高齢者乳がんに対する診療の課題 増える高齢者乳がん~意思決定支援を重視した診療を
患者のニーズは何か
西村さんは「患者さんにとって何がいいか、医療界として模索しています。どこまで生きたいかは人それぞれ。平均寿命とは別に健康寿命というのがありますが、それはずっと低い。寝たきりや認知症になっても生かされている形が増えています。尊厳を考えた場合、自分が自分らしく生きられる年齢まででいいというのが、多くの人の考えなのかなと思います。70代前半の患者さんに対しては一生懸命治療し、それ以降は本人希望を重視します。何を目指すのか。緩和治療だけでいいという方も多くいます。我々の尺度で決めるべきではない。相手の考えを聞き出して、ニーズがどこにあるのかを聞き出さなければなりません」
しかし、医師と向かい合って堂々と自分の意見を話すことは、弱っている患者さんには酷かもしれない。そのようなときには、看護師が重要な役割を担う。さりげなく様子を見たり、会話など意思疎通を密にして患者さんとの信頼関係を作るのが仕事となる。西村さんは「意思決定を支援するのが非常に大事です」と話す。患者家族支援センターも心理的サポートに役立っている(図3)。

「人生を逆算して、この時点ではこれ、この時点ではこの治療をしましょうというのが理想です。望んでいない人に、治療をすることが妥当でないケースもあります」
患者さんの中には民間療法に走ったり、ドクターショッピングを繰り返したりするケースもあるが、「多くの方は最後まで面倒を見てもらえず、いずれ病院に戻ってきます。温かく見守って、繋ぎどころは残しておいてあげるのが大切。患者さんのニーズを汲み取るといっても、医学的妥当性とかけ離れている場合は説得しなければなりません。本人の不利益になるからです。食事療法など安易な方向に流れるのはわかりますが、立ち止まってほしい」と話す。
個人としての生き方を決めておく
西村さんに高齢者乳がんの治療についてまとめてもらった。
「十分な局所治療をすべきです。適切な治療を施す。みな家族背景も違うので、一律のやり方は向かないと思います。対応できる人には本人の同意を得てやりましょうとなるし、無治療が幸せという結論もあります。我々は100を目指して治療しますが、患者さんにはそれが幸せなのかは別です。我々の価値感がベストとは思って���ません。もう十分だからと、強い治療を望まないという人もいます。家族会議の中で個人の行く先を決めておくこと大事です。意思表示がはっきりしていると治療方針も決めやすくなります」
同じカテゴリーの最新記事
- 高濃度乳房の多い日本人女性には マンモグラフィとエコーの「公正」な乳がん検診を!
- がん情報を理解できるパートナーを見つけて最良の治療選択を! がん・薬剤情報を得るためのリテラシー
- 〝切らない乳がん治療〟がついに現実! 早期乳がんのラジオ波焼灼療法が来春、保険適用へ
- 新規薬剤の登場でこれまでのサブタイプ別治療が劇的変化! 乳がん薬物療法の最新基礎知識
- 心臓を避ける照射DIBH、体表を光でスキャンし正確に照射SGRT 乳がんの放射線治療の最新技術!
- 術前、術後治療も転移・再発治療も新薬の登場で激変中! 新薬が起こす乳がん治療のパラダイムシフト
- 主な改訂ポイントを押さえておこう! 「乳癌診療ガイドライン」4年ぶりの改訂
- ステージⅣ乳がん原発巣を手術したほうがいい人としないほうがいい人 日本の臨床試験「JCOG1017試験」に世界が注目!
- 乳がん手術の最新情報 乳房温存手術、乳房再建手術から予防的切除手術まで
- もっとガイドラインを上手に使いこなそう! 『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』はより患者目線に