乳がんホルモン療法の最新トピック SABCS2010より さらなる個別化へ―ホルモン療法剤の特徴を自身の治療に生かす
2剤の再発抑制効果は同等
MA・27試験の対象は、ホルモン受容体陽性の閉経後乳がん患者7576名。患者は術後のホルモン療法として、アリミデックス1ミリグラム/日またはアロマシン25ミリグラム/日を5年間服用しました(図3)。術後ホルモン療法としての効果を、無イベント生存(EFS:再発や反対側の乳房の新たな乳がんを発症することなく生存している)率で比較したところ、差は認められませんでした(図4)。イベントの発生や死亡、遠隔転移(骨や肺、肝臓など乳房以外の臓器への転移)の発生数や発生率にも差は認められず、全生存期間(OS)、遠隔無病生存期間(DDFS)も同等であることがわかりました(表1)。2種類のアロマターゼ阻害剤の効果に差がないことが、初めて示されたのです。

[図4 MA・27試験の結果 無イベント生存率]
[表1 MA・27試験の解析結果]
アロマシン イベント数(%) | アリミデックス イベント数(%) | ハザード比 (95%信頼区間) | p値 | |
---|---|---|---|---|
EFS* | 350(9.2) | 343(9.1) | 1.02(0.87, 1.18) | 0.85 |
OS* | 208(5.5) | 224(5.9) | 0.93(0.77, 1.13) | 0.64 |
DDFS* | 157(4.1) | 164(4.3) | 0.95(0.76, 1.18) | 0.46 |
第33回SABCS Goss, P. E. 発表
アリミデックスとアロマシン、副作用に違い
ただし副作用には、2剤で差が出たものもありました(表2)。アロマターゼ阻害剤に特徴的な副作用であるとされている骨への影響のうち、骨粗鬆症は、アロマシン群で1171例31パーセントと、アリミデックス群の1304例35パーセントと比較して少なかったことが示されました。ほかに、腟出血、脂質代謝異常(高トリグリセライド血症、高コレステロール血��)も、アロマシン群のほうが少ないという結果でした。一方、肝障害(ALT、AST、ビリルビンの上昇)や、ざ瘡、男性化、心房細動については、アリミデックス群のほうが少ないことが明らかになりました。こうした副作用の違いは、ステロイド型アロマターゼ阻害剤であるアロマシンに、アンドロゲン作用があるためだと考えられています。
アロマシン n(%) | アリミデックスn(%) | p値 | |
---|---|---|---|
3761(100) | 3759(100) | ||
ほてり | 2051(55) | 2101(56) | 0.24 |
関節炎/関節痛 | 253(7) | 231(6) | 0.32 |
筋肉痛 | 649(17) | 606(16) | 0.19 |
性器出血 | 40(1) | 61(2) | 0.04 |
ALT | 53(1) | 23(1) | 0.001 |
AST | 47(1) | 19(1) | 0.001 |
ビリルビン | 59(2) | 24(1) | <0.0001 |
ざ瘡 | 12(0) | 3(0) | 0.04 |
男性化 | 36(1) | 11(0) | <0.0001 |
心筋梗塞 | 38(1) | 32(1) | 0.55 |
脳卒中/一過性脳虚血発作/TIA | 32(1) | 38(1) | 0.47 |
心房細動 | 72(2) | 46(1) | 0.02 |
高トリグリセライド血症 | 80(2) | 124(3) | 0.002 |
高コレステロール血症 | 577(15) | 665(18) | 0.01 |
骨粗鬆症 | 1171(31) | 1304(35) | 0.001 |
あらゆる臨床骨折** | 358(10) | 354(9) | 0.91 |
脆弱性骨折** | 136(4) | 136(4) | 0.98 |
第33回SABCS Goss, P. E. 発表
内海さんは「MA・27試験によって、5年間のイニシャルアジュバント療法として、アリミデックスとアロマシンは効果の点では同じように有効であることが示されました。ただ、副作用の特徴が異なる可能性が示されたと言えます。副作用の表れ方や感じ方は、患者さんによって異なります。乳がんの再発を抑制するだけでなく、良好なQOL(生活の質)のもとで治療を継続していくためにも、患者さんは、どういうアロマターゼ阻害剤を使うか、お医者さんとよく相談してもらうといいと思います」と述べています。
複数の治療選択から自分に合った治療を選ぶ時代
