骨髄腫の場合、必ずしも早期診断早期治療の鉄則が当てはまらない あなたはどの病型?治療法が明確化された多発性骨髄腫の新診断基準
診断の決め手はMタンパク。最終的には骨髄穿刺
多発性骨髄腫などの血液がんを発見するための集団検診は、実施されていない。だから骨髄腫の発見は腰痛で整形外科を訪れたり、一般の健康診断を受けることで発見されることがある。
「骨痛があれば最初に受診するのは整形外科が多いでしょうから、そこで鑑別したり診断したりすることが多くなります。また腎臓の症状のある人が腎臓専門医を受診して生検を受けたり、心疾患のある人が循環器専門医からの紹介を経て骨髄腫細胞が見つかるということもあります」
「骨髄腫の診断の決め手はやはりMタンパクが陽性であることです。しかし、これだけでは形質細胞の異常があるかどうかわからないし、まれにMタンパクが検出できないタイプの骨髄腫もあります。最終的には、骨髄穿刺(※2)を行い診断します」
多発性骨髄腫が疑われる症例を見つけたときの主な検査は、血液(末梢血)検査、尿検査、骨髄穿刺、X線検査である。また、血液や尿のタンパク成分を調べる電気泳動(※3)という検査も行う。あわせて、血液中のタンパク量であるアルブミン値、貧血状態をみるヘモグロビン値、腎障害の程度を見る血清クレアチニン値、骨から溶け出しているカルシウムの量を見る血清カルシウム値、骨髄腫細胞の活動をみるベータ2ミクログロブリン値などを調べる。
X線検査は、骨病変や骨がもろくなっていないかを調べる最も一般的かつ必須の方法だ。多発性骨髄腫では、骨病変によりもろくなっている箇所が「打ち抜かれた」ように見える骨打ち抜き像(パンチドアウト)といわれている画像が観察されることが多い。
「まずX線を撮って異常がなければそれ以上画像検査は行いません。しかし、ここで所見があればさらにX線CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(核磁気共鳴画像法)の検査を行います」(吉田さん) CTは、色々な角度で撮影したX線写真をコンピュータ処理し、輪切りの形で見るもの。詳細な病変を検出することができるので、脊椎の病変を捉えることができる。
MRIは、磁場を用いて対象を分子レベルで観察できるので、撮影した画像から異常な部位を特定できる。
※2 骨髄穿刺=胸骨や腸骨に穴を開け、注射針で骨髄を採取して、造血能力や異常細胞の有無などをみて、多発性骨髄腫や白血病を診断する検査
※3 電気泳動=荷電したイオンなどが電��の力によって移動すること
1.末梢血 | 赤血球数・ヘモグロビン・ヘマトクリット・白血球数・分画・血小板数 |
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2.血液生化学 | 総蛋白・アルブミン・蛋白分画・ALP・LDH・BUN・クレアチニン・カルシウム・電解質 |
3.血清免疫 | 免疫グロブリン定量・β2ミクログロブリン・CRP・血清免疫電気泳動・免疫固定法・血清free light chain定量 |
4.尿 | 蛋白定量(24時間尿)・尿蛋白分画・尿中Bence Jones蛋白(尿免疫電気泳動・免疫固定法) |
5.骨髄穿刺または生検 | 骨髄像・骨髄腫細胞の形態・表面マーカー・染色体(G染色法とFISH) |
6.画像検査 | 単純骨X線写真・CT・MRI・PET |
治療が有用な例を明確に示す新診断基準
多発性骨髄腫の確定診断には、これまではSouthWest Oncology Group(SWOG)の診断基準というものが最もよく用いられていた。しかし、骨髄の形質細胞の割合やMタンパクの量、骨病変などにポイントをおいたもので「煩雑すぎる」という声があった。
最近多発性骨髄腫の診断基準と病型分類はInternational Myeloma Working Groupの国際診断基準(IMWG国際骨髄腫診断基準)に基づくことが推奨されるようになった。IMWGでは、治療が必要な例を明確化した病型を分類して、よりわかりやすく示している。
「多発性骨髄腫などの血液がんは、固形がんのように早期診断早期治療という概念は一般にあまり当てはまりません。病型によっては治療せずに放っておいても、その後10年間生きられるような症例もあります。逆に言うとあまり早い時期に治療を始めると、薬のメリットを受けられず副作用というデメリットだけ受ける可能性も出てきます。
そこで多発性骨髄腫では、ある程度進行した状況になってから治療を始めるというのが世界的な治療の流れとなっています。すなわち多発性骨髄腫では、固形がんのように腫瘍細胞の量によってその後の生存期間が左右されるということが明確に証明されていないのです」
