大きく変わりつつある多発性骨髄腫の最新治療 注目されるサリドマイド、レブラミド、ベルケイドの新御三家の力

監修:服部豊 慶応義塾大学病院血液・感染・リウマチ内科助手
取材・文:半沢裕子
発行:2006年10月
更新:2014年1月

第1に化学療法。組み合わせはいろいろ

このように、患者さんの状態を見、患者さんと話し合って治療を行うが、多発性骨髄腫の治療法は今のところ第1に化学療法。抗がん剤とステロイド剤を組み合わせた治療が中心だ。

放射線は骨髄腫の治療としては行われず、あくまで局所の腫瘍の増殖をおさえること、痛みを軽くすることを目的に行われる。

化学療法で最も一般的なのは、抗がん剤のアルケラン(一般名メルファラン)とステロイド剤のプレドニゾロン(一般名も同じ)を併用して使う方法(MP療法)だ。がん細胞の活動が活発なときは、より即効性のあるVAD療法が選択されることもある。これはオンコビン(一般名硫酸ビンクリスチン)、アドリアシン(一般名ドキソルビシン)という2種の抗がん剤と、デカドロン(またはコルソン、一般名デキサメタゾン)というステロイド剤を併用して使う方法だ。

[多発性骨髄腫に対する化学療法]

治療 内容 利点 欠点
MP療法 アルケランと
プレドニゾロン
との併用
・飲み薬
・副作用がしのぎやすい
・60%に効果
・骨髄腫の治療として長期の経験あり
・造血幹細胞を痛めるので、次回以降の移植の可能性をせばめる
・効果が出るまでに数ヵ月かかる
・迅速にがん細胞を減らす必要があるときや、移植計画のあるときには向かない
VAD療法 オンコビン、
アドリアシン、
デカドロンの
3剤併用
・70%に効果
・正常な造血幹細胞は傷つけない
・造血幹細胞移植を行う準備として使用
・静脈から入れるため、カテーテルが必要。カテーテルは感染症や血栓塞栓症の引き金になるおそれがある
・神経障害のおそれ
・ひんぱんに使うと効かなくなる
デカドロンを使う治療 デカドロンのみ VAD療法を完全にこなした場合にかなり近いレベルの効果 ・ひんぱんに使うと効かなくなる
・感染症にかかりやすくなる
デカドロンと
アルケランとの併用
MP療法よりも迅速に効く アルケランが造血幹細胞を傷つける
デカドロンと
サリドマイドとの併用
が��細胞の消失率70% サリドマイドを初回の治療に使うのはまだ研究段階。神経障害の副作用が心配。長期の治療効果は不明

若くて体力があれば大量化学療法+移植

「がん細胞の勢いがさらに強く、しかも、患者さんが若くて激しい治療に耐えられると判断した場合は、大量の抗がん剤を使う『大量化学療法』が行われることもあります。この治療法はがん細胞を一気に殺しますが、骨髄も破壊され、血液が作れなくなってしまいます」(服部さん)

そのため、ドナー(提供者)からもらった造血幹細胞(血液の元となる細胞)を移植して、骨髄を復活させる方法(同種移植)や、大量化学療法の前に採取した患者さん自身の造血幹細胞を移植する方法 (自家移植)がとられる。

「同種移植は多発性骨髄腫では唯一、真の完全寛解(Mタンパクもがん細胞も見つからない状態)の可能性をもっています。自家移植では自分の骨髄を移植するため、どうしてもがん細胞が混じりますが、他人の造血幹細胞であればがん細胞がふくまれず、また、ドナーのリンパ球が患者さんの体内のがん細胞を攻撃する、移植片対腫瘍効果(GVL)も期待できます」(服部さん)

ただし、ドナーの細胞が患者さんのからだに適合しなければ、移植片対宿主病(GVHD)が起こる。現時点では、これがもとで約3割の患者さんが亡くなっている。

また、前処置(大量化学療法によってがん細胞を減らすと同時に、患者さんの免疫を弱らせ、ドナーの造血幹細胞を受け入れやすくする処置)が十分でないと、患者さんの骨髄に残されたリンパ球がドナーの細胞を排除してしまう(拒絶反応)。

自家移植は保存した自分の造血幹細胞にがん細胞が混ざっている可能性があるが、それでも、通常の化学療法より、自家移植を併用した大量化学療法のほうが、生存率がいいとされている。

[移植の比較]

  自家移植(大量化学療法) 同種移植(従来の方法) ミニ移植
できる年齢の上限 70歳 50歳 70歳
完全寛解 20~50% 25~60% 30~70%
治療関連死亡 5% 30~50% 20~30%
再発 ほぼ5年以内に再発する 再発しない例もある まだ不明

昔ながらのMP療法は、生存期間で優れた治療法

「先にも述べたように、どんな治療法を選ぶかは、患者さんのライフスタイルなどにも関係があります。たとえば、60歳そこそこの会社社長で、まだ事業から手を引けないし、体力的にも充実している、というような方に対しては、移植を視野に入れた治療計画を立てます。が、判断のベースになるのは、やはり年齢です」(服部さん)

分岐点になるのは、だいたい65歳。これより若く、臓器障害のない患者さんに対しては、自家移植を行うことがあるという。

同種移植はさらに若く、55歳以下を対象とするが、最近は前処置が同種移植より軽い「ミニ移植(骨髄非破壊的同種移植)」も行われるようになっていて、1回目に自家移植、2回目にミニ移植を行う患者さんも増えているとか。こうした場合、年齢制限はおよそ60歳と考えるといいそうだ。

65歳以上の、移植を考えない患者さんに対する第1選択は、MP療法だ。今はさまざまな薬剤による療法が提案されているが、そうした治療法と比較しても、MP療法は生存期間の点で明らかに優れている。

なお、自家移植の可能性のある患者さんに対し、アルケランを使うことはない。体内の造血幹細胞にダメージを与えるからだ。こうした患者さんに対してはVAD療法を行うか、デカドロンを中心とした治療で寛解をはかってから移植に向かう。

治療法を決める判断材料として、最近は染色体異常も注目されている。たとえば、13番染色体に欠失があって形質細胞種ができるような場合は、通常の化学療法を行っても予後が悪い。こうしたケースでは、形質細胞腫に放射線を当てたり、化学療法によって病勢を衰えさせ、その後自家移植を行う。そして、もし効果が少なかったり、再発が認められたときには、同種移植を検討する。

ただ、治療によっていったんは完全寛解や部分寛解にいたっても、やがてまたMタンパクが増え始め、骨髄腫細胞が現れるのが一般的だ。再発を予防するための維持療法は、残念ですが、まだ確立していないのだ。


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