患者の視点に立ち、治療の流れに沿ってさまざまな治療法を集約してまとめた 乳がんの新『薬物療法ガイドライン』は、ここが大きく変わった
推奨グレードCが2段階に分かれた
もう1つ、ガイドラインとしての重要な変更点が、治療法としての評価を示す「推奨グレード」の区分変更である。07版では、推奨グレードはA、B、C、Dの4段階だった。それが10年版では、A、B、C1、C2、Dの5段階になった。
A、B、Dに関しては、表現上の訂正はあるものの、内容は基本的に変わっていない。変わったのはCである。07年版の推奨グレードCは、「エビデンスは十分とはいえないので、日常診療で実践する際は十分な注意を必要とする」という意味を持っていた。行ったほうがいいのか、行わないほうがいいのか、はっきりしない推奨グレードだったのだ。
「07年版の推奨グレードCには、十分な臨床試験結果がなく、勧められないという声が多かった治療が入っていました。その一方で、専門家の間で将来性があるとの評価が高く、臨床試験をベースにして実施を勧めたいという治療も入っていたのです。そこで、これは仕分けが必要だろうということになり、C1とC2という推奨グレードを作ることにしました」
この変更により、その治療を行うほうがよいのか、行わないほうがよいのかが、かなり明確になった。アルゴリズムの導入や推奨グレードの区分変更は、薬物療法以外のガイドラインの改訂時にも踏襲される見込みだ。

術前ホルモン療法が新たに登場してきた
次に、個別の治療法に関する変更点を見ていくことにしよう。中村さんが挙げたのは、次のような内容である。
ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)による術後療法
CQ「HER2陽性術後乳癌に対して化学療法+トラスツズマブは勧められるか」
HER2とは、ハーセプチンによる治療を行うかどうかの指標となる遺伝子のことだ。このCQに対する回答は――。
「HER2陽性術後乳癌に対する化学療法+トラスツズマブ投与は強く勧められる(推奨グレードA)」
07年版でも術後治療のハーセプチンは勧められていたが、当時、ハーセプチンの適応は転移・再発乳がんに限られ、まだ承認されていなかった。その後、適応拡大となり、保険でハーセプチンによる術後治療が受けられるようになっている。また、推奨グレードも、07年版のBからAに格上げされた。
術前ホルモン療法
CQ「ホルモン受容体陽性原発乳癌に対して術前内分泌療法は勧められるか」
内分泌療法とはホルモン療法のこと。これに対する回答は次の2つである。
「閉経後患者に対して術前内分泌療法を行った場合、予後への影響は明らかでないが、乳房温存率は向上する(C1)」「閉経前患者に対する術前内分泌療法の意義は明らかではないので基本的には勧められない(C2)」
術前化学療法は、術後化学療法と予後は同等で、温存率が高まることがわかっている。術前ホルモン療法でも大規模臨床試験が行われるようになり、閉経後の患者さんに対しては、乳房温存率の向上が明らかになっている。こうした背景からC1として登場してきたわけだ。

効果予測における遺伝子分析
CQ「遺伝子アッセイ(OncotypeDX、MammaPrintなど)は術後化学療法を行うかどうかの判断に有効か」
オンコタイプDXもマンマプリントも、がん細胞の遺伝子を分析する方法である。回答は次のとおり。
「OncotypeDX、MammaPrintは早期乳癌症例の予後予測因子として、また術後化学療法を行うか否かの判断の一助として期待されているが、いまだ日常診療での使用を積極的に勧める段階ではない(C1)」
海外ではすでに普及している検査で、NCCNのガイドラインにも載っているというが、日本ではまだ保険適応となっていない。推奨グレードはC1。期待が寄せられていることは確かなようだ。
新しい制吐剤
CQ「化学療法による悪心・嘔吐に対して5-HT3受容体拮抗型制吐薬、ステロイド、アプレピタントは勧められるか」
回答は次の2つ。
「急性嘔吐に対して5-HT3受容体拮抗型制吐薬、ステロイド、アプレピタントの併用が強く勧められる(A)」「遅延性嘔吐に対しては薬剤の嘔吐リスクに応じて、アプレピタント、ステロイドまたは5-HT3受容体拮抗型制吐薬の使用が強く勧められる(A)」
変更点は、新しい制吐剤が加わった点だ。09年10月に承認されたイメンド(一般名アプレピタント)が、従来から使われていた薬剤に加えられ、推奨グレードAで勧められている。
新たに加えられた項目
CQ「化学療法施行にあたりインフルエンザワクチン接種は勧められるか」
これに対する回答は――。
「化学療法施行前もしくは施行中に、インフルエンザ不活化ワクチンの接種が望まれる(B)」
CQ「B型肝炎ウイルス感染既往のある乳癌患者に対する化学療法は勧められるか」
回答は以下のとおり。
「B型肝炎ウイルス感染既往のある乳癌患者に対する化学療法は勧められる。ただし、化学療法を行う場合は、肝臓専門医へのコンサルテーションを行い、(略)十分な配慮を要する(B)」
化学療法を行うと免疫が低下するため、インフルエンザにかかりやすく、肝炎発症のリスクも高まる。そこで、どう対応すべきかについて、指針を示すことにしたのだという。
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