術後ホルモン療法:サンアントニオ乳がんシンポジウム2012発表 ホルモン薬服用10年に延長で、再発リスクが低下
タモキシフェン5年服用より10年服用の意義
この試験結果をどのように受け止めたらいいのか。
試験では閉経前・閉経後の両方が対象となっているが、実際には試験開始時点で90%の人が閉経後だったという。しかし、現在、閉経後のホルモン療法の標準治療はアロマターゼ阻害薬5年投与である。それなら、今回の試験結果から、閉経後の人もアロマターゼ阻害薬を止め、タモキシフェンの10年服用に変えたほうがいいのかというと、そうではない。
「この試験は、閉経後ホルモン療法の標準治療が確定される前に計画されたものです。したがって、この試験結果から考えるべきことは、『ホルモン療法は長くやったほうがより効果が期待できる』ということで、そこは臨床現場にも応用されます」
それでは、ホルモン療法を行うすべての人が5年から10年に延ばすべきかというと、これもそうでもないらしい。
「5年を超えた長期投与がすべての人に必要とは限りません。将来的に、晩期再発を起こす条件など、再発リスクが予測できるようになれば、10年間投与にしたほうがいい人、5年で止めてもよい人の選別ができるようになるかもしれません。現時点では、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、あるいはその個数などから、再発リスクが高い人に対して、5年間タモキシフェンを飲んで再発しなかったけれど、ご本人と相談して『もう少し続けましょうか』ということになれば、10年間投与するのも意味があるといえます」
薬剤選択と副作用
分類 | 一般名 | 働き | |
閉経前 | LH-RHアゴニスト製剤 | 酢酸リュープロレリン | 卵巣でのエストロゲン合成を抑制する |
酢酸ゴセレリン | |||
閉経 前後 | 抗エストロゲン薬 | タモキシフェン | エストロゲンの働きをブロックして、乳がん細胞の増殖を抑える |
トレミフェン | |||
黄体ホルモン薬 | 酢酸メドロキシプロゲステロン | 女性ホルモンの働きを抑制する | |
閉経後 | アロマターゼ阻害薬 | アナストロゾール | アンドロゲンをエストロゲンに変換するアロマターゼを阻害する |
エキセメスタン | |||
レトロゾール | |||
抗エストロゲン薬 | フルベストラント | エストロゲン受容体に結合してエストロゲンが乳がん細胞に作用するのを防げる |
タモキシフェンの10年服用に効果があることはわかった。その他の薬ではどうなるのか(表4)。薬の選択はどうしたらいいのだろうか。
「MA17試験」という臨床試験では、タモキシフェン5年間投与のあとに、アロマターゼ阻害薬(レトロゾール*一般名)を5年間投与したら、無再発生存率が改善したとの結果が得られている。すると、アロマターゼ阻害薬を10年続けるという選択もありそうだが、これについてはまだエビデンス(科学的根拠)がない。
アロマターゼ阻害薬は、骨密度を下げ骨粗鬆症を助長するといわれています。
「がんとは関係ありませんが、骨粗鬆症の人、骨折を起こした人は寿命が短くなるというデータがあります。アロマターゼ阻害薬を10年間飲み続けることで、乳がんの予後はよくなっても、骨粗鬆症になり寿命を短くしてしまうリスクも考えなくてはいけません」
閉経後にタモキシフェンからアロマターゼ阻害剤に変えたところ、関節痛や骨密度の低下、骨粗鬆症による骨折などが起こり、再びタモキシフェンに戻したケースもあるという。アロマターゼ阻害薬の5年間服用後、タモキシフェンを5年間服用してホルモン療法を延長することも可能性としてはあるかもしれません。
そもそも、ホルモン療法の副作用は薬剤によって異なる。タモキシフェンやLH-RHアゴニスト製剤で多くみられる副作用は、更年期障害の症状だ。ホットフラッシュと呼ばれるほてり・のぼせや、倦怠感などがある。また、うつ症状が出やすくなるとの指摘もある。
「LH-RHアゴニスト製剤を使うことで閉経状態になるので、うつ症状が現れやすくなる可能性があります。また、がん告知というストレスそのものがうつ症状を引き起こしている可能性も考えられます」
タモキシフェンには、血栓症や肺動脈血栓塞栓症、子宮体がんのリスクがあるとのデータもあり注意を要する。
*レトロゾール=商品名フェマーラ
治療の選択は慎重に考える
閉経前後のときは、薬の選択も慎重さが求められる。タモキシフェンを服用していた人が閉経を迎えたとき、すぐにアロマターゼ阻害薬に切り換えたほうがいいのか、それともタモキシフェンをそのまま続けたほうがいいのか。
「閉経前の人が閉経を迎えたとき、あまりに早期にアロマターゼ阻害薬の投与を始めると、アロマターゼ阻害薬は卵巣を刺激する作用があるので、一旦止まった生理が戻る人がいます。そのような人の予後はよくないとのデータもあります。したがって、タモキシフェンを服用している間に閉経になった場合、それをアロマターゼ阻害剤に切り換えるタイミングは実はけっこう難しい。閉経の定義は、最終月経から1年以上月経がない状態が継続していることで、さらに、血液検査においてエストロゲンおよび卵胞刺激ホルモンのレベルが閉経状態であることを確認したうえで、慎重に使う必要があると思います」
費用の点では、タモキシフェンはジェネリック*品が普及し、アロマターゼ阻害薬より安価である。最近では、アロマターゼ阻害薬の中にもジェネリック品が出てきている。ホルモン療法の期間は長期になるが、現時点で内容に一律の答えはなさそうだ。長期にわたる治療だけに、自身の状況やリスクを考慮しながら担当医と相談すべきだろう。
*ジェネリック=後発医薬品
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