3つの新規薬剤の効果と副作用を把握し、有効な治療を~。 副作用を軽減しながら、長く病気とつきあう多発性骨髄腫の新治療

監修:黒田芳明 広島大学原爆放射線医科学研究所血液・腫瘍内科医師
取材・文:文山満喜
発行:2012年4月
更新:2013年7月

移植ができない場合、高齢者は薬物療法

移植が適応しない患者さんや、高齢者(65歳以上)の初期治療には一般的に抗がん剤・新規薬剤を主とした薬物療法となります。初期治療では、できるだけ骨髄腫細胞を少なくさせることが重要です。多発性骨髄腫も一般的な抗がん剤治療と同様、効果が大きい薬の順に用いて治療を進めていきます。

初期治療には、アルケラン()とプレドニン()を組み合わせたMP療法がこれまでは多く用いられてきました。

MP療法は歴史のある治療法で、副作用も少なく、経口薬のため外来通院をベースに治療を継続しやすい薬といえます。しかし、なだらかにゆっくり効くタイプの薬であるため、病気の進行が速いなど、早く治療を始める必要のある患者さんには新規薬剤のベルケイドが選択されます。またベルケイドは臨床試験の結果、MP療法群と比較して生存期間を延長することが認められました。

この治療で効果がない場合、次の治療として、新規薬剤のレブラミドやサレドが用いられます。ただし、最初に使用されるベルケイドには末梢神経障害などの強い副作用があり、そのような障害が出た人には、その後に同じく末梢神経障害が出やすいサレドは使いにくいといわれています。また、レブラミドとサレドを比較し、レブラミド群のほうが治療成績(完全奏効率など)がよかったとの報告もあります。

「ベルケイドの次の治療に使用する薬については、レブラミドがベルケイドの効かなくなった患者さんにもしばしば有効であったということを臨床で経験しています」

アルケラン=一般名メルファラン
プレドニン=一般名プレドニゾロン

高齢者には体に負担の少ない治療を

[新規3薬剤の副作用の比較]

  血液 神経 消化器 その他
サリドマイド 血球減少
血栓症
末梢神経障害
鎮静
便秘・吐き気 発疹
レナリドミド 血球減少
血栓症
倦怠感 吐き気 感染症
ボルテゾミブ 血球減少 末梢神経障害 便秘・下痢 ウイルス感染症
(帯状疱疹)
発熱
肺炎
新規薬剤の副作用を考慮し、治療を選択していく

新規薬剤の使用により、高齢者を中心とした、移植が適応しない患者さんも寛解を狙えることが可能となってきました。しかしながら、高齢者は副作用が強く出てしまい、治療が続かなくなってしまうケースも多いため、①副作用を出さない②患者さんの病状に応じた最適な抗がん剤の順番の工夫③体に負担の少ない薬剤を長く使う──ことが高齢者を中心とする患者さんの治療戦略といえます。

最初の治療薬から次の治療薬への切り替えのタイミングとしては、治療薬を2~3コース行ってもMタンパクが減らない、むしろ増えるという患者さんにはレブラミドやサレドといった次の薬に早めに切り替えることが重要です。

「薬を早く切り替えて、副作用もなく、Mタンパクが減少した状態を維持できているのであれば、それを続けていきます。また高齢者は攻め続けるだけでなく、Mタンパクがかなり減少、あるいは消失したら治療を休み、増加したら治療を始めるなど、『体に負担の少ない治療で長く続けていく』という考え方で治療法を選択していくことが必要だと思います」

再発した場合の治療法は?

再発した場合の治療では、基本的にベルケイド、レブラミド、サレドの3つの新規薬剤を使うことが多いそうです。初回治療時の副作用と治療効果を判定し、この3つの薬剤の中から選択していきます。新規薬剤の登場で、がんの進行を以前よりずっと長く抑えられるようになってきた多発性骨髄腫ですが、更に新たな展望も開けてきています。

具体的な動きとしては、再発・難治性多発性骨髄腫に対するポマリドミド、パノビノスタット、カーフィルゾミブなど、新薬の開発が進められています。

「レブラミドの登場前は、その効果が事前にわかっていたので、ベルケイドの副作用はつらいけれど、レブラミドの承認まで頑張りましょうと患者さんを励ましていました。このように多発性骨髄腫の患者さんは、明日への希望があれば、つらい今もなんとか乗り越えられる方も多いことを実感しました。その点からも新薬への期待は大きいのです」

新たな治療法が開発され続けてきたことで多発性骨髄腫は現在、病気の進行を抑え、寛解を目指すことができるようになっているのです。


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