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マンモグラフィ検診で乳がんの見逃しを避けるには

監修●戸﨑光宏 亀田京橋クリニック診療部部長(画像センター長・健康管理センター長)
取材・文●池内加寿子
発行:2015年4月
更新:2015年6月


マンモでは異常なし、実際には進行がんのケースも

図2 乳腺濃度の違いによる乳がんの見つけやすさ

マンモでは、このように乳腺濃度によって乳がんの見えやすさに差が出るため(図2)、高濃度乳腺の場合はマンモ検診だけでは不十分ということになる。

では、自分の乳腺濃度を知るチャンスがあるのかといえば、残念なことに検診受診者に伝えられることはなく、「異常なし」または「再検査が必要」という結果だけが通知されるのが現状だ。そして驚くべきことに、マンモでは異常を指摘されない人でも、実際にはがんが存在することも少なくないという。

「マンモ検診の結果が『異常なし』でも、本当にがんがないのか、高濃度乳腺でがんが見えないのか、受診者にはわかりません。実はマンモ検診を定期的にきちんと受け続け、異常なしと言われていたのに、超音波(エコー)やMRI(磁気共鳴画像)で精密検査をすると、5~10㎝の進行がんになっていた、というショッキングなケースも珍しくないのです。私たち画像診断医は、乳がん治療のカンファレンスなどの日常的な場面で〝マンモ正常、実は乳がん〟というケースに、20例に1例ぐらいの割合で遭遇しているので、非常に懸念しています」と戸﨑さんは警鐘を鳴らす(写真3)。

「日本人を含むアジア人は、欧米人に比べて高濃度乳腺の人が多いのです。とくに乳がん発症の多い40代は、高濃度乳腺の割合が高い年代ですから、マンモで異常がなくても注意が必要です。また、高濃度乳腺は30~40代の若年者に多いとはいえ、70歳以上の方でも見られることがあります」

乳腺濃度が高く、マンモ検診に向かない人は、少数の特別な例ではないということだ。

写真3 MRI(磁気共鳴画像)でしか見えない乳がん

自分の乳腺濃度を聞き、高濃度乳腺なら超音波検査を

以前から、「マンモは若年者には向かない」「若年者は、超音波検査を併用すべき」といった専門家の意見が散見された。とはいえ、マンモ検診の妥当性や高濃度乳腺について、声高に言及されることはあまりなかった。「乳がん検診の受診率が低いのに、現場や受診者を混乱させる発言は控えたほうがよい」という配慮もあったようだ。では、どのように現行の検診を���用すればいいのだろうか。

「マンモが向いているかどうか知るためにも、まず乳がん検診を受けましょう。検診時に、検診結果とともに自分の乳腺濃度の情報を教えて欲しいと交渉するのも1つの方法です。自分で検診先の医療機関を選べる場合は、事前に連絡して、乳腺濃度の情報提供が可能な施設で検診を受けるのも賢い方法です。乳腺濃度が低いとわかった場合は、その後もマンモ検診を受けていけばよいでしょう。一方、乳腺濃度が高い場合や乳腺濃度を教えてもらえない場合は、検診とは別に乳腺専門の外来で超音波検査を受けることをお勧めします」

乳腺濃度が高い人には超音波検査が向くという。症状がない場合の検査には保険が適用されないので自費扱いになる。

「今のところ、超音波検診は乳がん死亡率の減少効果が不明であることから、地区や職場の乳がん検診にはほとんど採用されていませんが、日本人の乳がんの早期発見には、マンモグラフィより超音波のほうが向いていると考える専門家が実は少なくありません。現在、厚生労働省のプロジェクトとして、〝マンモ単独の検診〟と〝マンモと超音波検査を併用する検診〟の比較試験(J-START:乳がん検診における超音波検査の有効性を検証する比較試験)が進行中ですが、結果が出るまでには数年かかるとされています」

ハイリスクの人は MRI検査で早期発見を

MRI検査は、マンモや超音波では見えないごく早期のがんまで発見できる精度の高い検査だ。乳がんの手術前にがんの広がりなどを診る検査としても使われている。とはいえ、造影剤を静脈注射するため副作用の懸念があること、費用が高額なことなどから、一般の人の乳がん検診や早期発見の検査としては向かないという。

だが、乳がんの家族歴(※3)や、BRCA1、2などの遺伝子変異がある乳がんハイリスクの人は、将来乳がんを発症するリスクが高く、がんもアグレッシブ(進行性)になる可能性があるので、より早い段階でごく早期の乳がんを見つけられるように、MRI検査を行うという選択肢がある。

「遺伝子変異があるハイリスクの人は、日本でも10%強と従来予想されていたよりはるかに多いことがわかり、現在乳がん専門医の間でも注目され、研究が進められています。ハイリスクの場合は、予防的に乳房を切除するか、精度の高い検査で早期発見して治療するか、2つのオプションがあります」

女優のアンジェリーナ・ジョリーは、遺伝子検査の結果、70歳までに乳がんを発症する確率が80%以上だったことから、30代で乳房切除と再建手術を選択した。

「遺伝子検査が陽性でも、乳がん発症のリスクがそれほど高くない場合や、予防的手術を選択しない場合には、通常のマンモ検診を受けて石灰化をチェックしながら、定期的にMRI 検査を受けて早期の乳がんを見逃さないようにフォローするとよいでしょう」

MRI検査は、がん診断後の精密検査であれば健康保険が適用されるが、症状がない場合の予防的検査では自由診療となり、施設によって費用が異なる。MRIによる乳がん検査と、確定診断するためのMRIガイド下生検を希望する場合は、「乳腺画像・研究診断支援グループ」のホームページで最寄りの医療機関を調べることができる。

「一般の方も、乳がんハイリスクの方も、現行の検診と任意の検査、自己検診を組み合わせて、乳がんの早期発見をめざしてほしいですね」と戸﨑さんはアドバイスしている。

※3 母、祖母などの近親者の2人以上が乳がんにかかったことがある人など

NPO法人「乳がん画像診断ネットワーク」
乳がん医療者と乳がんサバイバーが連携して、1人ひとりに合った乳がん診断システムの構築と環境作りをめざし、乳がん診断や検診に関わる医療情報の発信と啓発を行っている bcin.jp/
一般社団法人「乳腺画像・研究診断支援グループ」
医療者が中心となり、乳がん画像診断の研究や開発を行う事業を支援している。ホームページでMRIガイド下生検を行っている医療機関を調べることができる www.big-reads.com
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