治療法は着実に進歩!神経膠腫の最新治療
機能を温存するために 手術法は進歩し続けている
神経膠腫の治療では、まず手術が行われる。手術は機能を損なわずに、腫瘍を最大限に摘出することが基本となる。
「脳にできた腫瘍なので、周囲の組織を含めて大きく切除するわけにはいきません。新たな神経症状を出さないように細心の注意を払いながら、腫瘍をできるだけ取るという手術が行われます」
そして、手術による侵襲をなるべく少なくしながら、腫瘍を取り切るための工夫として、次のような技術が登場している。
◆術中MRI……手術中にMRI検査を行い、腫瘍を取り切れているかをチェックする。
◆術中脳波モニタリング……手術中の脳波を調べ、運動機能など異常が出ない範囲で摘出する。
◆ニューロナビゲーションシステム……現在、どの部分を手術しているのかを、画像で明確に示してくれる。
◆覚醒下手術……患者が覚醒した状態で手術し、言語機能に異常が出ないことを確認しながら切除範囲を決める。
◆5アミノレブリン酸の利用……レーザーを当てると光る物質を腫瘍細胞に取り込ませ、腫瘍部分を確認して摘出する。
放射線治療は分割照射で 脳へのダメージを減らす
病理検査でグレード2以上の悪性腫瘍であれば、術後に放射線治療が行われる。放射線治療には色々な方法があるが、神経膠腫で行われるのは、腫瘍とその周辺に放射線を当てる局所照射である。
「脳のダメージを小さくするため、1回に照射する線量を少なくし、週に5回、6週間の分割照射が行われます。転移性脳腫瘍の治療などで使われるガンマナイフやサイバーナイフは、狭い範囲に放射線を集中させて焼き切るような治療です。周囲に浸み出すように広がり、比較的広い範囲に照射する必要がある神経膠腫の治療には向きません」
放射線治療では、目的に合った治療法が選択されることになる。
「放射線を脳に当てるため、認知障害が起きるのではないかと心配する人もいます。しかし、全脳照射と違い、神経膠腫の治療による局所照射で、長期にわたって明らかに認知機能障害が起きるというデータは報告されていません」
なお、陽子線や重粒子線による治療については、従来の放射線治療と比べてより有効だというデータは出ていないという。
化学療法で主に使われるのは テモダールとアバスチン
グレード3以上の神経膠腫では、手術後に放射線治療と並行して化学療法が行われる。治療に使われている主な薬は、*テモダールと*アバスチンである。
「テモダールは、海外ではメラノーマの治療にも使われている抗がん薬です。経口薬で、比較的副作用が少ないのが特徴です」
手術後に放射線治療と併用するときは、6週間毎日服用する。その後の維持療法では、4週間に5日間だけ服用する。
テモダールの主な副作用は、便秘とリンパ球減少である。リンパ球が減少することで、特殊な肺炎を起こすことがあるため、肺炎予防薬が使われることもある。
アバスチンは、血管新生阻害作用を持つ分子標的薬。初発の膠芽腫患者さんを対象に、〈放射線+テモダール群〉と〈放射線+テモダール+アバスチン群〉を比較する臨床試験が行われた。アバスチン併用群では、再発までの期間は延長されたが、両群間で生存期間に差はなかったという。
「その結果から、アバスチンの副作用も考え、初発の神経膠腫にはアバスチンを使わず、放射線治療とテモダールの併用が標準治療となっています。再発した場合には、アバスチンを加えるのが標準治療です」
ただ、実際には、初発の神経膠腫に対しても、アバスチンが併用されるケースが少なくないという。
「アバスチンは脳浮腫を改善する効果が高く、症状が現れている場合、使用することで症状がよくなります。そのため、症状が重いケースでは、最初からアバスチンを使ったほうがよいと考えられています」
神経膠腫の治療では、*ギリアデルという薬が使われることもある。
「1円玉くらいの錠剤で、これを手術で腫瘍を摘出した部位に敷き詰めるように留置します。そうすることで、1カ月位にわたって、薬が徐々に浸み込んでいき、残っている腫瘍細胞を攻撃します。再発を防ぐ目的で使います」
*テモダール=一般名テモゾロミド *アバスチン=一般名ベバシズマブ *ギリアデル=一般名カルムスチン
新しい薬剤の登場が期待されている
「神経膠腫の治療では、まだまだ良い薬がなく、テモダールとアバスチンを使ってしまうと、それ以上有用な薬がなくなってしまいます(図4)。ただ、今年は大きな治験がいくつも開始される予定になっているので、今後、新たな治療薬が使用できるようになる可能性があります。再発し、標準治療でうまくいかなくなった場合には、治験に参加するのも1つの方法です」

また今年3月に、再発の膠芽腫に対してオプチューンという治療機器が承認された。頭の周囲に電磁波を当て続けることで、がん細胞が細胞分裂できないようにする。
「米国の臨床試験では、初発の患者さんに〈放射線+テモダール群〉と〈放射線+テモダール+オプチューン群〉を比較したところ、増悪までの期間も生存期間も、オプチューン群のほうがよかったのです」
治療費がかなり高額になりそうなので、どれだけ普及するかはわからない。ただ、新たな研究が進められ、治療法が着実に進歩していることは確かなようである。
同じカテゴリーの最新記事
- 手術技術、化学療法、遺伝子診断、そしてチーム医療が重要 治療成績が向上する小児脳腫瘍
- ウイルス療法が脳腫瘍で最も悪性の膠芽腫で高い治療効果! 一刻も早いウイルス製薬の量産化技術確立を
- 悪性脳腫瘍に対する緩和ケアの現状とACP 国内での変化と海外比較から考える
- 脳腫瘍グレードⅣの膠芽腫治療に光射す 標準治療に自家腫瘍ワクチン療法を加えて生存期間延長を目指す
- 他のがん種よりも早期介入が必要 目を逸らさずに知っておきたい悪性脳腫瘍の緩和・終末期ケア
- 新たにウイルス療法や免疫チェックポイント阻害薬など 悪性度の高い膠芽腫などの脳腫瘍治療に見えてきた可能性
- 光の力でがん細胞を叩く治療 悪性脳腫瘍に光線力学的療法(PDT)併用の実力
- 標準治療では治癒が難しい悪性脳腫瘍の治療に光明が ホウ素中性子捕捉療法「BNCT」の実用化が見えてきた
- 脳転移治療にはガンマナイフが効果的 さらに患者にやさしい新型登場