新薬サークリサ登場で化学療法がさらに進化 多発性骨髄腫は治癒をめざして治療計画を立てる時代に

監修●鈴木憲史 日本赤十字社医療センター骨髄腫アミロイドーシスセンター長
取材・文●半沢裕子
発行:2020年12月
更新:2020年12月


サークリサなどの抗CD38抗体薬で進む臨床試験

サークリサやダラザレックスを含む治療の臨床試験は、今、世界で盛んに行われている。Kd療法(カイプロリス+デカドロン)と、これにサークリサ(Isa)を追加したIsa-Kd療法を比較したIKEMA試験は、1~3回の治療歴を有し、カイプロリスと抗CD38抗体薬(ダラザレックス、サークリサなど)の投与歴がない患者302名を対象に、16カ国(日本を含む)69施設で行われた無作為化多施設共同非盲検第Ⅲ相試験。

今年2020年6月の欧州血液学会(EHA2020)で第1回の中間解析に関する発表が行われ、Kd群における無増悪生存期間が19.15カ月だったのに対し、Isa-Kd群は未達(増悪せず)とのことだった。また、患者の30%で骨髄腫細胞が検出されないMRD陰性に到達したという。

Kd群に抗CD38抗体薬を加えた試験はダラザレックスでも行われており(Candor試験)、こちらでも無増悪生存期間の延長が確認されている(2019年の米国血液学会ASH2019で発表)。

また、EHA2020では、Isa-Kdにさらにレブラミドを加えたIsa-KRd療法を、ハイリスクな多発性骨髄腫患者に対し、ファーストラインで投与した第Ⅱ相試験の中間報告も行われた。

これは完全奏効率(CR)が46.0%で、主要評価項目であるMRD陰性率は67%を示したという。サークリサもあと2年くらいしたら、日本で、ファーストラインで使えるようになるだろうと鈴木さんも推測する。

きっちり治療計画を立て最初から徹底的に叩いて治癒をめざす

サークリサも含め近年相次いだ薬剤の承認は、再発・難治性多発性骨髄腫の患者さんにとって朗報というだけでなく、多発性骨髄腫の治療にも根本的な転換をもたらしつつあるようだ。それはまさに多発性骨髄腫では「治癒をめざす」ということだ(表4)。

「今までの治療戦略は、再発に備えて効果の高い薬を温存しながら延命を図るというものでした。そのため、医療機関によっても、また医師によっても薬の使い方がまちまちでした。今は最初から強力な薬でMRD陰性を目指し、陰性になったら治療を終了することをめざしています」

治療が終わってMRDが陰性になる人は、驚いたことに5~6割に達するという。

「それを維持して治癒にもっていくということですが、MRD陰性が2年くらい続けば治癒といえる人が出てくると思います」

血液��んの薬価は非常に高いため、それは医療経済学的にも必要な戦略転換とのことだが、治癒が目指せるのは患者さんにとっても嬉しいことだ。

「個人的には2~3割の人を治癒に持って行きたいと思っています。15年前と比べて薬が出そろっていますから、可能性は高いと考えています」

近年、そうした流れが根底にあり、2剤3剤併用のレジメン(薬剤投与の治療計画)が標準治療となっているが、大事なのは最初からきっちり治療計画を立て、「サードラインくらいで病気を叩き切ってしまうこと」だと鈴木さんは言う。

「再発と難治は同じです。骨髄腫細胞は初めから隠し玉的な細胞を持っています。最初に出てきた異常細胞を退治して安心していると、別なところから違う異常細胞が出て来る。これをサブ・クローンといい、思わぬところから飛んでくるのでやられてしまいます。ですから、サブ・クローンも含め最初から徹底的に叩いてしまえば、あとは出てこないのではないかという考え方です」

鈴木さんが考える計画的治療とは次になる。

初発ではベルケイド+レブラミド+デカドロンを投与。または、従来の高齢者に対する標準治療のVMP療法(ベルケイド+アルケラン+プレドニン)にダラザレックス(Dara-VMP療法)を追加。ここでMRDが陰性になったら、EPd療法(エムプリシティ+ポマリスト+デカドロン)を行い、続けてIRd療法(ニンラーロ+レブラミド+デカドロン)を経て治療終了へ。

初回治療でMRD陽性だったら、DRd療法(ダラザレックス+レブラミド+デカドロン)。再びMRD陽性だったら、EPd療法→IRd療法とつないでいく。

今後、サークリサはより早い段階で使えるようになると見込まれるので、その場合はMRDが陽性だった段階で、IsaPd療法(サークリサ+ポマリスト+デカドロン)を行う。

この病気は治すことは可能と信じて挑戦!

多発性骨髄腫ではこのほかにもさまざまな治療法が模索されているという。代表的なものとしては、高額な治療費で話題になったCAR-T療法。CAR-T療法とは患者の末梢血から採取したT細胞に、がん細胞表面の抗原を認識できるCAR(キメラ抗原受容体)を発現させ、これを体外で殖やしたのち患者さんの体内に戻すという治療。攻撃目標を教育した受容体を持つTリンパ球を多数送り込むということだ。

「最初の治療は絨毯(じゅうたん)爆撃のようなものです。副作用があっても、とにかく敵にダメージを与えることを目指します。しかし、そのままでは体がまいってしまいます。そこで、仕上げに〝ゴルゴ13〟のようなスナイパーを送り込んで、ピンポイントで攻撃します。敵を残しておくと、必ず復活しますから、最後まで丁寧に掃討するわけです」

それによって、完治は可能なのだろうか。

「可能だと信じています。とにかく、『この病気は治す』と思うことです。白人選手以外にメジャーリーグの道を開いたジャッキー・ロビンソンという選手の言葉に、『不可能の反対は、可能ではなく挑戦だ』というのがありますが、がん治療も同じです。不可能と思うところに治癒はありません。武器を活かし、計画を立て、挑戦していけば、必ず治る人が出てきます。ぜひ治癒をめざしましょう」

と鈴木さんは心強く話を結んだ。

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