多発性骨髄腫の進行を抑えながら、QOLの高い生活をめざす 多発性骨髄腫とうまく長くつき合う方法

監修:小杉浩史 大垣市民病院血液内科医長
取材:「がんサポート」編集部
発行:2010年3月
更新:2019年7月

65歳未満なら大量化学療法+自家造血幹細胞移植が標準的

ただし、選ばれる治療は、年齢や全身状態によってかなり違う。65歳未満で臓器の状態がいい(「臓器予備能がある」という)場合は、大量化学療法と呼ばれる強めの抗がん剤治療と、自分の細胞を移植する自家造血幹細胞移植を併用した治療が標準治療となっている。

血液がん治療の最大の目的はがん細胞を根絶するか、極限までその数を減らすこと。そのため、強い化学療法によって、がん細胞を徹底的に叩くことが必要だが、結果として、兄弟関係にある正常な造血幹細胞は回復困難なダメージを受けてしまう。そこで、自分の造血幹細胞をあらかじめ採取・保存しておき、治療後にこれを骨髄に戻す自家造血幹細胞移植を、大量化学療法と併用して行うのだ。

具体的には、まず「寛解導入療法」と呼ばれる多剤併用化学療法を3~4コース行い、完全寛解や、完全ではないがかなりがん細胞が減った状態(「部分寛解」という)を導き出す。その後に、造血幹細胞の末梢血への動員を目的とした化学療法を開始する。

「すると、2週間後くらいに、自身の造血幹細胞が再び回復してきます。そのときにG-CSF製剤(顆粒球コロニー刺激因子)という薬剤を大量に用い、造血幹細胞が末梢血に出てくるよう促すと、通常では末梢血中に100万個に1個くらいしか存在しない造血幹細胞が、100個に3~4個も存在するようになります。これはわずか2~3日ほどしか続かないので、間髪いれず片腕の血管から末梢血を取り出し、アフェレーシスという機械に通して幹細胞を分離・採取し、残りの血液を反対側の腕の血管から体内に戻すという方法で採取します。取り出した幹細胞を凍結保存したら、今度は患者さんを無菌室に移し、体内のがん細胞を根絶するような強い大量化学療法を行います。そして治療後、保存しておいた幹細胞を輸血を行うような方法で体内輸注(移植)すると、造血幹細胞はほとんどが、骨髄に生着します。その後、G-CSFを投与して回復を促すと、だいたい2週間ほどで無菌室を出られるほど骨髄が回復します」

[大量化学療法併用造血幹細胞移植療法と通常量化学療法の比較��験]

臨床試験 症例数 CR/
VGPR率
無増悪
生存期間
中央値(月)
全生存期間
中央値(月)
IFM90 化学療法 100 13 18 44
自家移植 100 38 28 57
MRC VII 化学療法 201 8 20 42
自家移植 200 44 32 54
MAG90 後期自家移植 94 21 13 65
早期自家移植 91 32 39 64
S9321 後期自家移植 255 15 21 64
早期自家移植 261 17 25 58
同種移植 36 17 未到達 6
IFM94 単回自家移植 199 42 25 48
2回自家移植 200 50 30 58
PETHEMA 化学療法 83 11 33 66
自家移植 81 30 42 61
Italian 単回自家移植 80 未検 35 80
2回自家移植 82 未検 29 54
CR=完全寛解 VGPR=very good PR(PR=部分寛解) CRのみ
Kyle RA et al.: Blood 111; 2962 (2008)より改変

新しい薬の登場で、移植を先延ばしできる可能性も

とはいえ、65歳未満の患者さんは多発性骨髄腫全体の20~30パーセント程度と推測されており、70パーセント以上を占めるのは65歳以上の患者さんと考えられる。こうした高齢の患者さんに対し、大量化学療法+自家造血幹細胞移植という強い治療が有効とするエビデンス(科学的根拠)は、今のところ得られていない。

65歳以上でも臓器予備能が高ければ、治療を受けられないことはないが、現在のところ、「高齢の患者さんには、薬の量を減らして行う化学療法と自家造血幹細胞移植を組み合わせた治療や、サレドカプセル(一般名サリドマイド)、ベルケイド(一般名ボルテゾミブ)、レブラミド(一般名レナリドミド、国内未承認)といった新しい薬剤と既存の抗がん剤を組みあわせた化学療法が模索されています」と小杉さんは話す。

「ここ数年の臨床試験では、新しい薬剤を用いた治療が、高齢者を対象に減量した大量化学療法+自家造血幹細胞移植を上回る可能性も出ています。また、いつ誰に行うべきかについても、新薬登場以前のデータと新薬登場後の海外データが最近出始めました。時期については、いずれも長期予後に対して、差を認めないという研究があります。初発時治療で移植が何らかの理由で選択されなかった場合でも推奨できる可能性があります。ただ現時点では、65歳未満の方では、最良の結果が得られるのが移植治療であり、初回に選択するという位置づけは変わっていません」

大量化学療法+自家造血幹細胞移植による治療で死亡する確率は、今や1パーセント以下まで減っている。とはいえ、長期の治療計画が必要な多発性骨髄腫においては、効果はあるが負荷も大きい移植治療を先延ばしにし、新しい薬剤を組み込んだ化学療法をまず行う、という選択肢も出てきそうだ。

