術後の治療選択の指標 不要な抗がん薬治療の回避も
術後の抗がん薬治療を回避できるケースが多い
オンコタイプDXを使用しなかった場合と、使用した場合で、術後の治療方針にどのような違いが現れるのだろうか。そういった研究が世界中で行われているという。
「研究の結果から分かっているのは、臨床所見で治療方針を決めた場合に比べ、オンコタイプDXを利用して治療方針を決めると、抗がん薬治療を受ける患者さんが減るということです。つまり、臨床所見だけで治療方針を決めてしまうと、本当は必要ではないのに、抗がん薬治療を受ける患者さんが多くなってしまうのです」
これに関しては、聖路加国際病院でも研究が行われている。オンコタイプDX検査を受けた患者さんを対象に、臨床所見だけから医師が治療方針を決めた場合と、オンコタイプDX検査を受けて治療方針を決めた場合を比べてみた。すると、臨床所見から抗がん薬治療が必要と判断された患者さんの内、2~3割がオンコタイプDXでは、抗がん薬治療は必要ないという結果になったのだという(図3)。

「世界中の研究で、同じような結果が出ています。それによって、オンコタイプDX検査を受けることで、抗がん薬治療を回避できる人が、かなりいることがわかってきたのです。
逆に、医師が、これは低リスクだから抗がん薬治療は必要ないだろう、と判断した患者さんの多くは、オンコタイプDXでも低リスクになります。オンコタイプDX検査を受けたことで抗がん薬治療が必要になるケースもありますが、あまり多くはありません」
総合的にいうと、オンコタイプDX検査を受けることは、無駄な抗がん薬治療を減らすことにつながるのである。
「抗がん薬による副作用が患者さんを苦しめ、QOL(生活の質)を低下させることを考えれば、無駄な抗がん薬治療を避けられるというのは、非常に大きな意味があります。しかし、抗がん薬治療を回避できることで得られるメリットは、それだけではないのです」
高額の検査だが それだけの価値はある
日本ではオンコタイプDXは保険適用となっていないため、自由診療で45万円ほどの費用がかかる。高額であることが、この検査の普及を妨げていることは事実だ。しかし、この検査の費用対効果を調べた研究からは、得られる効果が大きいため、費用対効果は決して小さくないことが明らかになっている。
「無駄な抗がん薬治療が避けられることで、抗がん薬治療に伴う治療費が削減されます。それだけでも大きいのですが、抗がん薬治療のために通院し、仕事を休むといったマイナス面もなくなります。場合によっては、抗がん薬治療のために仕事を辞めざるを得ないケースもありますから、抗がん薬治療を回避することで得られる経済的効果は、かなり大きくなるのです」
このようにオンコタイプDXの経済的効果を考えていくと、必要な患者さんにこの検査を行うことは、効率のよい医療につながると考えられている。日本の医療費全体のことを考えても、必要な患者さんが誰でも受けられるようにすべきだろう。
「現在は自由診療ですが、将来的には健康保険で受けられるようになるべきだと考えています。欧米でも、保険適用のためには、費用対効果が優れていることが条件になります。最も厳しいことで知られるのは英国ですが、同国でもオンコタイプDXは、保険で受けられる検査になっているのです」
日本でも健康保険でこの検査が受けられるようにするため、臨床試験の準備が進められているという。
中間リスクを対象に さらに臨床試験が進行中
オンコタイプDXは信頼性の高い検査だが、中間リスクの場合には、抗がん薬治療を行うかどうか、患者さんも医師も迷うことも少なくない。そこで、新たな臨床試験が行われているという。
「この臨床試験は『TAILORx試験』と呼ばれています。再発スコアが11~25だった患者さんを対象に、ホルモン療法単独群と、ホルモン療法+抗がん薬併用治療群に無作為(ランダム)に割り付け、その後の再発状況を調べるという試験です。現在、患者登録は終了しており、どのような結果が出るか非常に注目されています」
この試験の結果によっては、中間リスクに分類された患者さんの治療方針が、より明確になる可能性がある。
「オンコタイプDX検査に関しては、まだまだ今後の研究が期待されています。例えば、この検査は術後10年以内に再発するかどうかを予測していますが、より長期の予後予測の有用性に関する研究も必要です。また、リンパ節転移のある閉経前の患者さんは、この検査の対象外となっていますが、その人たちへの有用性も調べる価値があります。このように、オンコタイプDXには、まだいくつかの解決すべき課題が残されています」
これらの研究が進むことで、オンコタイプDXの利用価値は、ますます高くなるだろう。保険適用と、さらなる研究が進むことが期待されている。
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