした上で、WM/LPLという病気の特性を理解することがとても大切です。

しっかり病勢をコントロールして、日常生活を送っている患者さんは多いので、根治は難しいものだからといって悲観することはありません。

また、ベレキシブルのように新しい薬剤が出てきて、今後治療成績が向上していくと思います。例えば、仕事をしながらとか、高齢だからなどと患者さんそれぞれのニーズに合わせた治療選択肢が増えていくでしょう。

最後になりましたが、WM/LPLの患者さんが新型コロナウイルス感染症予防のワクチンを受けるときのご注意を少々。

ワクチン接種により副作用が強く出るとか、病勢に影響が出るといった報告はとくにありません。しかし、WM/LPLでは免疫が異常になっていますから、ワクチンの効果が十分得られない可能性はあります。とくに、リツキサンによる治療を受けられている場合、ワクチン接種による新型コロナウイルスに対する抗体が得られにくい可能性があり、学会からも注意喚起されています。これはリンパ系腫瘍の共通するところだと思いますが、新型コロナウイルスの抗体が確かに上がるかどうかはわからないので、ワクチンを打ったからと安心せず、引き続き感染症対策を行うことが大事です。

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