軟部肉腫は多様。治療は必ず専門医に受けよう!手術に化学療法。変わりつつある軟部肉腫の治療

監修:井須和男 国立病院機構北海道がんセンター腫瘍整形外科・外科系診療部長
取材:がんサポート編集部
発行:2012年4月
更新:2019年7月

軟部肉腫の治療は手術が基本

[軟部肉腫の治療法]
軟部肉腫の治療法

治療の基本は手術。取りきれる可能性も高いため、病期に関わらず手術を行いますが、再発を防止するため、まわりの健康な組織も含めて大きく切除します。

抗がん剤や放射線治療と併用する場合もありますが、それはむしろ少数とのこと。しかし、再発率は低く、「病院によりますが、10~20%程度と思います」。つまり、手術により治るケースも少なくないということです。

ただし、同じ場所に再発(局所再発)しない場合でも、将来的に肺などに転移する可能性があるので、術後もしっかり経過観察することが大切です。

放射線治療を併用するのは、たとえば腫瘍が大事な血管や神経に接していて、腫瘍を取りきるのに十分な切除域がとれないとき。その場合に手術前に腫瘍に放射線を当て、サイズを小さくしてから手術を行います。また、手術で腫瘍を取ったあと、周りに残っている可能性のある腫瘍細胞を叩くために、放射線治療が行われることもあります。しかし、放射線だけで治る軟部肉腫はなく、放射線治療はあくまで補助的に行われます。

切除する範囲が大きい場合は、患者さんのお腹や背中から皮膚や筋肉を移植することも。神経や血管まで移植することもあります。腫瘍が骨や関節に接している場合には、骨や関節を切除し、骨を移植したり、人工関節による再建なども行われます。

抗がん剤治療は病状と体調で慎重に判断

[軟部肉腫に有効な抗がん剤]
軟部肉腫に有効な抗がん剤

悪性度の高い軟部肉腫では、抗がん剤治療を併用することもあります。とくに、横紋筋肉腫は手術+抗がん剤治療が基本で、抗がん剤を術前に行う場合と術後に行う場合がありますが、最近は術前のほうが主流になりつつあります。

ただし、

「最近は、軟部肉腫の患者さんに抗がん剤治療を行ったほうがいいかどうか議論があり、『場合によってはやったほうがいい』という結論になりつつあります。具体的には、①組織学的悪性度が高い、②腫瘍が5㎝以上の大きいもの、③できている場所が深い、と���う3つの条件がそろった症例では、抗がん剤を行ったほうがいい、というのが結論です。③の深さとは、通常のがんでいう『浸潤している』(がんが臓器に深く食い込んでいること)という意味ではなく、文字通り、腫瘍が浅い場所(たとえば皮膚表面)にできているか、深い場所(たとえば筋肉)にできているかということを意味します」

と、井須さんは説明します。

「ですから、1期ではまず抗がん剤治療は行いません。2期でも大きさが小さかったり病巣部の位置が浅ければ行いません。また、お年寄りには行わないなど、患者さんの年齢や体調によって抗がん剤を行わない場合も少なくありません」

軟部肉腫で行われる抗がん剤治療は、一般的にアドリアシン()とイホマイド()の2剤併用療法です。いずれかを単剤で使う場合もありますが、今のところ、単剤と2剤併用とでは効果に差がないとされています。例外は滑膜肉腫で、これにはイホマイドがよく効くとされています。

アドリアシン=一般名ドキソルビシン
イホマイド=一般名イホスファミド

欧米では新薬も登場。有効な薬剤も出てきつつある

また、2011年、米国とヨーロッパで進行性悪性軟部肉腫に対する治療薬として承認申請が出された薬に、新しく開発されたボトリエント()という薬があります。さらに、平滑筋肉腫などに対し、ジェムザール()やタキソテール()が効くとする症例報告などもありますが、

「これらはいずれもアドリアシンとイホマイドの2剤併用療法が効かなくなった患者さんに効果を期待して行われたり、補助的治療として行われるもので、ボトリエント以外は臨床試験も行われていない段階です。将来的に、標準治療薬として登場するかどうかもわかりません」

抗がん剤は健康な細胞にも作用するため、ほとんどの場合、強い副作用を伴います。アドリアシンとイホマイドも吐き気や嘔吐、骨髄抑制()、脱毛などの症状が強めに出ることで知られ、イホマイドは間質性肺炎や心不全を起こすこともあります。

「専門医にかかると、そうした最新の抗がん剤事情もふくめ、効果と患者さんのQOL(生活の質)を考慮した治療が受けられる可能性が高いと思います。ぜひ前向きに治療に取り組んでいただきたいと思います」

ボトリエント=一般名パゾパニブ
ジェムザール=一般名ゲムシタビン
タキソテール=一般名ドキソルビシン
骨髄抑制=抗がん剤や放射線治療などにより、一定期間、骨髄の造血能が障害される状態

(構成/半沢裕子)


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