1. ホーム  > 
  2. 各種がん  > 
  3. 乳がん  > 
  4. 乳がん
 

乳がん治療の新時代を開いたホルモン療法薬の真の実力と新たな可能性を探る 乳がんホルモン療法の誤解を解く

監修:大野真司 九州がんセンター乳腺科部長
取材・文:柄川昭彦
発行:2011年7月
更新:2013年4月

長く服用を続けるには骨のチェックが不可欠

長く続けるため、副作用には注意が必要だ。問題が出やすいのは、骨と手の関節である。

「女性ホルモンには、骨を作ったり、骨を守ったりする働きがあるため、アリミデックスの服用を続けていると、骨が弱くなってしまうことがあります。また、関節の潤滑油としても働くので、それがなくなることで、手の関節がこわばるといった症状も出やすくなります」

骨に関しては、治療を開始する前に骨密度を測り、骨粗鬆症の有無や程度をチェックする。治療開始時点で骨粗鬆症が中等症か軽症なら、5年間服用しても、問題となるレベルまで重症化することはまずないという。

「初めから重症だった人は、骨粗鬆症の治療薬であるビスホスホネートを使うことで、悪化を防ぎます。また、半年に1回は骨密度の検査を受け、値が低下するようなら、ビスホスホネートを使います。ただ、薬に頼るのではなく、まずは栄養と運動に気をつけ、骨を減らさないことが大切。それでも減る場合に薬を使います」

手のこわばりに関しては、よく動かすことが大切。とくに朝によく動かすことで、症状が楽になることが多い。こわばりだけでなく、痛みを伴う場合には、痛み止めの消炎鎮痛薬を使うこともあるという。

手術前の治療でも使われることがある

最近の乳がん治療では、手術前に薬物療法が行われることが多い。術前治療の目的は2つある。1つは、がんを縮小させることで、手術で取る範囲を小さくすること。それにより、乳房温存手術が可能になったり、より形のよい温存手術が可能になったりする。もう1つは、がんの大きさの変化から、薬の効果を判定すること。それにより、自分に合った治療方針を立てることが可能になる。

「80年代から抗がん剤による術前治療が行われてきましたが、ホルモン療法が効く人なら、ホルモン療法をやったほうがいいのではないかということで、術前ホルモン療法の研究が世界中で進められています。まさに日進月歩の分野なので、これからの数年で多くのことがわかってくるでしょう」

日本の診療ガイドラインでは、閉経後の乳がんに対する術前ホルモン療法は、「推奨グレードC1」となっている。「最新の注意のもとに行うことを考慮してもよい」という意味である。

最近、術前ホルモン療法に関しては、日本人を対象とした新たなエビデンス(科学的根拠)が報告されている。ホルモン受容体陽性の閉経後の乳がん患者を対象に、術前療法としてアリミデックスとノルバデックスを比較した臨床試験(PROACT試験)である。

その結果、アリミデックス群は、無再発生存期間(再発せずに生存している期間)でも、全生存期間(生存している期間)でも、ノルバデックス群を上回る結果を残した。(図9)

[図9 術前ホルモン療法の日本人での効果(アナストロゾールとタモキシフェンの比較試験)]
図9 術前ホルモン療法の日本人での効果(アナストロゾールとタモキシフェンの比較試験)

「対象者数が各群50人程度と少ないので、残念ながら、ガイドラインを書き変えるほどの影響力はありません。ただ、アリミデックスによる術前治療は、どうやらよさそうであるということは言えますね」

術前治療としてのホルモン療法は、現在もまだ多くの臨床試験が進行中だという。その結果に期待したいものである。

閉経前でも閉経後と同じホルモン環境

閉経前でもアリミデックスが効果的なケースとは?

アリミデックスによるホルモン療法について書いてきたが、実際に行われている治療については、一通り解説したことになる。ここからは、アリミデックスの発展的な治療について紹介していこう。

アリミデックスは、閉経後乳がんの治療薬として認可されている。したがって、臨床試験など以外では、閉経前の患者さんには使うことができない。

しかし、たとえ患者さんが閉経前でも、アリミデックスが効果的だと考えられているケースがある。

「脂肪組織で女性ホルモンが作られるのを防ぐのが、アリミデックスのようなアロマターゼ阻害薬の働きです。したがって、患者さんが閉経前で、卵巣から女性ホルモンが分泌されている場合には、脂肪組織で作られる女性ホルモンをゼロにしても意味がありません。それは当然です。しかし、ゾラデックスなどのLH-RHアゴニストを使い、卵巣からの女性ホルモン分泌が抑えられているケースであれば、それは話が別です」