[新規薬剤による高齢者対象併用療法]

併用療法(研究者) 症例数 完全寛解 完全寛解+部分寛解 無増悪生存率 全生存率
MPT (Palumbo) 129 16 76 50%, 22カ月 50%, 45カ月
MPT (Facon) 125 13 76 50%, 28カ月 50%, 52カ月
MPT (Hulin) 113 7 62 50%, 24カ月 50%, 45カ月
MPT (Gulbrabdsen) 182 6 42 50%, 20カ月 50%, 29カ月
MPT (Wijermans) 165 2 66 50%, 14カ月 50%, 37カ月
VMP (Miguel) 344 30 71 50%, 24カ月 72%, 36カ月
VMP (Palumbo) 177 20 82 70%, 36カ月 87%, 36カ月
VMP (Mateos) 130 22 81 72%, 24カ月 88%, 24カ月
VTP (Mateos) 130 27 81 65%, 24カ月 93%, 24カ月
CTD (Morgan) 450 23 82 未確定 未確定
VMPT (Palumbo) 152 39 87 74%, 36カ月 88%, 36カ月
MPR (Palumbo) 54 24 81 80%, 24カ月 91%, 24カ月
Rd (Rajkumar) 220 未確定 70 未確定 87%, 24カ月
M:メルファラン、P:プレドニゾロン、T:サリドマイド、V:ベルケイド、C:シクロホスファミド、D:デキサメタゾン、
R:レナリドミド
Palumbo A et al.: Hematology; 566 (2009)より改変

がん治療により骨病変が改善。静注ビスホスホネート製剤も使って

多発性骨髄腫の特徴的な症状であり、切実に対処したい骨病変には、どんな治療を行っていくのか。

「骨髄腫の治療を行い、完全寛解や部分寛解に持ち込むことが、まず最大の治療です。骨は古い骨を壊す破骨細胞と新しい骨を作る造骨細胞のバランスの上に成り立っていて、新陳代謝を行っています。多発性骨髄腫の細胞はこのバランスをこわし、破骨細胞が過剰に働き、骨病変が起こります。骨髄腫の細胞がなくなれば、骨の新陳代謝は正常に戻りますから、骨が再生する可能性は高い。ですから、骨髄腫の治療そのものが、骨病変の治療でもあるわけです。加えて最近は、ゾメタ(一般名ゾレドロン酸)に代表される静注ビスホスホネート製剤という強い味方があります。骨梁()の減少をふくむ骨病変が明らかな場合、ゾメタによる治療を行うべきでしょう。事実、月に1度、点滴によるゾメタの投与を受けると、病的骨折などの骨関連事象を合併する確率を2分の1程度に減らすことが実証されています。それはたとえば、歩けた人が歩けなくなる確率を半分にすることですから、意義は非常に大きいと思います」

骨病変は多くの場合、痛みを伴うが、「初発時から積極的に痛みの管理を行うべき」と小杉さんはいう。また、骨病変がある場合、その部位に荷重をかけない動作を日常的に心がける注意も必要と語る。

骨梁=骨の中の支柱(ハリ)のこと

多発性骨髄腫とうまくつきあっていくために

「何か困ったことがあったり、情報が知りたいときは、遠慮することなく主治医の先生に問いかけてください。混み合った普段の外来では、なかなか聞きにくいときは、外来とは別の時間をとってもらうこともできます。そのときは聞きたいこと、得たい情報を予め用意しておくとよいでしょう。また、インターネットをはじめとする様々な情報源は、すべてが良質な情報であるとはいえません。得た情報すべてを鵜呑みにせず、主治医に情報整理してもらうことをおすすめします。もちろん主治医だけでなく、看護師や薬剤師、がん相談員などのスタッフも患者さんが抱えている問題を解決できるように協力します」と小杉さんは話す。

「生老病死はあらゆる生き物の持つ避けられない過程です。病気には脳卒中や心筋梗塞のように、場合によって、突然人生が途絶えてしまいかねないこともありますが、がんという病気は、自分がどのような病気なのかを知り、治療法が存在し、十分に吟味して、自分の条件に合う治療を選択し、治療と生活を両立させることができる疾患なのです。治療をきっかけに人生をギアチェンジし、元の生活に近い生活に戻ることができる可能性が高いわけです。病気を抑えて、病後の人生をどう紡いでいくか、考えるきっかけをプレゼントされたというとらえ方もできます。その病を得なければ、気づくことがなかったかもしれない家族や友人の大切さや、人生の価値に思い至るということすらあるわけです。

今、皆さんの病気の治療を行っている医療スタッフも、いずれは、何割かの人が治療を受ける側になります。誰か特別な人のみが被る病ではないのです。疾患そのものは、今は、当事者であるご本人が背負うしかないものでしょうが、周りの家族や友人などは、その他の荷物を背負って手助けすることができます。主治医は、海原を航海士として水先案内してくれます。治療の選択肢は無限ではありませんが、比較的豊富です。どの時期にどんな治療を受けるか、患者さんが自分の価値観で決めやすい病気だと思います」

(構成/半沢裕子)


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