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治療期間は大幅に短縮! SAVIを用いた新しい乳房温存療法

監修●桑山隆志 昭和大学病院ブレストセンター助教
取材・文●柄川昭彦
発行:2017年3月
更新:2017年3月


手術と放射線治療を1回の入院で行う

この治療を行う場合、基本的には次のようなスケジュールで治療が進むという(図3、4)。

まず、乳房温存術が行われ、手術で取り除いた部分に、SAVIを入れるためのスペーサーを挿入しておく。後でSAVIに置き換えるのだが、スペーサーは液体を入れたバルーンなので、液体を出せば簡単に抜去することができる。

スペーサーを挿入するために、1㎝ほどの小さな切開を行う必要がある。ただ、アンダーバストのラインに合わせて切開するので、治療後は傷跡がほとんど目立たないという。

「最初からSAVIを入れてしまわないのは、手術で切除した組織の病理検査の結果によっては、SAVIによる治療ができないことがあるからです。例えば、断端陽性(だんたんようせい:切除した切断面にがん細胞が見つかること)であった場合などです。そこで、病理検査の結果が出て、SAVIによる加速乳房部分照射が可能なことを確認してから、スペーサーを抜き取り、代わりにSAVIを入れます」

SAVIはカテーテルを閉じた状態にして挿入し、乳房内で広げる。そして、その状態でCT撮影を行い、得られた画像に基づいて、放射線科の医師と専門のスタッフが、患者1人ひとりに合わせた治療計画を立てる。正常組織にあまり放射線が当たらないようにしながら、必要な部位には十分な放射線が照射できるように、綿密な計画を立てるのである。

SAVIは放射線治療を行っている期間は広げたままにして乳房内に留置し、5日間の治療終了後、閉じてから引き抜く。小さな切開だが、抜去後に縫合することで傷はますます目立たなくなる。

「昭和大学病院では、病理医や放射線科と連携することにより、連続17日間の入院で、手術から放射線治療まで含めた一連の治療を行っています」

これ以外のスケジュールで治療を行うことも可能だ。例えば、まず乳房温存術を行い、病理検査の結果が出てから、改めて小さく切開してSAVIを入れることもできる。他の医療機関で乳房温存術を受けたとしても、SAVIによる治療を行っている医療機関で、放射線治療を受けることもできるということだ。

図3 昭和大学病院におけるSAVIによる乳房温存療法の流れ

昭和大学病院では、乳房温存術からSAVIによる放射線治療を一連の入院で行っており、入院期間は全て含めて17日間となっている
図4 SAVIを使った乳房温存療法の実際の流れ

治療期間が短く、合併症が少ない

SAVIを使った加速乳房部分照射法には、全乳房照射と比較して、どのようなメリットがあるのだろうか(図5)。

■メリット① 治療期間の大幅な短縮

全乳房照射は治療期間が長いという問題がある。毎日(週5回)の治療を5~6週間続ける必要があるため、仕事や家事に支障を来してしまうこともある。手術をしてから病理検査の結果が出るまでの期間なども加えると、治療期間は2カ月以上になってしまう。

これに対し、SAVIを使った加速乳房部分照射だと、前述したように、17日間の入院で全ての治療を終えることが可能。治療期間は大幅に短縮されることになる。

■メリット② 合併症が起きにくい

全乳房照射では、なるべく乳房以外の組織に放射線が照射されないようにするため、接線照射(せっせんしょうしゃ)という方法がとられている。しかし、体外からの照射のため、どうしても皮膚、肋骨、肺などに放射線が当たり、それに伴う有害事象が現れることがある。日焼けのような皮膚障害や、放射線治療後、しばらく経ったのちに晩期障害(ばんきしょうがい)として肋骨の骨折、放射性肺臓炎などが起こることがある。

その点、体内から放射線を照射する加速乳房部分照射では、きちんと治療計画を立てて照射を行うため、必要な部位に放射線を集中させ、正常組織への照射を大幅に減らすことができる。そのため、放射線による合併症が起きにくいというメリットがある。

図5 SAVIを使った加速乳房部分照射法のメリット(全乳房照射との違い)

今後は長期的なデータ検証が必要

SAVIによる加速乳房部分照射は、乳房温存術を行った人が対象となる。乳房温存術の適応となる患者であれば、腫瘍の大きさはとくに問題にならないが、比較的小さい腫瘍の場合に適しているという。

一方、この治療が適していないのは、リンパ節転移が認められる場合、切除断端にがん細胞が認められた場合である。

「昭和大学病院では、手術中にセンチネルリンパ節生検を行ってリンパ節転移の有無を調べ、リンパ節転移がある場合には、SAVIによる治療は行わないことにしています。ごく稀にですが、断端陽性だった場合もあり、これも適応外としています。これらの場合には、全乳房照射が行われます」

SAVIによる加速乳房部分照射は、長い治療期間がとれない人や、放射線治療のために毎日通院するのが困難な人が選択することが多いという。

「仕事や家庭の事情などで5~6週間毎日通院するのが難しい人、放射線治療を行う施設が自宅近くにない人、高齢で通院を続けるのが困難な人などにとっては、17日間の入院で治療が完結するのは好都合でしょう。

逆に言うと、小さなお子さんや介護が必要な人がいるため、入院はできないという人にとっては、通常の全乳房照射のほうが適していると言えます」

治療の選択肢が増えることで、患者本人が自分の生活に合わせて治療を選択できるようになる。同じ効果が得られるなら、選択肢が増えることはよいことである。

「問題は、全乳房照射と同等の再発防止効果があるかということですが、それについては、両者を比較する臨床試験の結果が待たれているところです。昭和大学病院では、2014年からこの治療を始め、これまでに30例ほどの治療を行ってきました。把握している限りでは、現在の段階では再発した例はありません。再発防止効果については、長期間のフォローが必要で、現在の段階では何とも言えませんが、ただアメリカの報告では、短期的に見た場合、通常の全乳房照射と比較して、変わりはないだろうというデータが出ています」

なお、この治療に必要な医療費は47万3,300円。保険が適用されるので、3割負担の人であればその3割の金額になる。

現在、SAVIによる新しい乳房温存療法を行っているのは全国でも「6~7施設」とのこと。今後、長期的なデータが蓄積され、全乳房照射と同等の再発防止効果が証明されれば、広く普及する可能性もある。

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