患者の80%以上に起こる骨病変をいかに防ぎ、治療するかがQOL改善の鍵 多発性骨髄腫の治療はここまできた!QOLの改善と希望に向かって

対談:清水一之さん 名古屋市立緑市民病院院長
上甲恭子さん 日本骨髄腫患者の会副代表
撮影:河合修 写真家
発行:2008年9月
更新:2013年4月

若い患者さんなら大量化学療法の選択を

清水 海外の少なくとも2つの大規模比較試験で、Mタンパクが消失する完全寛解を含めた奏効率(Mタンパクの減少する割合)、再発までの期間、そして全生存期間の全てに大量化学療法が通常量の化学療法に勝るとする結果が提出され、現時点で大量化学療法は65歳以下の移植条件を満足する患者さんに最善の結果をもたらす治療法であると認められています。ただここで注意しなければならないことに、大量化学療法を予定した場合の導入療法にはMP療法は適切でないということがあります。それはMP療法を長く行っていると、移植に必要な造血幹細胞がダメージを受けてしまい、移植に必要な量を採取できなくなるからです。

上甲 自家移植が向いている患者さんがいても、その治療を受けるチャンスを逃してしまうことになるわけですね。若い患者さんには自家移植という選択肢があることをぜひ知ってほしいですね。また最近はサリドマイドや分子標的薬のベルケイド(一般名ボルテゾミブ)という新薬も使うことができるようになってきました。サリドマイドは現在承認審査中ですが、ベルケイドは一昨年承認されました。

サリドマイドの登場により驚くほどの効果が

清水 骨髄腫の治療薬の進歩は、1962年にMP療法の誕生、1993年に自家移植、1999年にサリドマイド、2003年にベルケイドというマイルストーン(道標)を歩んできました。これに合わせて生存期間も段階的に延びています。ただ、サリドマイドやベルケイドなどの新規薬剤は、欧米では医師主導により初期治療から使えますが、日本では残念ながら再発した患者さんにしか使えません。日本でのデータはあまりないのですが、このような新規薬剤は自家移植と同等の効果をもたらす可能性があり、初期治療に使うことによって自家移植をしなくて��む、あるいは再発までの期間を延ばすことも期待できるわけです。

上甲 父の例では化学療法が最初はよく効いていたのですが、病気が再燃しだしてからはどの治療も効かず、未承認のサリドマイドを個人輸入して使うことにしました。これが効果を発揮し、2年間QOL高く生活することができました。新規薬剤の登場は、先に希望をつなぐという点でとても大きいと思います。

清水 従来の化学療法では再発を繰り返し、そうするうちに薬が効いている期間がだんだん短くなって死に近づく。それを手をこまねいて見ているしかありませんでした。それがサリドマイドの登場により驚くほど効く例を目の当たりにするようになったのです。昔だったらそのまま亡くなっていたような患者さんが元気になって、しかも経口薬だから退院して通院治療までできるようになっています。さらにベルケイドは、再発後や治療が効かなくなった患者さんにおいても奏効率が30数パーセントと、サリドマイドに勝る効果が示されていて、患者さんの延命の機会はさらに広がりました。

骨病変の治療には静注ビスホスホネートを

上甲 日本は欧米に比べて新規薬剤の承認が非常に遅いですが、骨髄腫の合併症を緩和する支持療法についても同様ですね。

清水 骨髄腫の合併症としては、骨折などの骨関連事象(SRE)と呼ばれるものがいちばん問題になりますね。このなかで2006年4月、多発性骨髄腫の骨病変に対してやっとビスホスホネート製剤が承認されました。

上甲 ただビスホスホネート製剤には静注剤と経口剤があって、骨粗鬆症の治療に使われている経口剤を服用している人が時々いらっしゃいます。

清水 経口のビスホスホネートは服用して体に吸収される割合は2パーセント程度しかありません。注射剤はこれと比べれば月とスッポンくらい効果は違います。おまけに経口剤は服用する時、うまく胃の中に落ちずに食道に貼りついたりすると、そこに潰瘍ができるという副作用もあるのです。ですからビスホスホネートは静注で利用することをお勧めします。ただ、ビスホスホネートは最近顎骨壊死という副作用が起こることも報告されているので、治療中は歯科医や口腔衛生師などのチェックも必要です。その他に腎機能にも注意すれば、ビスホスホネートは安全に投与することができます。ビスホスホネート治療によってSREの起こるリスクを減らして患者さんのQOLを向上させることができれば、生存期間の延長にもつながります。このビスホスホネート治療の効果は乳がんや前立腺がんが骨に転移した患者さんにも証明されています。

大きな希望を持って闘病する意欲

会の発足当初は患者向けの読物がなく、清水さんがその手伝いをしたのが顧問医師となるきっかけだったとか

上甲 ビスホスホネートの承認以降、骨病変の治療や予防が薬剤によって可能になりました。骨髄腫患者の会は、副作用である顎骨壊死を避けるための口腔ケアや、骨を守るための日常生活の注意点の広報活動にいそしんでいます。日常生活の注意点では、ウォーキングなど適度に体を動かして運動負荷をかけること、カルシウムの吸収を高めるビタミンDの体内での生成を促進するため日光を浴びること、腰への負担を和らげるためふとんよりベッドを、しゃがみこむ姿勢を避けることなどを日本骨髄腫患者の会で作成した小冊子やDVDを通じて呼びかけています。

清水 新規薬剤のベルケイドは骨芽細胞を刺激して骨を再建する効果があるともいわれていますね。私の患者さんの1人に圧迫骨折で身長が5センチくらい低くなってしまった人がいますが、今では2週間に1回のベルケイド治療を受けながら、趣味のスキューバダイビングを続けることができるようになりました。海外の海へ行くことも可能となって、日焼けで真っ黒ですよ。症状さえ上手くコントロールできれば、そういうこともできるわけです。

上甲 私の父も身長が10センチ低くなるほど背骨の圧迫骨折があったのですが、治療が効いて骨の痛みがなくなると、海外旅行に出かけたり北海道へカヌーに乗りに出かけたりしました。ですから骨髄腫との闘病といっても、必ずしも絶望的、悲観的な話ばかりではなくなっていると思います。

清水 多発性骨髄腫という病気は、かつては患者さんの余命も限られ、大きな痛みと闘い続けなければならないとても悲惨な病気でした。しかし、治療薬においても支持療法においても大きな革新がもたらされています。そして、この骨髄腫の分野の革新が基盤になって、悪性リンパ腫など他のがん治療へもよい成果が波及しようとしています。がんの患者さんたちがさらに大きな希望を持って闘病していける基盤を、この骨髄腫の分野から構築していければと考えています。


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