内部照射の仕組みと効果 密封小線源治療で、がん細胞を体の内側からピンポイントで攻撃する
前立腺がんの小線源療法はヨウ素125の永久刺入
先に、ウイルス関連のがんに放射線治療が有効、と述べたが、子宮頸がんに次いで小線源治療が多く行われる前立腺がんは、ウイルス関連ではない。
「前立腺がんは、生物学的に他のがん種と違う面を持っていて、内部照射の効果が非常に高いのです」と村上さん。生物学的効果を予測する難しいモデル式が存在するらしいのだが、簡潔に言うと、前立腺がんは小線源治療との相性が非常によい、とのこと。
前立腺がんに対して、日本で小線源治療が行われるようになったのは1994年。当時の方法は針を刺してイリジウム192を病巣近くに一時的に置きにいく組織内照射だった。しかし同じころ、アメリカでは、より周辺臓器への侵襲(しんしゅう)が少ない方法を求めて、ヨウ素125を密封したカプセル状の線源を多数、会陰部(えいんぶ)から前立腺内に挿入し、そのまま永久留置させる治療法が本格的に始まっていた。アメリカの後を追うこと10余年、2003年に日本でもようやくヨウ素125の永久挿入が認可され、現在では広く行われている。
なぜ、ヨウ素125の永久刺入が周辺組織にあまり侵襲しないのだろうか。
「それは、ヨウ素125がイリジウム192より格段に弱い放射線を出す線源で、数㎜先までしか届かないからです」と村上さん。
ヨウ素125をチタン製カプセル(0.8㎜×4.5㎜)に密封したもの(シード)を多数、前立腺に挿入し、永久留置することで、長い時間をかけて弱い放射線を病巣に継続的に照射していく(図4)。すると、病巣には高線量が投与されるが、それより先の周辺組織まではさほど届かない。よって周辺組織への影響が極小で抑えられるというわけだ。

前立腺がんは、CTやエコーなど画像上でがん組織を明確に確認することが難しいがん種。術前の画像でがんの局在が分かっていても、その他の部位に微小ながんが多発することがしばしばであるため、外部照射となると前立腺全域に強いエネルギーでの照射が必要になり、必然的に前立腺周辺部への影響を避けられない。ところが、前立腺の周囲には直腸や膀胱など、日常生活を営むための大切な臓器が多く、かつ、それらは放射線の影響を受けやすい臓器でもある。治療後のQOL(生活の質)を考えると、周辺臓器への影響を最小限に留めたいところだ。そこへいくと、小線源治療は、治療対象こそ前立腺全体であることは変わらないが、ピンポイントで照射するため、周辺部への影響は格段に小さい。
かつ、小線源治療では、がん組織に対しては、通常分割による外部照射の上限である80Gyを超える線量を投与できる。つまり、がん組織そのものへの効果は外部照射以上なのだ。
病巣へは効率的に線量を集め、周辺部には届きづらい。これが、ヨウ素125が受け入れられた理由だろう。ただし、この治療が有効なのは、がんが前立腺内に留まっているものに限られる。ピンポイントで放射線を照射しにいく治療なので、転移や浸潤が認められる場合は、現時点では対象にならない。
ちなみに、永久留置というと周囲への被曝が懸念されるが、ヨウ素125の放射線量は非常に弱い上に半減期は60日。1年たてばほとんどゼロになるため、周囲への影響はほとんどないと考えてよいそうだ。
乳房温存手術後の新しい放射線治療SAVI
乳がんに対する内部照射に、SAVI(サヴィ=加速乳房部分照射法)という新しい照射法がある。乳房温存手術を受けた場合、再発防止の意味で放射線治療を行う。その際、一般的なのは、乳房内に散らばっているかもしれない目に見えないがん細胞を叩くために行う外部照射だ。
一方で、「センチネルリンパ節への転移がなく3㎝以内の乳がんの場合、再発はもともとがんのあった部位の周辺がほとんどであり、乳房全体への放射線照射は必要ない、ということがわかってきました」と村上さん。それに伴い、再発防止のための放射線治療も、局所と局所周辺のみにピンポイントで行う内部照射(組織内照射)が選択されることも増えてきた。その進化形として、SAVIが登場したわけだ。
SAVIとは、カテーテル(細い管)を束ねた形状の器具のこと。複数の針を刺入する必要がある組織内照射よりも簡便に扱え、しかし球状の線量分布しか作れない一本線源のアプリケータに比べて複数の線源があるため非対称な線量分布も作れるという、乳房の小線源に特化した新しいアプリケータだ。これを乳房内に留置し、治療時にだけ、管の中に小さな粒状のイリジウム192を入れて、局所近くの処方点へ移動させ、照射する。線源をカテーテルに入れている時間はほんの数分。1回の治療時間も30分ほどだという。
「SAVIのメリットは、放射線治療の期間が短いことです。外部照射では5週間の通院が必要ですが、SAVIなら1週間の入院で終わります。遠方で外部照射に通うのが大変だったり、仕事の関係などで5週間の通院が難しい場合に適してます」と村上さんは語る(図5)(写真6)。


「現在、小線源治療が最も多く行われているのは、子宮頸がん。続いて、前立腺がん、そして、今後は乳がんが増えてくることが予想されます」と村上さん。ただ、子宮頸がんについてはぜひ伝えたいことがある、と次のように述べた。
「子宮頸がんは、欧米ではワクチンが普及して、既に過去の病気になりつつあります。日本はワクチンの副作用が問題になって普及されなかったこともあり、今も増加し続けています。せめて1年に1度、子宮頸がん検診を受けて、頸がんに至る手前、もしくは極初期段階で発見してください。そうすれば、円錐切除だけで治療を終えることができるのです。若い人が進行がんで来院し、治療によって妊孕性(にんようせい)を失っていくのを見るのはとてもつらい。年に1度の検診だけはぜひ受けてほしいと思います」
*RALS・ラルス=遠隔操作密封小線源治療・Remote After Loading System:代表的な適用疾患は子宮頸がん
*HPV=ヒトパピローマウイルス・Human Papilloma Virus:子宮頸がん、中咽頭がんの原因とされるウイルス
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