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乳がん術前化学療法で病理学的完全奏効となった症例

監修●淺岡真理子 東京医科大学病院乳腺科助教
取材・文●柄川昭彦
発行:2017年9月
更新:2017年10月


術前化学療法後に超音波ガイド下針生検を実施

術前化学療法を行った後、がんがどうなったかは、画像検査で調べることになっている。通常、超音波検査とMRI検査が行われている。この画像検査で、がんが消失したと判断できる場合を臨床学的完全奏効(clinical complete response: cCR)という。

「この臨床試験では、術前化学療法を行った後のMRI検査で、cCRとなった患者さんを対象に、病変部の超音波ガイド下針生検を行うことにしました」

超音波ガイド下針生検は、通常は治療を開始する前の段階で行われている検査である。超音波画像を見ながら病変部に生検用の針を刺し、組織を採取してくる。この検査を手術の前に追加したわけだ。

「針生検を行った後に手術が行われるわけです。そして、針生検で採取した検体と、手術で得られた検体を比較することによって、手術前の針生検によって、どれだけ正確にpCRを予測できるのかを調べることにしました」

例えば、手術前の針生検でがんが見つからず、手術後の検査でpCRという結果が出るのであれば、問題はない。すべてがそうであれば、針生検でpCRを予測することが可能だということになる。困るのは、針生検でがんが見つからなかったのに、手術後の病理検査でがんが見つかるケースである。そうしたことがどのくらい起こるか、調べる必要があった。

「超音波ガイド下針生検は、がんが存在していて、そこから組織を採ってくるのは難しくありません。しかし、画像的にがんが消失している部位から組織を採ってきて、がんが消失していることを証明するというのは、がんが存在することを証明するより難しいと思います」

この臨床試験は、現在進行中である。目標症例数の80例の登録が終わり、集計が進められている段階だという。

「針生検の検体と、手術によって得られた検体について、病理学的整合性を検討していきます。その結果、針生検の偽陰性率、つまり針生検で陰性(がんが存在しない)だったのに手術検体では陽性(がんが存在する)となる率が、10%未満に抑えられているかどうかに注目しています。10%未満であれば、手術を省略することを視野に、さらに研究を進めていくべきであると考えているからです」

どのような結果が出るのか、期待が寄せられている。

治療による侵襲を可能な限り抑える

この研究の目的は、治��による患者への侵襲を、できるだけ小さくすることにあるという。治療にとって最も大切なのが、病気を治すこと、生命を守ることであるのは確かだが、治療による侵襲も無視することはできない。特に乳がんの手術は、もし回避できるのであれば、それに越したことはない。

「術前化学療法後の針生検で、pCRを正確に予測できれば、乳房の手術を省略した治療が可能になるかもしれません」

実現すれば素晴らしいが、そのためには今後の研究の積み重ねが必要になってくる。

「術前化学療法でがんが消失した患者さんの反応は、2通りあります。1つは、がんがなくなったのなら乳房の手術は受けたくないという反応です。その一方で、がんが消えたといわれても、手術しないでいるのは不安でしかたがない、という気持ちもあるのです。どちらも患者さんの本音だろうと思います」

侵襲の大きな治療は、省けるものなら省いたほうがよい。しかし、手術を省略することで生じる不安を解消するためにも、しっかりしたエビデンス(科学的根拠)を積み上げていくことが必要になる。研究が着実に進められていくことが期待されている。

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