CAR-T細胞療法と新免疫療法薬エプキンリ 再発・難治性悪性リンパ腫の最新治療

監修●下山 達 がん・感染症センター都立駒込病院腫瘍内科部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2024年3月
更新:2024年3月


バイト抗体のエプキンリとはどのような薬剤ですか?

2023年11月に、びまん性大細胞性B細胞リンパ腫の新しい治療薬として、エプキンリ(一般名エプコリタマブ)が日本で使えるようになりました。再発・難治性のびまん性大細胞性B細胞リンパ腫の3次治療以降で使えることになっています。

エプキンリは、BiTE抗体という特殊な構造をした抗体医薬品です。がん細胞の細胞膜上に発現しているCD20を認識する抗CD20抗体と、T細胞の細胞膜上に発現しているCD3を認識する抗CD3抗体を、半分ずつ組み合わせた構造になっています。そして、がん細胞とT細胞の両方に結合することで、T細胞によるがん細胞の傷害が誘導されることになります。

エプキンリのびまん性大細胞性B細胞リンパ腫に対する臨床試験は、海外で行われた「第Ⅰ/Ⅱ相EPCORE NHL-1試験」と、国内で行われた「第Ⅰ/Ⅱ相EPCORE NHL-3試験」があります。奏効率は、海外試験では63.1%、国内試験では56%でした。CR(完全寛解)の割合は、海外試験では38.9%、国内試験では41%でした。

「CAR-T細胞療法との違いは、投与されたCAR-Tはずっと体内に残りますが、BiTE抗体のエプキンリは、短い期間でなくなってしまう点です。そのため、少なくとも4週に1回は投与する必要があります。ただし皮下注射なので、患者さんにとってはそれほど負担ではないでしょう。作るのに2カ月かかるCAR-Tと違い、すぐ投与できるのは、エプキンリの大きなメリットと言えます。また、リンパ球を採取する施設は必要ないので、多くの医療機関で治療することができます」

ただ、まだ始まったばかりの治療なので、長期成績は出ていません。CAR-T細胞療法はすでに長期成績が出ていて、生存曲線があるところから下がらなくなる、つまり半分ほどの患者さんが、治ったと考えられる状態になることがわかっています。エプキンリでもそのような成績が出るのか、長期成績を見ていく必要があります。

「現在の段階では、CAR-T細胞療法が適応にならない患者さんや、CAR-T細胞療法後に再発した患者さんが、エプキンリのよい対象だと思います。CAR-T細胞療法を行っても、再発する人が半分くらいいますし、CAR-T細胞療法後の再発にも効果があることは確認されています」

これからの治療はどうなっていくのでしょうか?

エプキンリは3次治療薬として承認されているため、現在の段階では前述したような使い方になります。しかし、早い段階で使うことも期待される治療薬です。

「現在、すでに臨床試験が始まっていますが、BiTE抗体薬が1次治療で使われるようになる可能性があります。R-CHOPなどの1次治療薬と一緒���BiTE抗体を使えば、根治する患者さんが増える可能性がありそうです。臨床試験で非常に有用であるという結果が出れば、1次治療から免疫療法が行われるかもしれません。非常に注目しています」

その一方で、現在、1次治療でのCAR-T細胞療法の臨床試験も進められていますし、すでに結果が報告されている臨床試験もあります。イエスカルタによる1次治療CAR-T細胞療法の有用性を調べた「ZUMA-12試験」です。

「抗がん薬では完治しないだろうという患者さんを対象に、R-CHOP療法を2サイクルだけ行い、CR(完全寛解)でなかったらCAR-T細胞療法を行うという試験です。今後さらに臨床試験で検証していく必要がありますが、有望な成績が得られています」

再発・難治性のびまん性大細胞性B細胞リンパ腫の治療は、免疫療法の登場で大きく進歩したが、一方で分子標的治療薬にも期待がかけられています。

「びまん性大細胞性B細胞リンパ腫には、いろいろな亜型が混じっていて、それは遺伝子を調べないとわかりません。実臨床ではできませんが、ある種の遺伝子変異に対しては、既存の薬剤の中によく効くものがあることがわかってきました。将来、がん遺伝子パネル検査のように、そうした遺伝子変異を調べることができる時代はくると予想しています」

このように免疫療法と分子標的治療が進歩してくると、「びまん性大細胞性B細胞リンパ腫の治療は、細分化した病態に応じて、最適の治療が選ばれるようになっていくでしょう」と下山さん。それが現在から見えている未来予想図だと言えそうです。

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