これまで、アジュバントホルモン療法については、異なる治療法の効果と副作用の優劣を明らかにするための、さまざまな大規模臨床試験が行われてきました。個別化治療の重要性が認識されるようになった現在、1人ひとりの患者さんに、どのような治療が適しているのかを、さらに明らかにするための研究が、盛んに行われるようになっています。
今回、MA・27試験の結果を発表したマサチューセッツ総合病院のポール・ゴスさんによれば、ホルモン受容体陽性の乳がんは、すべて同じというわけではなく、特徴もホルモンバランスもさまざまな、個々の患者さんの体内の環境に適合して増殖します。たとえてみれば、同じ子供であっても、環境が異なれば、育ち方が違ってくるのと似ています。「これに対して何らかの治療を行う場合、それが同じ治療であっても、治療効果や副作用は、(年齢、閉経の状態といった)患者さん自身の特徴や、(ホルモン感受性、HER2タンパクの状態といった)乳がんの特徴によって変わってきます。こうした個々の患者さんに対する最適の治療(個別化治療)をみつけていくことが、ゴールです」(ゴスさん)。MA・27試験についても、個別化治療を念頭に、どのような患者さん、あるいはどのような乳がんにおいて、アリミデックス、アロマシンの再発抑制効果が高いのか、副作用が出やすいのかなどを、より詳細に調べるサブ試験やサブ解析が進められています。
患者や腫瘍の特徴と治療との関係をさらに研究
今回のSABCSでは、ほかにも、個別化治療を目指したさまざまな研究の成果が報告されました。たとえば、抗エストロゲン剤タモキシフェンについては、CYP2D6というタモキシフェンを代謝する酵素と、抗エストロゲン作用との関係についての発表がありました。
タモキシフェンによる治療では、タモキシフェンの代謝産物であるエンドキシフェンに薬剤としての効果があると言われています。CYP2D6というのは、タモキシフェンがエンドキシフェンに変換される時の酵素のひとつで、患者さんによっては、CYP2D6の酵素活性が低く、エンドキシフェンがなかなか作られないために、タモキシフェンによる効果が十分得られないという仮説がありました。タモキシフェンとフェマーラを比較したBIG1-98試験、タモキシフェンとアリミデックスを比較したATAC試験の患者さんを対象に、CYP2D6の酵素活性とタモキシフェンの効果との関係が検討されましたが、結果はともに、差がないというものでした。
内海さんは、「白人にはこの代謝酵素の少ない人が多く、いろいろな研究がされていますが、今回の発表では、いずれも効果に差は認められませんでした。遺伝子型は人種によっても異なり、日本人における遺伝子型とタモキシフェンの効果との関係については、まだエビデンス(科学的根拠)は得られていません。ただ、日本人ではこの酵素活性の低い人は少ないことがわかっています。現時点においては、CYP2D6の活性が低いか高いかを調べる検査は、必ずしも必要ではないと考えることができます」と説明しています。
また、以前より、閉経後女性では、肥満の場合、肥満でない人と比較して、乳がん発生率が高いことなどが分かっています。肥満の人は脂肪組織が多く、脂肪組織におけるアロマターゼによって、体内のエストロゲン産生量が多いためではないかと推察されています。また別に、肥満と乳がんの予後との関係も検討されています。本学会では、いずれもアジュバント化学療法が行われた米国の3試験の解析結果として、ホルモン受容体陽性HER2陰性の患者さんでは、肥満の場合、無病生存(DFS)率と全生存(OS)率が不良であることが報告されました。内海さんは「結論は得られていませんが、現時点では、少なくとも肥満ではないほうがいい可能性があると言えるでしょう。今後は、たとえば肥満の女性が乳がんになった時に、運動などで肥満を解消し、健康的な生活を送ることで、予後が改善できるかどうかについて検討していくことも重要ではないでしょうか」と話しています。
自分に合った治療をみつけ、続けることが大切
「ホルモン受容体陽性の乳がん患者さんにはホルモン療法が効果的です。ただし、その効果を十分に得るためには、5年という長期間にわたり、根気よく治療を続けることが必要です。有効な治療選択肢が複数あることが分かってきた現在では、その中からそれぞれの患者さんにあった治療を選択できるようになってきました。なかには副作用がつらく、治療継続が困難になる患者さんもいます。副作用などがつらい場合には、躊躇せず担当医や看護師にそのことを正直に伝え、複数の治療選択肢のなかから自分にあった治療を見つけ、あきらめずに続けることが重要です」(内海さん)。
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