多発性骨髄腫の治療発展に注目 新薬や移植の導入で目覚ましい治療の進化
「新3薬」が登場 医療者の理解も進む
そして、2000年代に入ると、「新3薬」と呼ばれる治療薬が登場した。*ベルケイド、*サレド、*レブラミドだ。ベルケイドはプロテアソームという酵素を阻害する作用を持つ。サレドは1950年代に別の商品名(サリドマイド)で催眠鎮痛薬として発売されたものの催奇形性の薬害により発売中止になっていた薬だが、多発性骨髄腫に対する有効性が明らかになり、承認された。レブラミドは、サレドと似た分子構造を持つが、サレドより末梢神経や消化器への副作用は少ないとされている。
「薬が広く使われるようになり、それぞれのポジショニング、使い方が医療者に理解されるようになってきました」と、鈴木さんは指摘する(表3)。

*ベルケイド=一般名ボルテゾミブ *サレド=一般名サリドマイド *レブラミド=一般名レナリドミド
自家末梢血幹細胞移植を伴う大量化学療法
一方、自家末梢血幹細胞移植は、大量の化学療法と併せて行われる。体に負担がかかるため、65歳以下でほかに重大な疾患がないことなどが条件とされている。造血幹細胞を自分の末梢血から採取して冷凍保存した上で、正常な細胞もろともがん細胞を殺してしまうほどの大量の抗がん薬(アルケラン)の投与をする。そして、それが終わったら保存していた造血幹細胞を体内に点滴で戻すという方法だ。
かつては、造血幹細胞を採取するには骨髄移植しかなかったが、化学療法を行ったり白血球の数を増やすG-CSF(顕粒球コロニー刺激因子)を投与したりすると、採取が容易な末梢血中にも造血幹細胞が現れてくることが分かったために実現した。
寛解に持ち込んで「地固め」・維持療法へ
これらの薬の使用や移植は実際にはどのように行われているのか。鈴木さんは、日本赤十字社医療センターでの治療法を説明した。
「年齢が若い患者さんには、自家末梢血幹細胞移植を前提にベルケイド、デカドロンにもう1種類加えて化学療法します。加えるのは*エンドキサンが多い。この併用方法はCyBorD療法と呼ばれています。高齢者には、MP療法やMP療法にベルケイドを加えたMPB療法を採っています」
寛解に入ったところで、隠れている腫瘍細胞をなくす目的で治療を継続する「地固め(サルベージ)」や維持療法に入る。「ベルケイド、レブラミド、サレドなど化学療法を行ったり、細胞が分泌するタンパク質の��ンターフェロンαやステロイド系抗炎症薬のプレドニゾロン(一般名)を使ったりしますが、維持療法をどれくらいやるのがベストなのかはまだ分かっていません。1~2年は何らかの維持療法をやって完全寛解(CR)したら、いったん治療を止め、また再発したら治療を始めます」
多くのケースでは、寛解してもいつか再発してしまう。「再発したがんが、前のがんと同じ格好をしているのは、3分の1です。随分違った出方をすることが多い。がん自身も耐性ができています。腫瘍細胞の性質で治療戦略も変わってきます」
*エンドキサン=一般名シクロホスファミド
これからも新薬登場予定 投薬量も減少へ
これから出る新薬にも期待がかかる。*カイプロリスや*MLN9708という薬は、ベルケイドの第2世代。*ポマリストはサレドやレブラミドと同じ系統の薬だ(表4)。

「カイプロリスやMLN9708は、ベルケイドよりさらに効くと考えられます。どちらもいい薬。ベルケイドでは注射薬で、30%に足のしびれが出たり、1%で急激な間質性肺炎を起こしたります。MLN9708は飲み薬(経口薬)で、足のしびれが来ない。一方で、独特の副作用があって、吐き気が出たりします。カイプロリスは、ベルケイドが効かない人でも効きます。注射薬ですが、抵抗性になった人にも効くので、使い勝手はあります」
ポマリストの特徴については次のように解説する。「サレドでは欧米で1日200㎎、日本では100㎎。レブラミドなら25㎎を投与します。それに対してポマリストでは2~4㎎。薬の量が減っていることは、しっかりと効くということです」
ここ数年、日進月歩の多発性骨髄腫の治療進化だが、さらに今後の開発や承認に注目が集まる。
*カイプロリス=一般名カーフィルゾミブ *MLN9708=一般名イグザゾミブ *ポマリスト=一般名ポマリドミド