脳腫瘍グレードⅣの膠芽腫治療に光射す 標準治療に自家腫瘍ワクチン療法を加えて生存期間延長を目指す

監修●村垣善浩 東京女子医科大学先端生命医科学研究所副所長/脳神経外科教授
取材・文●菊池亜希子
発行:2020年4月
更新:2020年4月


治療タイミングと治療費

それでは、自家腫瘍ワクチン療法の治療スケジュールを見てみよう。

自家腫瘍ワクチン療法は術後補助療法の1つと考える。つまり、入院中に手術、放射線治療、そしてテモダールを内服し、その後、通院でのテモダール内服が始まったタイミングで併行して開始する。

「基本は週に1回、皮下注射で投与します。これを3回続けて1コースで終了です。なぜ3回かというと、自家腫瘍ワクチン療法に使うのは患者自身の組織なので、サンプル量に限りがあること、自費診療であること、そして、3回の投与で、ある程度の免疫が獲得できることがこれまでの臨床試験で明らかになっているからです」

その一方で、手術の技術も年々進化し、採取できる組織量も増えてきた。さらには、やはり投与回数を増やしたほうが効果が高そうなことを示唆するデータであったことから、第Ⅲ相臨床試験では3コースで進めることになっているそうだ(図3)。

ちなみに、実際に自家腫瘍ワクチン療法を受けたいと思った場合、まだ保険適用されていないので、先に述べた医学的効果を証明する第Ⅲ相の治験に参加するか、自費診療として受けるかの2通りの方法が考えられる。治験は募集時期やいくつもの条件が合致しないと受けられないため、現実的には自費診療になると思われるが、その場合、混合診療という課題があることを付け加えねばならない。

本来、保険診療と自費診療を同時に受けると、すべてが自費診療扱いになってしまうもので、治療時期が異なってもその可能性があるのだ。治療費は個々のケースや治療のタイミングで変わってくるため、必ず治療を受ける施設で確認しよう。自家腫瘍ワクチン療法が臨床試験の最中である現時点では、医学的な効果が証明されてはいないこと、高額なため経済的な負担が大きいこと、を納得した上で治療を受ける必要がありそうだ。

自家腫瘍ワクチンの役割、そして今後

自家腫瘍ワクチン療法は、患者自身の腫瘍組織が持つすべての抗原をリンパ球に教え(抗原提示)、敵の目印を教えられたリンパ球が直接、腫瘍を攻撃する治療法。つまり、全身療法だ。ならば、「その患者の体に��るかもしれないすべての腫瘍をやっつけてくれるのではないだろうか?」と夢のような期待をしてしまいそうになるが……。

「自家腫瘍ワクチン療法は間違いなく全身療法ですが、1つ忘れてはならないのは、それほど強力な治療法ではないということです。つまり、腫瘍が塊として存在する場合は難しい。大きな塊の腫瘍は切除したけれど、小さいものが散らばっている可能性がある場合、または目に見えない腫瘍が残っているかもしれない場合に、再発予防として効果があると考えてください。あくまでも術後補助療法。劇的な効果ではなく、ジワッと効いてくる治療法です」

だからこそ、標準治療にプラスする治療法なのである。

最後に村垣さんはこう締めくくった。

「これから自家腫瘍ワクチン療法における医学的効果を証明するための第Ⅲ相臨床試験に進みます。2004年から少しずつ積み上げてきた臨床を見ていても、ジワッとではありますが免疫療法として確かな手応えを感じています。とはいえ、やはり自費診療の壁は厚いのが実情。決勝戦ともいえる第Ⅲ相試験を突破して保険適用され、膠芽腫に苦しむ患者さんが皆、自家腫瘍ワクチン療法を受けられるようになってほしいと願っています」

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