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切らずに治す、新たな治療法への期待 早期乳がんに対するラジオ波熱焼灼療法

監修●木下貴之 国立がん研究センター中央病院乳腺外科科長
取材・文●柄川昭彦
発行:2016年8月
更新:2019年12月


治療後の再発を防ぐため 臨床試験が行われてきた

乳がんのラジオ波熱焼灼療法は、標準治療として保険収載されることを目指し、現在、臨床試験が進められている。しかし、この研究が始まる前に、乳がんのラジオ波熱焼灼療法がいわば〝無秩序〟に広まった時期があった。

「この治療は大がかりな設備や病理も必要ないため、クリニックなどでも行えます。そのため、2000年ごろからどんどん広まっていきました。しかし、適応などが決まっていなかったため、大きながんを無理をしてラジオ波で治療したりして、再発するケースが後を絶たなかったのです。そのため、日本乳癌学会が、ラジオ波熱焼灼療法は早期乳がんの標準治療ではないので、臨床試験に絞って行われるべきである、と警告したのです」

こうして木下さんを中心に、06年から臨床試験が開始されることになった。まず第1段階として、治療の安全性と、ラジオ波で本当にがん細胞を焼き殺せるのかが調べられた。これから乳がんの手術を受ける人を対象に、ラジオ波熱焼灼療法を行い、手術後にがん組織を取り出して、実際にがん細胞が死んでいるかを調べたのである。その結果、大きさが2㎝以下のがんであれば、約9割の割合でがん細胞を焼き切ることができるとわかり、安全性についても確認された。

第2段階として、1cm以下の小さながんを対象に、ラジオ波熱焼灼療法が行われた。MRIや超音波検査などの画像診断を駆使して、1cm以下のがんに絞り込み、全身麻酔でラジオ波熱焼灼療法が行われた。さらに、乳房部分切除術の場合と同じように、補助療法として放射線療法や薬物療法が行われた。

「慎重に画像検査を行ってから乳房部分切除術を行った場合でも、術中の迅速病理診断を行うと、1~2割は断端陽性(だんたんようせい)となります。つまり、予定通り切除しても、がんを取り切れていないケースがあるのです。そのような場合、手術ならば切除範囲を広げることができます。ところが、ラジオ波熱焼灼療法ではすべて焼き切ることができたのかどうかがわかりません。そこで、3カ月後に針生検を行い、生きたがん細胞が残っているかどうかを調べることにしました」

この試験では、針生検を受けた患者の約1割にがんの残存が見つかり、乳房部分切除術が行われている。しかし、約9割の患者には生きたがん細胞は見つからず、そのまま経過観察を続けることになった。その後、5年を過ぎたが、現時点で誰も再発していないという。

先進医療Bとして臨床試験が進行中

前述した試験の結果を踏まえ、現在は先進医療Bとして、乳がんのラジオ波熱焼灼療法の臨床試験「RAFAELO study」が進められている(図4)。

図4 RAFAELO studyの概要

RFA: ラジオ波熱焼灼療法 SLNB: センチネルリンパ節生検 国立がん研究センター

対象となるのは、各種画像診断で、大きさが1.5㎝以下とされた乳がんである。センチネルリンパ節生検で、リンパ節転移がないことも確認する。その後、全身麻酔でラジオ波熱焼灼療法を行い、補助療法として放射線療法と薬物療法を行う。そして、放射線療法終了から3カ月後に針生検を行い、生きたがん細胞が残っているかどうかを調べるのである。その結果、残存ありなら追加で手術が行われ、残存なしなら経過観察が続けられる。

「5年後まで経過観察を続け、5年温存乳房内無再発生存割合を調べます。対象者をランダム(無作為)に2群に割り付け、一方は乳房部分切除術、もう一方はラジオ波熱焼灼療法とすれば、はっきりした結果が出ますが、その試験は倫理的な問題から実際にはできません。そこで、ラジオ波熱焼灼療法を行った場合の5年温存乳房内無再発生存割合を調べ、それを乳房部分切除術の大規模臨床試験のデータと比較することになっています」

乳がんのラジオ波熱焼灼療法で問題となるのは再発だが、再発防止のポイントとなるのが、治療後3カ月目の針生検である。

「マンモトームという吸引式の針生検で、焼いた後の組織を採り出します。通常の針生検では痛みもありますし、かなり出血することもありますが、焼けこげている部分なので、痛みもほとんどなく、出血もありません」

図5 先進医療として乳がんのラジオ波熱焼灼療法が受けられる施設

先進医療として乳がんのラジオ波熱焼灼療法が受けられる施設は、現在のところ8施設(2016年6月1日時点)。今後、参加する施設は増える予定

臨床試験は372例を目標に行われていて、すでに3分の2ほどまで進んでいる。現在、先進医療としてラジオ波熱焼灼療法を受けられるのは8施設だが、今後、施設数も増える予定だ(図5)。

「この臨床試験の結果、ラジオ波熱焼灼療法の治療成績が乳房部分切除術と同等であることが示され(非劣性)、早期乳がんに対する新規局所療法としてラジオ波熱焼灼療法が保険収載され、治療の標準化につなげられればと思っています」

なお、気になる費用だが、国立がん研究センター中央病院の場合、ラジオ波熱焼灼療法に要する分だけで患者負担は17万円ほどだという(他に入院費用など別途費用負担あり)。切らない治療で手術と同等の成績が得られるなら、多くの患者は切らない治療を選択するだろう。ラジオ波熱焼灼療法が標準治療となる日が待ち望まれている。

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