「CAR-T療法」「二重抗体療法」など期待される治療法が次々登場 進歩し続ける多発性骨髄腫の新しい治療法

監修●石田禎夫 日本赤十字社医療センター血液内科部長/骨髄腫アミロイドーシスセンター長
取材・文●柄川昭彦
発行:2022年2月
更新:2022年3月


2つの標的に結合する二重抗体で腫瘍細胞を攻撃

二重抗体というのは、2つの標的を持つ抗体である。現在、多発性骨髄腫の治療薬として開発が進められている二重抗体は、1つの標的が腫瘍細胞に発現しているBCMAで、もう1つの標的がT細胞に発現しているCD3だ。

投与された二重抗体は、腫瘍細胞のBCMAを見つけ出して結合し、抗体として抗腫瘍効果を発揮する。さらにCD3を発現しているT細胞を引き寄せて結合するので、T細胞による腫瘍細胞への攻撃も期待することができる。

「T細胞に攻撃させるという点で、CAR-T療法に近い作用があると考えられています。現在、何種類もの二重抗体の開発が進められています。臨床試験が世界中で行われていて、日本でも進められていますが、まだどこの国でも承認はされていません」(石田さん)

CAR-T療法のように投与するまで何週間も待つ必要がないのも、この治療法のメリットである。二重抗体は、急性リンパ性白血病(ALL)の治療薬としてはすでに承認され、日本でも保険で使われている。

二重抗体はBCMAとCD3を標的とした抗体の研究開発が進められてきたが、BCMA以外のタンパク質を標的とする二重抗体の開発も行われている。

「CAR-T療法もBCMAを標的としているため、両方の治療を受けることを考えると、お互いに効きにくくなることも想定されるわけです。そこで、新しい標的とCD3に結合できる二重抗体が開発されているのです。今後、新しい標的のCAR-T療法も開発されるかもしれません」(石田さん)

抗体薬と抗がん薬を結合させた薬剤

ユニークな抗体薬の開発も進められてきた。ベランタマブ マホドチン(一般名)は、BCMAを標的とする抗体に、抗がん薬を結合させた抗体薬物複合体である。腫瘍細胞のBCMAに結合し、抗体と抗がん薬の両方で腫瘍細胞を攻撃する薬剤だ。日本ではまだ治験が行われている段階だが、米国や欧州ではすでに承認されて使われている。

ただ、この薬は有害事象として角膜障害を起こしやすい。抗がん薬が角膜に蓄積することで障害が発生する。

「何らかの目の障害を起こす人が約70%、グレード3以上の障害が約30%の人に起こります。グレード2以上は治療を中断しなければなりません。実臨床ではやや使いづらい、というのが米国での評判です」(石田さん)

この薬が承認された場合には、眼科での検査を受け、障害が起きていないことを確認しながら使うことになるという。

進歩を続けてきた多発性骨髄腫の治療だが、これからしばらくは、CAR-T���法と二重抗体療法を中心に研究開発が進められていくことになりそうである。

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