1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 乳がん  > 
  4. 乳がん
 

乳がんはより低侵襲治療に センチネルリンパ節陽性でも郭清省略へ

監修●井本 滋 杏林大学医学部外科(乳腺)教授
取材・文●町口 充
発行:2015年11月
更新:2016年1月


がんが残っていても 必ず再発するわけではない

ここで興味深いデータがある。70年代に行われた「NSABP B‐04」試験で、臨床的にリンパ節転移がないと診断された患者さんを対象に、腋窩リンパ節郭清群、非郭清群、非郭清+腋窩照射群の3つに割り付けて比較したところ、3群とも予後に差はなかった。ただ、非郭清群はその後のリンパ節再発が17.8%あった。しかし、井本さんはこう語る。

「実は腋窩リンパ節を郭清した群では30%位にリンパ節再発があったのです。それなのに非郭清群でのリンパ節再発は17.8%でしかない。これをどう見たらいいのか。70年代ですから手術のみの時代で、放射線や補助療法も一般的ではありませんでした。

これはあくまでも仮説ですが、仮にリンパ節にがん細胞があったとしても何らかの理由で再発が抑えられたか、宿主である人間との関係で免疫応答的に制御されたか、いわゆるドーマンシー(休眠)といってがんが眠ったままの状態だったのかもしれません。いずれにしろ、たとえがんがリンパ節に残っていたとしても、全ての患者さんで再発するわけではないと言えるのです」

センチネルリンパ節生検で転移が見つかっても腋窩リンパ節郭清をしなくて良いのなら、センチネルリンパ節生検自体、必要ないのではと思ってしまうが、その点はどうだろうか? 井本さんは「いずれそうなると思います」と話す。

「センチネルリンパ節生検は治療ではなく、転移を見つけるための手技なので、画像診断によって2㎜以下の転移が見つけられるようになり、それが1個や2個とかわかるようになれば、行わなくていい時代が来るかもしれません」

各施設でも ミクロ転移では郭清省略の動き

では、こうした診療ガイドライン改訂を受けて、実際の各施設ではどのような対応がとられているのだろうか。日本乳癌学会の班研究「センチネルリンパ節転移陽性乳癌における腋窩治療の最適化に関する研究」(井本さんが班長)では、432の認定施設を対象に、腋窩治療の現状に関するアンケート調査を行った(回答率71.5%)。

図2 センチネルリンパ節生検の実施状況
図3 術中の転移診断

図4 温存手術時の郭清��略
図5 郭清を省いた際の照射部位

まず、センチネルリンパ節生検については、生検を実施しているのは98%の施設だった(図2)。一方、術中の転移診断については実施している施設が79%。また「OSNA 法」といって、従来とは違う手法で行っている施設が10%存在しており、それを合わせると9割近くは術中の転移診断をしていることが明らかになった(図3)。

たとえリンパ節転移があったとしても腋窩郭清を省略する流れにある中、井本さんは「今のところは9割近くの施設で術中診断を行っていますが、5年後に再びアンケート調査をしたら、術中診断は半数位になっているかもしれません」と話す。

また、温存手術時の腋窩郭清については、センチネルリンパ節転移陽性で、2㎜以下のミクロ転移が認められた場合の「全例省略」は41%、「症例によって省略」は35%で、省略している施設は76%に及んだ。一方、2㎜を超えるマクロ転移が認められた場合は、「全例省略」8%、「症例によって省略」27%で、省略施設は35%だった(図4)。

「ミクロ転移については欧米並みに省略の方向に向かっていると思いますが、マクロ転移については、まだ多くの施設がもう少し色々なデータが出るのを待っている感じがします」

また、郭清を省いた際の放射線照射に関しては、ミクロ転移が認められた際の照射部位は「乳房」51%、「乳房+腋窩」39%、その他と続いた。マクロ転移が認められた場合の照射部位は「乳房」21%、「乳房+腋窩」45%、その他という結果だった(図5)。放射線照射に関して、「郭清を省いた場合は、幅広くリンパ節まで照射して再発を防いでいる施設が多いことがうかがえます」と井本さんは語っている。

図2~5=2014年度日本乳癌学会班研究「センチネルリンパ節転移陽性乳癌における腋窩治療の最適化に関する研究」実施のアンケート調査より OSNA=One-step Nucleic Acid Amplification(直接遺伝子増幅)

今後は 放射線治療を省略できるケースも

このように、乳がんの分野では、治療効果を保った上で、なるべく患者さんへの負担を少なくした低侵襲な治療が進められている。それは、乳がんだからこそ可能になってきた部分があると井本さんは言う。

「乳がんは薬物療法や放射線照射に対する感受性が高く、治療効果が高いです。もしこれがあまり効かなければ、腋窩郭清の省略といったことも成り立ちません」

そして、今後はさらに低侵襲な治療として、放射線照射の省略も場合によっては可能になるかもしれないと、井本さんは話す。

「たとえセンチネルリンパ節に転移があったとしても、そこだけにがんが留まっている人が半数以上います。そうであるならば、全例に放射線照射をする必要があるのか、という議論も出てきているのです」

様々な検証が必要だが、腋窩リンパ節郭清と同様に今後放射線照射についても、省略できるケースが明らかになってくるかもしれない。このように必要のない検査や治療が次々と見直されている乳がん。今後ますますその動きは加速していくだろう。

1 2

同じカテゴリーの最新記事