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将来、子どもを産みたいか 薬物治療前に考えておきたいこと

監修●清水千佳子 国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科病棟・外来医長
取材・文●柄川昭彦
発行:2014年3月
更新:2014年6月

生殖医療の力を借りて妊娠・出産を目指す

患者さんが比較的若ければ、抗がん薬治療を受けても、その後に自然妊娠することは珍しくありません。それを目指すのも1つの選択肢だといえます。しかし、女性にとって最善の生殖時期は20歳代で、それを過ぎると生殖能力の低下が始まります。自然妊娠率は、30歳代で25%、40歳代では12%まで低下します。

妊娠・出産を希望する乳がんの患者さんの多くはこの年代です。そのため、生殖医療の力を借りて、妊娠・出産を目指すことになります。

図4 生殖医療の技術

「現在の段階で標準的な方法と言えるのは、自分の卵子を採取し、配偶者の精子を使って体外受精を行い、その受精卵を凍結保存する方法です。がんの治療が終了してから、受精卵を融解して母体へ移植するのです(図4)」

これが最も確立した方法なのだが、日本で体外受精を行うには、配偶者(婚姻関係にあるパートナー)の精子が必要となる。

配偶者がいない場合には、卵子の凍結保存という方法もある。卵子を凍結保存しておき、がん治療の終了後、配偶者ができてから体外受精を行い、母体に移植する。

まだ研究段階にある治療法で、受精卵の凍結保存に比べ、妊娠・出産に至る可能性は低い。

もう1つ、卵巣組織を凍結保存する方法もある。手術で卵巣組織の一部を採取し、それを凍結保存する。時期がきたら融解して卵子を取り出し、人工授精を行う。たくさんの卵子を採取できるのがメリットだが、やはりまだ研究段階の方法である。

限られた期間での決断が必要になる

乳がんの患者さんが妊娠・出産を希望する場合には、限られた時間の中で、がんの治療法を選択し、必要な生殖医療を受けることになる(図5)

図5 妊孕性保持の選択肢

がん治療に生殖医療を組み込む場合、配偶者がいれば受精卵の凍結保存を選択することができる。配偶者がいなければ、卵子や卵巣組織の凍結保存を行う。

術前に抗がん薬治療が行われる場合には、抗がん薬治療が始まる前に採卵する必要がある。がん治療をできるだけ早く開始する必要があるため、採卵にかけられる時間は短い。

一方、手術を先に行い、術後に薬物療法を行う場合には、その薬物療��が始まる前に採卵する。採卵にかけられる期間は長くても8~12週間以内にすませたい。

「がんと診断されただけでも混乱しているのに、複雑な薬物療法の説明を受け、さらに妊孕性について考えなければならないのですから、本当に大変です。ただ、がんという病気の性質上、じっくり時間をかけて考えるというわけにはいきません」

患者さんはタイムリミットのある中で、重要な決断を下さなければならないのだ。

知っておくべき 5つのポイント

妊娠・出産について決断を下すために、知っておくべき5つのポイントがある。

再発リスク 自分の乳がんがどのくらい再発しやすいのか。再発リスクが高ければ治療を優先する必要があるし、低ければ薬物治療の省略も考えられる。

薬物治療 どのような選択肢があるのか、治療期間やスケジュールはどうなるのか、どの程度の治療効果があるのか。

卵巣機能 治療前の時点でどのような状態なのか、治療後にどのような状態になると予想されるのか。生殖医療での妊娠・出産に可能性がある状態なのか。

パートナー パートナーとは婚姻関係にあるか。妊娠・出産に対してどう考えているのか。

経済状況 健康保険の適用されない生殖医療に、どれだけの費用をかけられるか。

「主治医や専門知識を持つ看護師などに相談し、情報を集めて決断することになります。最終的には患者さんの価値観の問題ですが、何を優先すべきなのかを、冷静に考えてもらいたいです。妊孕性保持にばかり目が向いてしまい、がんの治療がおろそかにならないようにしてください」

大切なのは自分が納得していること

清水さんが、乳がん患者の妊孕性保持について考えるようになったのは、1人の患者さんがきっかけだった。

「妊孕性保持に関する研究が何もなかった頃ですが、39歳で乳がんが見つかった患者さんがいました。婚約者がいて、どうしても子どもが欲しいというのです」

リンパ節転移があり、再発リスクは高かった。本来なら、しっかりと術後の抗がん薬治療が行われるところだ。しかし、彼女は術後の抗がん薬治療を受けず、子どもを産むことを選択した。

「手術後すぐに結婚して、すぐに妊娠・出産をしました。それからホルモン療法を始めたのです。しばらくは再発しなかったのですが、7年目に再発が見つかりました」

標準的な術後治療を受けなかったから再発したのか、受けていても再発したのか、それはわからないが、とにかく再発は起きてしまった。

「医師としてがんの治療を十分に受けるよう彼女を説得できなかったという思いがありました。そこで、どう思っているのか、尋ねてみたのです」

彼女の答えは『後悔はしていません』というものだった。再発したのは悔しいが、子どもを産む選択をしたことに、後悔はないという。

「大切なのは、患者さん本人が、自分の選んだ人生に納得していることです。後悔しないためにも、冷静によく考え、納得できる選択をしてほしいと思います」

『乳がん治療にあたり将来の出産をご希望の患者さんへ』というパンフレット(「乳癌患者における妊孕性保持支援のための治療選択および患者支援プログラム・関係ガイドライン策定の開発」班編)は次のアドレスからダウンロードできる。 >> http://www.jakunen.com/common/file/02.pdf

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