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乳がん治療新時代へ 進化し続ける治療技術 「世界標準」で治療にあたる

監修●渡辺 亨 浜松オンコロジーセンター院長
取材・文●伊波達也
発行:2013年8月
更新:2019年9月

プロの乳がん治療は“Beyond the Guideline”

■表 乳がんの大まかなサブタイプ別分類

ホルモン受容体 HER2
受容体
薬物療法
ルミナルA 陽性 陰性 ホルモン療法
ルミナルB 陽性 陰性 ホルモン療法±化学療法
陽性 ホルモン療法+化学療法
+分子標的治療薬(ハーセプチン)
HER2型 陰性 陽性 化学療法
+分子標的治療薬(ハーセプチン)
トリプルネガティブ 陰性 陰性 化学療法

渡辺さんは、「エビデンス(科学的根拠)からの旅立ち」という考え方を提唱している。

「そうですね。診療の基盤はエビデンスの共有から始まります。しかし、治療ガイドラインの推奨グレードA、B(エビデンスのもとに実践が推奨される治療)となるものは全体のわずか3割程度で、日々の臨床の現場では、残りの7割にどう対処していくかが重要なのです。それを可能にするのは、医師本人の知恵と経験値です。

ガイドラインでどういうエビデンスがあるのかを知ることは重要ですが、ガイドラインの背景に潜むものを把握する『Beyond the Guideline』=ガイドラインを超えて応用していく診療姿勢が大切なのです。エビデンスのないところで患者さんと対したときに、いかに補完して治療を組み立てていくかがプロの腕の見せ所なのです」

乳腺専門医のプロとして仕事をするには、臨床試験でエビデンスをつくり出すこ��と、日々の臨床で目の前の患者さんの問題を解決していくことを両輪でやっていかなくてはならないと渡辺さんは強く主張する。

「エビデンスばかりをかざして、ガイドラインに固執していては、ただのきれいごとです。エビデンスの追究と臨床現場でのさじ加減、それがパッケージとなってはじめて責任あるがん治療といえるのです。現在では明確に定義されている乳がん治療のサブタイプの確立も一朝一夕にできたわけではありません。日々の診療と臨床試験によるエビデンスの作成によって、徐々に病系分類が進み、今の枠組みができたのです」

もうひとつ、渡辺さんが強く訴えるのは、“日本人特殊論”の名を借りた、乳がん治療の“ガラパゴス化”を回避せよという点だ。

遺伝子診断に乗り遅れるな

「2000年当時は、抗がん薬を投与するとき、日本人は欧米に比べて抗がん薬に弱いという考え方に基づき、投与量を減らすべきとされていました。日本には独自のエビデンスがなかった時代なので、海外のデータに基づいた治療をするべきだったのに、投与量を抑えるというのはおかしな話でした。2004年にガイドラインが確立し、国際共同臨床試験に参加するようになったことで、日本の乳がん医療界も変わり始めたのです」

しかし、次なるガラパゴス化が危惧されるのは、今話題の遺伝子診断についてだという。

最近、米国の女優アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査の結果に基づいて乳房の予防切除と再建手術を行ったニュースが社会的に大きな注目を浴びた。それ以降、日本でも予防手術実施に名乗りをあげる病院が出てきている。

しかし、日本の現状では、まだまだ遺伝子診断に基づく予防手術の体制はないに等しい。この現状に対して、渡辺さんはこう話す。

「ここでも“日本特殊論”がはびこっています。海外ではあたりまえなのに、なぜか日本はまだまだだという認識を持ってしまう。もっと日本をグローバルな認識で評価していかないと、大きな遅れをとります。最近、乳がんあるいは卵巣がんの患者のうち26.7%に遺伝子変異があったという研究報告がありました。日本人の乳がん患者全体の2~4%には変異があるのではと推測されています。日本ではなぜ、遺伝子検査に対するハードルが高すぎるのか。それは個人情報保護などを盾に、遺伝子検査のよさがなかなか認識されないからです。そのため、検査を希望する患者さんは高額な検査費用の出費はもちろん、検査体制を整えたほんのわずかな病院へ出向かなくてはなりません」

国際標準で治療をしたい

新機軸を目指して開催された日本乳癌学会学術総会(6月27日、浜松)

遺伝子検査の問題については、患者の不安に対して答えを出せぬまま、20年近くが経過している。

「患者さんの意識は、正しい情報さえ与えられれば瞬間的に変わると思います。予防切除については、本人の価値観によって判断されるべき問題ですが、がんになってしまってダメージを抱えながら手術に臨むよりも、予防手術のほうがハードルが低いと考える人がいてもおかしくありません。今ここで、きちんと体制作りをしておかないと、また“ガラパゴス化”します」

一時期、日本は、国際的に有効性の認められている薬がなかなか認可されない「ドラッグ・ラグ」に泣かされたが、今度は「テスト・ラグ」が起こりかねないという。遺伝子検査のように保険適用の認可待ちの検査が行列をなしている状況だ。

「先日、ASCO(米国臨床腫瘍学会)に行ったのですが、ここ数年は、出席するたびに、格差を実感させられるばかりです。数年前私たちが『Best of ASCO』を受賞したころは、これで日本も国際的なレベルに追いつき、追い越せだと思ったものでした。しかしそれも、つかの間。遺伝子の分野では、ここ数年で欧米に圧倒的な差をつけられています。たとえるなら、紙飛行機とジェット機といった具合です。これは決して大げさではありません」

渡辺さんが言いたいのは、“国際標準装備”で診療に臨まないと、どんどん遅れをとってしまうということだ。

民間医療保険でカバー可能な制度を

「遺伝子検査は、これほど社会的な話題になっているのですから、万機公論に決すべしだと思います。せめて、厚労省が先進医療Bとして認めれば、民間の医療保険で治療費をカバーできるようになるでしょう。検査体制作りも早急に考えなくてはいけません」

現在の乳がん医療におけるさまざまな問題点は出揃ってきた。1つひとつ解決していくための一助になりたいと、渡辺さんは考えている。

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