日帰りが可能な骨腫瘍のラジオ波焼灼療法 骨へのダメージが少なく、骨の強度回復も期待できる

監修:篠崎哲也 群馬大学病院整形外科助教授
取材・文:黒木 要
発行:2007年4月
更新:2013年4月

針を刺した傷は傷痕にならない

針を刺した傷は縫合の必要はなく、ガーゼを当てテープで止めるだけである。

「とくに女児や女性にとって、傷痕が残らないこともこの治療法の大きな利点でしょう」(篠崎さん)

類骨腫の主な症状の夜間痛に関しては、施術当日から消失する。ただし施術当日から1日~数日間は、治療による傷口の痛み止めとして、内服薬もしくは座薬を用いるが、痛みは翌日にはほとんどが消失しているか、きわめて軽微であり、群馬大の場合、これまで12人全員が自力で歩いて退院している。帰宅後はほとんどが1~2日間療養して、学業や仕事へ復帰しているという。

施術に伴う合併症、いわゆる後遺症として、比較的頻度が多いのは皮膚のヤケドだ。

「皮膚のヤケドは、腫瘍が皮膚に近い骨に存在しているときに起こりやすいようです。仮に起こっても軽度で、深刻なものは報告されていません」

その他の合併症として、群馬大では1例ふくらはぎの筋肉の挫傷があった。骨腫瘍へアプローチする際、傷つけたものだが、これも後遺症は残らず回復した。

写真:ラジオ波焼灼療法後の傷痕

ラジオ波焼灼療法後の傷痕。治療後1日目で、ほぼ治癒しかけている

治療後1日目の幹部X線写真

治療後1日目の幹部X線写真

治療後4カ月目X線写真

治療後4カ月目。皮膚の腫れがかなり縮小している

再発率は約10パーセント

治療後のケアは、再発のチェックを含めて、当初は数カ月おきに、以降は年に1度の頻度で行っていくのが一般的だ。

再発はこれまで1例あった。12歳の男子で、原発腫瘍は股関節の臼蓋に発生していたもので、再発は治療後8カ月に見つかり、再度、ラジオ波焼灼療法によって治療した。

「たぶん初回治療の焼灼が不十分で、再発したのだと思います。再度の治療後、すでに10カ月経過していますが、再々発はありません。症例数が少ないので、まだ再発率を云々する段階ではないのですが、とりあえずは12分の1ということで、世界的に報告の多い約10パーセントという数値に合致しているのではないかと思われます」(篠崎さん)

腫瘍の個数や大きさに制限はあるものの、このよう��ラジオ波焼灼療法は再発に対して、繰り返し行えることもメリットの1つとしてあげることができる。

悪性骨腫瘍に対する治療としては未知数

ではラジオ波焼灼療法は、悪性の骨腫瘍の治療としては有効なのであろうか。

篠崎さんは次のように言う。

「理論的には骨肉腫や骨軟部腫瘍などに対して行えると思います。外国の症例報告もあります。ただし根治を狙う治療法であるなら、多発でないこと、他の部位に転移がないことなどが条件になります」

骨を原発とする悪性腫瘍は、もっとも多い骨肉腫でも国内では年間200例ほどしか発生しないこともあって、篠崎さんの言うラジオ波焼灼療法の適応になるものは、きわめて少なくなると思われる。

では、頻度の多い骨転移に対してはどうであろうか。初期でも全身病の要素の強い乳がんをはじめ、ほとんどのがんは骨転移する危険性があるので、ラジオ波による治療が有効であれば福音となるはずだ。

だが篠崎さんは、仮に骨転移が現時点で1個しか見当たらなくとも、根治療法としては勧められないという。目に見えないがんが、全身に存在している可能性が強いからだ。

「骨転移はほとんどが短期間に一気呵成に発生します。多くは見つかった時点で多発であり、ラジオ波で全部を焼くことは不可能です」

ラジオ波焼灼療法は個数の少ない転移性肝がんなどの根治療法としては治療成績を上げているが、骨転移はその性格からして、目下のところ根治を狙う治療ではなさそうだ。

骨転移に対するラジオ波焼灼療法の有効例が報告されているのは、痛みなど症状緩和に対する治療法としてである。この治療は岡山大学医学部付属病院が行っており、ホームページでも紹介されている。

同病院では食道がんや大腸がんの骨転移に対し、ラジオ波による焼灼療法を行い、QOLの改善(痛みの軽減)に寄与した、としている。

一般に骨腫瘍(骨転移)の増大による痛みは、骨の表面近くに張り巡らされている神経が直接的に侵食もしくは圧迫されるのが原因。

また腫瘍により骨の内圧が高まり、間接的に神経を圧迫するためなどの説もあって、ラジオ波焼灼熱により、それらが緩和されるのでは……とも考えられるが、「そのメカニズムについては明確ではない」とも言っています。

ただ症状の緩和を目的とする場合でも、症例の選択は難しいと篠崎さんは言う。

「骨転移の症状緩和としては、ビスフォスフォネートという薬や放射線治療が、まず選択されます。針を刺すという身体的な負担のあるラジオ波焼灼療法が、それに優先して行われるケースとはどんな場合なのか。課題は多いと思います。また、骨転移部に骨折の恐れがあるケースでは、予防的に骨セメントを注入し、患部を固定する治療法が、優先して行われます」

これについても、ラジオ波焼灼療法の出番はないという。

いずれにしても悪性骨腫瘍に対する治療法としてのラジオ波焼灼療法は、報告数も症例数も少なく、現在は、その治療法は未知数であるというしかない。今後の臨床研究が待たれる。

群馬大付属病院の類骨腫に対するラジオ波焼灼療法の診療費は、検査費などは医療保険の対象となるが、ラジオ波焼灼療法に直接関連する部分は自己負担となる。その自己負担額は約12万円である。


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