新薬が次々に登場し、多発性骨髄腫の治療が変わる
欠かせない副作用のコントロール
課題は副作用対策だ。「ポマリストは、サリドマイドと比較すると好中球の減少や貧血、血小板・白血球の減少といった血液毒性が強く出ます。治療を何回も繰り返したあとに使われるケースが多いことを考えると、骨髄はかなり疲弊していますから、血液毒性が強く表れる危険性にとくに注意しながら治療する必要があります」
一方、レブラミドは腎機能が低いと減薬したり、他の薬への切り替えが必要な場合があるが、ポマリストは腎機能が低い人にも使える利点がある。また、便秘をすることもあるが、レブラミドやサレドよりは軽いといわれている。
副作用対策としては、一定期間休薬するか、投与量を減らすかして対応する。休薬せずに治療を続ける必要がある場合は輸血を考えてもよいという。
「骨髄抑制により、気がつかないうちに感染症を起こすこともあるので、あまり通院間隔を空けない、初回治療だけは入院して行うなどの対策が必要な場合もあります。また、高齢者の場合は推奨量より少し少なめで治療を始めるなど、副作用を上手にコントロールすることが大切です」
有望な新規薬剤が次々に登場
今後、他にも有力な薬が目白押しだ(表4)。例えば、ベルケイドに続く第2世代のプロテアソーム阻害薬といわれるのが*carfilzomib/カーフィルゾミブ(一般名)。ベルケイドはしびれなど末梢神経障害の副作用が強く表れやすいのに対して、末梢神経障害を軽減でき、ベルケイドが効かなくなった人にも有効といわれている。単剤より他の薬との併用で効果が高いとされ、現在、日本での治験が進行中だ。2016年度には承認されるのではないかと期待されている。

ベルケイド、カーフィルゾミブはいずれも注射薬だが、経口薬のプロテアソーム阻害薬として日本での承認が待たれているのが*ixazomib/イクサゾミブ(一般名)だ。
「この薬は週1回投与の経口薬です。維持療法(寛解期に入って再燃・再発を予防するための治療)もしくは地固め療法(骨髄腫細胞を完全になくすための治療)で使われるとみられています。米国の学会では、この薬を服用し続けた結果、VGPR(非常によい部分寛解)だった人がCR(完全寛解)までになったことが報告されています」
ほかの抗体薬では、*daratumumab/ダラツムマブ(一般名)という���トモノクローナル抗体や、やはりヒトモノクローナル抗体である*elotuzumab/エロツズマブ(一般名)の治験が行われている。
また、新しい作用機序を持つ分子標的薬として*panobinostat/パノビノスタット(一般名)が今年2月、米国で承認された。日本では未承認だが、日本人も参加する国際共同試験で良好な成績が報告されており、日本での早期承認を求める声が上がっている。
さらに、現在は再発・難治性の多発性骨髄腫治療薬として承認されているレブラミドは、未治療の患者さんにも有効であることが治験の結果明らかになり、1次治療でも使えるよう追加承認の申請が出されている。レブラミドは内服薬なので、1次治療で使えるようになれば患者さんの通院の頻度が減るなど負担の軽減が図れる。高齢で通院が大変な人や、遠方から通院する人には朗報だ。
*carfilzomib/カーフィルゾミブ=商品名Kyprolis/カイプロリス *ixazomib(MLN9708)/イクサゾミブ=商品名未定 *daratumumab(HuMax-CD38)/ダラツムマブ=商品名未定 *elotuzumab(HuLuc63)/エロツズマブ=商品名未定 *panobinostat/パノビノスタット=商品名Farydak
慢性疾患として上手に付き合っていくために
また、エロツズマブはレブラミドと併用するとレブラミドの効果を押し上げる働きがあることがわかっているので、両方の薬が承認されれば、患者さんの生存期間がさらに延長される可能性がある。
このように新薬の登場で患者さんの寿命が延びていくと、もはや多発性骨髄腫は、「たとえ治癒は難しくても、慢性疾患という捉え方が必要になってくる」と竹迫さんは語る。
「以前は2年とか3年とか短期の勝負だったのが、今は10年ぐらい先を考えて治療戦略を立てなければいけません。そうなると、これからは患者さんの生活のことも考えながら治療をしていく必要があります。例えば、高齢になって療養型医療施設の病床に入ると、包括医療制度の中で他院への通院は難しくなり、骨髄腫の治療ができなくなってしまう恐れがあります。できれば自宅、あるいはサービス付高齢者住宅などに入ってもらえば、そこで介護を受けながら骨髄腫の治療のために通院することができます」
そこで大事なのは、寝たきりにならないようにすること、と竹迫さん。
「入院中に、骨の痛みを薬で取り除いてリハビリを行うと、歩けなかった人が歩行器を使ったり、杖を使ったりして歩けるようになり、時間をかけてQOL(生活の質)を高めた例がいくつもあります。それには家族の協力が欠かせないし、ソーシャルワーカーなど社会的なサポートも大いに活用して欲しいと思います」