ゾラデックスで卵巣からの女性ホルモン分泌が抑えられると、体内のホルモン環境は、閉経後の女性と同じになる。この状態の患者さんなら、アリミデックスが効果を発揮できるのではないか、と考えられるわけだ。(図10)

[図10 LH-RHアゴニスト剤の作用機序と閉経前におけるアナストロゾールの働き]
図10 LH-RHアゴニスト剤の作用機序と閉経前におけるアナストロゾールの働き

診療ガイドラインでも現在、推奨グレードC1

「乳がんが再発した閉経前の患者さんで、ホルモン受容体陽性であれば、ゾラデックスとノルバデックスによる治療が行われます。これが1次ホルモン療法の標準治療です。その後、この治療が効かなくなった場合、2次ホルモン療法として、ゾラデックスとアリミデックスを併用すると、やはり効きます。閉経前の患者さんでも、実際に効くことがわかっています」

診療ガイドラインでは、閉経前の患者さんの進行・再発乳がんの場合、2次以降のホルモン療法として、LH-RHアゴニストとアロマターゼ阻害薬の併用は「推奨グレードC1」で推奨されている。

科学的な根拠は必ずしも十分ではないが、細心の注意のもとに行うことを考えてもよい、という意味である。

術前治療に用いて優れた治療効果を発揮

閉経前の進行・再発乳がんに効くなら、再発予防のための術前治療や術後治療にはどうだろうか、と考えたくなる。実は、ゾラデックスで卵巣の機能を抑制した閉経前の患者さんに対し、アリミデックスとノルバデックスによる術前治療を行い、がんがどれだけ小さくなるかを比較した臨床試験(STAGE試験)が行われている。

この試験の対象となったのは、ホルモン受容体陽性、HER2陰性で、手術可能な閉経前の乳がん患者197人。これらの患者さんにゾラデックスを月に1回投与し、アリミデックス群(98人)とノルバデックス群(99人)の2群に分け、それぞれ24週間の術前ホルモン療法が行われた。

その結果、がんが縮小し、完全奏効あるいは部分奏効と評価された人の割合を、両群で比較した。

CTまたはMRIによる評価だと、アリミデックス群で64.3パーセント、ノルバデックス群で37.4パーセントが、完全奏効あるいは部分奏効と評価された。

この治療の後で手術が行われたわけだが、乳房温存手術の割合も明らかになっている。アリミデックス群では85.7パーセント、ノルバデックス群では67.7パーセントだった。より効果的な術前療法により、アリミデックス群では、乳房を温存できる人が増えたと考えられるわけだ。(図11)

[図11 閉経前の患者さんに対するアナストロゾールとタモキシフェンの比較]

  アナストロゾール
(98人)
タモキシフェン
(99人)
奏効率(超音波) 58.20% 42.40%
奏効率(CT・MRI) 64.30% 37.40%
乳房温存比率 85.70% 67.70%
ゴセレリンで卵巣機能を抑制した閉経前の患者さんに対するアナストロゾールとタモキシフェンによる術前治療の比較(対象:ホルモン受容体陽性、HER2陽性、手術可能な閉経前の乳がん患者被験者数=197人)

国際学会でも発表されたデータ

STAGE試験の結果は、どう評価されているのだろうか。

「日本で行われた臨床試験で、昨年すでに国際学会などでも発表されています。閉経前の患者さんでも、ゾラデックスなどで卵巣機能を抑制している場合、術前治療では、ノルバデックスよりアリミデックスのほうがよく効くことが、これで明らかになったわけです。しかも、この結果は今年6月に行われる米国臨床腫瘍学会でも発表されます」

ただ、術前治療に関してはこのようなきれいな結果が出たが、術後治療に関してはなかなか難しいのではないか、と考えられている。

「術前治療の臨床試験だと、比較的短期間で直接比較ができ、クリアな結果を出すことができます。ところが、術後治療になると、もっと複雑になってしまうでしょうね。たとえば、抗がん剤を使っているとか、いないとか。年齢とともに卵巣機能が低下していくとか。そうしたいろいろなファクターが入ってしまい、一概にこうだと言える結果が出にくいはずです」

今後、術後治療に関する臨床試験も行われるのだろうが、結果が出るまでには、まだ時間がかかりそうだ。

「LH-RHアゴニストと併用することで、アリミデックスは閉経前乳がんの治療にも、広く使われるようになる可能性があります。ただ、そのためには、アリミデックスの効能・効果が『閉経後乳がん』となっているのが問題ですね。臨床試験で効くという結果が出ても、このままでは閉経前の患者さんには使えません。まず、適応が拡大される必要があります」

優れた効果が確認されていながら、治療に使えないのではあまりに残念だ。将来、実際の治療に使えるようになることを期待したいものである。


同じカテゴリーの最新記事