進行別 がん標準治療 神経膠腫は、できるだけ多くの腫瘍を取り、放射線と抗がん剤の併用療法が基本

監修:長島正 帝京大学付属市原病院脳神経外科教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2004年8月
更新:2019年7月

生殖器になるはずの細胞が脳で成長

胚細胞腫瘍


非常に珍しい腫瘍で、本来は精巣や卵巣など生殖器になるはずの細胞から発生したと考えられる腫瘍です。いくつかの種類がありますが、代表的なのは精巣になるはずの細胞から発生したと考えられるジャーミノーマと胎児になるはずの細胞から発生したと考えられる奇形腫です。いずれも子供に多い腫瘍です。

ジャーミノーマの場合は、従来から放射線治療がよく効き、5年生存率も90パーセントを超えています。しかし、子供に多い腫瘍であるため、放射線障害による知的発達障害や成長障害が問題となっていました。

一方、ジャーミノーマは、ブリプラチン(もしくはランダ、一般名シスプラチン)やパラプラチン(一般名カルボプラチン)などの白金製剤を中心とした化学療法、つまり精巣腫瘍に使う薬が非常に効果があることもわかっています。そこで、「化学療法を先行し、放射線の照射量を少なくするのが現在の傾向」だそうです。

予後良好群に対する研究では、放射線を24グレイ(本来50グレイ以上)に半減しても、化学療法を併用すれば治療成績は放射線単独と同等以上であることが示されています。また、純粋にジャーミノーマだけで構成された腫瘍ならば、化学療法のみでも治療は可能だそうです。

一方、奇形腫は歯や髪の毛など、胎児になるべき組織が含まれる脳腫瘍です。この場合は、摘出術が第一選択です。そのほか、悪性胚細胞腫瘍がありますが、この場合は化学療法単独では十分な効果は得られません。放射線治療の成績も不十分です。そこで、手術で組織を確認した後、補助療法としてまず抗がん剤、さらに放射線を追加して延命をはかることになります。

全脳、全脊髄に放射線照射で良好

髄芽腫


小児の代表的な脳腫瘍で、5~14歳に集中して発生します。本来生物学的には悪性腫瘍ですが、近年は腫瘍の摘出後に全脳と全脊髄に放射線を照射できるようになったので、治療成績がかなり向上しています。「5年生存率は6割近い」そうです。

まず、可能な限り腫瘍を摘出し、その後全脳照射を30グレイ、全脊髄照射を30グレイ行います。場合によっては病巣に局所照射を追加します。最近、放射線による障害を避けるために、白金製剤を中心とした抗がん剤の多剤併用療法を先行させ、放射線線量を減らす試みが行われています。

髄膜腫


脳を包むクモ膜から発生する脳腫瘍です。大半は良性で手術で取りきることができますが、5パーセントほど悪性のタイプがあります。この場合は周囲への浸潤性が強く、脳や骨、副鼻腔などに広がっていきます。悪性の場合、抗がん剤はほとんど効果がないので、可能なかぎり腫瘍を摘出した後、放射線の照射を行います。

再発、転移性脳腫瘍の治療

転移性脳腫瘍にはガンマナイフ

再発脳腫瘍の場合、さらに科学的なデータに乏しいのが実情です。しかし、初めの治療ですでに従来の抗がん剤には耐性ができています。つまり効かなくなっているはずです。他の抗がん剤を使う手もありますが、もし高い効果を期待できるならばすでに使っているはずです。また、放射線治療も照射後2~3年は行えません。

となると「期待できるのは、今のところ再手術で腫瘍をできるだけ少なくし、延命をはかることです」と長島さんは語っています。

一方、転移性脳腫瘍の場合は、「頭に飛んだら、何も積極的な治療は行わない」、あるいは「直接、放射線を照射する」という医師もかなり多いといいます。「脳に転移したということは、全身に転移した全身病であることを意味します。そうした状態で、あえて頭に侵襲を加えることに意味があるのか、という点を考えなければなりません」と長島さんは説明しています。

しかし、実際には摘出を含めて放射線などで治療を行えば、1年以上の延命も可能といいます。

そこで、現在単発でも複数の転移でも第一選択となりつつあるのが、ガンマナイフです。「転移性脳腫瘍は、周囲への浸潤が少ない」ので、放射線を局所に集中させるガンマナイフがいい適応になるのです。多発している場合も、脳全体に放射線を照射する(全脳照射)と、脳萎縮を起こして痴呆を起こすので、しだいに行わなれなくなっています。

腫瘍が大きく脳圧が亢進している場合、あるいはのうほう性の転移性腫瘍の場合には手術が優先されます。

ガンマナイフ

ガンマ線という放射線を局所に集中させる方法です。実際には、大きなヘルメットのような装置をかぶります。このヘルメットには201個の放射線源が組み込まれており、病巣に向かって放射線が照射されます。ちょうど虫眼鏡のように放射線を狭い範囲に集めることができます。ナイフという名前は、ナイフで切り取るようにスッパリと局所を治療できるといった意味です。

手術では到達しにくい脳の深部の腫瘍などに適応されます。ただし、狭い範囲に照射が限局されるので、周囲への影響は少ないかわりに、周囲にしみ込むように広がったグリオーマなどには不向きです。


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