CAR-T療法、二重特性抗体療法、さらにその先へ 進歩が続く多発性骨髄腫の最新治療

監修●石田禎夫 日本赤十字社医療センター血液内科部長/骨髄腫アミロイドーシスセンター長
取材・文●柄川昭彦
発行:2024年5月
更新:2024年5月


エルレフィオは約2/3の患者さんに効いた!

エルレフィオが承認される根拠となった臨床試験が、「MagnetisMM-3」試験です。再発・難治性多発性骨髄腫で、3系統の薬剤を含む少なくとも3つの標準的な治療が無効又は治療後に再発した患者さんが対象となりました。その結果、全奏効率は61%でした(図4)。

腫瘍が産生する異常なタンパク質が半分以下になるのがPR(部分奏功)、90%以上減った場合にはVGPR(very good PR=非常によい部分奏功)と判定されます。治療された患者さんにおいて、CR(完全奏功)以上が35%を占め、VGPR以上が56%を占めていました(図5)。

「エルレフィオが奏効するのは2/3弱の患者さんですが、効いた人は非常に深い奏効が得られるということです。従来の治療では、だいたい4カ月ほどで再発が起きていましたが、エルレフィオによる治療では、治療開始から15カ月時点でも、まだ半数以上の人に再発が起きていないというデータが出ています」

エルレフィオの投与方法は皮下注射です。1日目に12mg、4日目に32mgを皮下注射し、8日目以降は1回76mgを1週間隔で皮下注射します。そして、24週以上投与して奏効が認められる場合には、投与間隔を2週間隔に変更します(図6)。

「CAR-T療法は開始するまでが時間がかかって大変ですが、1回投与すれば、その後は無治療で生活する期間が得られます。エルレフィオはすぐに治療を始められる利点はありますが、効いている限り皮下投与治療を継続する必要があります。そこが2つの治療の大きな違いといえます」

CAR-T療法とエルレフィオの両方を使うケースも考えられますが、その場合は、どの順番で行うかが治療成績に影響する可能性があります。

「CAR-T療法を行いその後に再発が起きたときに、エルレフィオを使ってもよく効いているというデータがあります。しかし、その逆の順番はあまり効いていないので、2つの治療を使うなら、CAR-T療法を先にしたほうがよいと言われています」

新しい臨床試験が次々と行われている

急速に進歩し続ける多発性骨髄腫の治療ですが、進歩はまだまだ止まりません。新しい治療のための臨床試験が、いくつも同時並行で進められているのです。主なものを紹介していくことにしましょう。

初発治療の効果を高めようということで、4剤併用の臨床試験が進められてきました。従来の治療では、移植適応の1次治療はVRD療法(ベルケイド+レブラミド+デキサメタゾン)が標準治療。これにダラザレックスを上乗せした4剤併用とVRDを比較する試験が、海外で行われたのです。結果は、4剤併用のほうが有意差をもって予後を改善するというものでした。

欧州では、「サークリサ+カイプロリス+レブラミド+デキサメタゾン」の4剤併用療法の試験が行われ、ここでも非常によい成績が示されています。

移植非適応に対しては、「ダラザレックス+VRD」や「サークリサ+VRD」といった4剤併用の臨床試験が行われています。これには日本も参加しています。

「これらの臨床試験結果が出ると、移植非適応の人は、日本でも1次治療で4剤併用が使えるようになると思います。初発時に強力に抑え込むために4剤併用を使うのは、世界的な流れになっています。もう1つは、再発・難治性多発性骨髄腫の治療に使っているCAR-T療法や二重特異性抗体療法を、初発で使えるようにしようという流れです」

そのための臨床試験もすでに始まっています。

「4剤併用療法が承認されると、まずは4剤併用が1次治療で使われるようになるでしょう。しかし何年かすると、CAR-T療法や二重特異性抗体療法が、初発治療か2次治療で使えるようになるのではないかと思います。CAR-T療法や二重特異性抗体療法は、リンパ球の助けを借りる治療法なので、リンパ球が疲弊していないほうがよく効きます。これまでは長期間にわたって治療を行い、リンパ球が疲弊してからCAR-T療法や二重特異性抗体療法を行っていました。将来、もっと早い段階で行うことで、現在よりもよりよく効く可能性があります」

患者さんのリンパ球が元気な状態で治療することにより、さらに大きな効果が期待できるわけです。

新しいCAR-T療法への期待もあります。現在、日本で使えるのはアベクマだけですが、同じBCMAを標的とするcilta-cel(シルタセル)というCAR-T細胞もあり、米国ではこれもすでに承認され治療に使われています。

「アベクマの奏効率は81%ですが、シルタセルの奏効率は97%です。残念ならが、これはまだ日本では使えませんが、いずれ日本でも使用可能となることを期待しています」

また、従来のCAR-T療法の弱点を克服した、短期間で投与できるCAR-T療法の臨床試験も進んでいます。体の外でCAR-T細胞を増殖させるのではなく、遺伝子を入れたらすぐに体内に戻し、患者さんの体の中でCAR-T細胞を増殖させるCAR-T療法です。

二重特異性抗体療法に関しては、併用療法の臨床試験が始まっています。他の薬と併用することで、従来の標準療法を上回る成績が出てくる可能性があります。

「こうした治療開発研究が進められていくことで、教科書的には治癒しないとされている多発性骨髄腫が、何パーセントの患者さんは、『治癒する』という表現に変わっていくのではないかと期待しています。

ただ、時間はかかります。移植非適応の場合、かつては2~3年で再発するのが普通でしたが、現在の日本の標準治療である『ダラザレックス+レブラミド+デキサメタゾン』の3剤併用療法ですと、再発までの期間が61.9カ月に延びています。この治療を上回る必要があるので、非常に長期にわたる観察期間が必要になるからです」

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