たとえばMタンパクはあるけれど増えずに症状がない「無症候性骨髄腫(くすぶり型骨髄腫)」という病型がある。以前は、この段階で治療が行われる場合もあったが、新しい病型分類では治療はしない。 しかし、このくすぶり型から進行したタイプ、骨病変や貧血、臓器障害、高カルシウム血症などの症状がある病型になると、一般的な化学療法が開始される。骨病変に伴う骨折予防に関しては、ゾメタ(一般名ゾレドロン酸)という薬が使用される。
また、骨髄腫細胞という悪い形質細胞がいるにもかかわらず、Mタンパクを作らない(非分泌性骨髄腫)という病型も示されている。
さらに、形質細胞の固まりがあってもMタンパクはほとんど作らないという固形がんのような単発タイプもあり、これは、他のタイプとは異なり、固形がんと同じく外科手術で切除したり放射線治療が選択されたりする。
このタイプは、骨髄腫を取り切ることができれば治癒できる可能性もある。
- 1.各病型の基準
- ◎意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)
- ・血清M蛋白<3g/dL
・骨髄におけるクローナルな形質細胞の比率<10%
・他のB細胞増殖性疾患が否定されること
・臓器障害がないこと - ◎無症候性骨髄腫(くすぶり型)
- ・血清M蛋白≧3g/dLand/or
・骨髄におけるクローナルな形質細胞比率≧10%
・臓器障害がないこと - ◎症候性多発性骨髄腫
- ・血清および尿にM蛋白
・骨髄におけるクローナルな形質細胞の増加または形質細胞腫
・臓器障害の存在 - ◎非分泌性骨髄腫
- ・血清および尿にM蛋白を(免疫固定法により)検出しない.
・骨髄におけるクローナルな形質細胞の比率≧10%増加または形質細胞腫
・臓器障害の存在 - ◎骨の孤立性形質細胞腫
- ・血清および尿にM蛋白を検出しない*.
・クローナルな形質細胞の増加による1ヵ所のみの骨破壊
・正常骨髄
・病変部以外は正常な全身骨所見(X線写真およびMRI)
・臓器障害がないこと
*少量を検出することがある. - ◎髄外性形質細胞腫
- ・血清および尿にM蛋白を検出しない*.
・クローナルな形質細胞による髄外腫瘤
・正常骨髄
・正常な全身骨所見
・臓器障害がないこと
*少量を検出することがある. - ◎形質細胞性白血病(PCL)
- ・末梢血中の形質細胞>2,000/μL
・白血球分画中形質細胞比率≧20%
- 2.臓器障害[Myeloma-related organ or tissue impairment(ROTI)]
- 1) 高カルシウム血症:血清カルシウム>11mg/dLまたは基準値より1mg/dLを超える上昇
- 2) 腎機能低下:クレアチニン>2mg/dL
- 3) 貧血:Hb値が基準値より2g/dL以上低下または10g/dL未満
- 4) 骨病変:溶骨病変または圧迫骨折を伴う骨粗鬆症(可能であればMRI or CT)
- 5) その他:過粘稠症候群,アミロイドーシス,年2回以上の細菌感染
(出典:多発性骨髄腫の診療指針第2版,日本骨髄腫研究会編,文光堂)
新しい診断基準でより有効な治療が
一方、骨髄腫の病期分類は、これまでは腫瘍細胞の体表面積当たりの個数とそれと相関するヘモグロビンや血清カルシウム値、Mタンパクの濃度、骨病変を尺度とする「Durie&Salmonの病期分類」というものを採用してきた。
しかしながら、それぞれの病期と生存期間の間にはあまり関係性が認められないという報告もあったことから、IMWGでは2005年に簡単で使いやすい新しい国際病期分類(International Staging System:ISS)を提案し、現在はこれが標準的に用いられるようになっている。
ISSはアルブミンの値と電気泳動で検出されるベータ2という領域にあるMタンパクの値を目安にしたもので、Durie & Salmon分類と比較して、ステージごとの予後が明瞭になった。
病期 | 基準 | 生存期間中央値(月) |
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1 | 血清β2MG<3.5mg/L 血清ALB値>=3.5g/dL | 64 |
2 | 1期、2期以外※ | 44 |
3 | 血清β2MG<5.5mg/L | 29 |
(1)血清β2MG<3.5mg/L&血清ALB値<3.5/dLに低下
(2)血清β2MG3.5to<5.5mg/L(血清ALB値に無関係) (出典:多発性骨髄腫の診療指針第2版,日本骨髄腫研究会編,文光堂)
「昔なら多発性骨髄腫の治療は、ちょっと効いただけでも大変なニュースになるといったのが実態でした。それが、現在ははるかに長期の延命が可能になり、治癒を目指すまでの話も出てきています。診断基準で治療すべき対象がより明確に示されたことで、より有効な治療ができるようになりました」