臨床研究によって、1センチの早期乳がんが適応とされた 「傷をつけない治療」乳がんのラジオ波焼灼療法、実際の効果は?
残るのはほんのわずかな傷のみ

こうして3度の焼灼を行ってもなお、ラジオ波焼灼療法による乳房の傷は、電極を入れる際に切開した1カ所と、センチネルリンパ節を取り出した際の傷だけ。乳房の皮膚がいくぶん赤みを帯びたような感じで、傷らしい傷は見られない。
今でこそ乳房を温存する手術が一般化しているとはいえ、それでもメスで切除する以上、どうしても傷は残ってしまう。これに対して、ラジオ波焼灼療法は乳房にほとんど傷を残さないのだから、理想的な乳がん治療といえるだろう。
ラジオ波焼灼療法が適応となる乳がんとは? 木下さんは2006年6月より、同センターの倫理審査委員会の承認の下、乳がんに対してラジオ波焼灼療法を実施した上で、その部位を摘出し、焼灼しきれなかったがんの有無を確かめる臨床研究を実施した。
「原理的にはラジオ波を発生する電極の先端部分から半径1.5センチの範囲内を焼灼することができるので、臨床研究では腫瘍径3センチまでの乳がんを適応としました。ただし、ラジオ波での焼灼後、がんを切除し、確実に焼灼できているかを確かめると、3センチ以下の症例の一部に不完全焼灼が認められ、2センチ以下であればなんとか焼灼できることがわかりました」

適応は腫瘍径が1センチ以下の限局性の乳がん
ただ、画像診断で2センチ以下と判断されても、切除してみると3センチを超えるがんであることも少なくない。そのため木下さんは、ラジオ波焼灼療法の適応を厳しく絞り、腫瘍径1センチ以下で、腫瘤外にがん細胞が広がっていないがんに限ることにした。
1センチ以下というと、早期で発見されなければ適応とならない。一部の医療機関では3センチ以上の乳がんに対してもラジオ波焼灼療法を実施している医療機関もあるが、木下さんらの臨床研究の結果を見れば、再発リスクを極力避けるためには適応条件を厳しくするのも致し方ないのかもしれない。
1センチ以下に限られるといっても、乳房をほとんど傷つけることがないなら、多くの乳がん患者が受けてみたいと思うかもしれないが、過信は禁物だと木下さんは指摘する。
「確かにラジオ波焼灼療法は、乳房摘出術に比べて、乳房の変形がほとんどない、理想的な治療法といえるかもしれません。しかし、術中に迅速病理検査を実施しながら、がんが見つかれば切除範囲を広げるという修正ができる乳房温存手術と比べると、ラジオ波焼灼療法は不確実性が伴うと認識したほうがいいでしょう」

焼灼前 矢印で指しているのががんの部分

焼灼後 ラジオ波によってがんが焼かれて、消えたのがわかる
長期的な治療成績は今後の研究課題
手術であっても、再発するリスクを考慮し、術後、放射線治療を実施したり、薬物療法が行われる。当然、ラジオ波焼灼療法でも、同様に放射線治療や薬物療法が行われるが、適応となる1センチ以下の乳がん自体が少ないため、現時点で手術との再発率の比較検討を実施するまでには至っていない。
「現在、乳がんに対するラジオ波焼灼療法は高度医療に認められ、国立がん研究センター中央病院を含めて6施設(国立がん研究センター東病院、国立病院機構四国がんセンター、千葉県がんセンター、群馬県立がんセンター、国立病院機構大阪医療センター)で実施しています。ここで症例数が積み重ねられ、その後の再発の様子を追跡し、再発率などが明らかになってくれば、保険適応にしていい治療法なのかどうかがはっきりするでしょう。この療法が普及させられるかどうかは、今後の治療成績次第ですね」
と、乳がんに対するラジオ波焼灼療法の将来性について、木下さんは慎重に説明する。実際、がん細胞を乳房に残すリスクは避けたいと考え、従来の乳房温存療法を希望する患者さんもいるという。
高度医療であるため、ラジオ波焼灼療法に関しては全額負担となり、国立がん研究センターの場合、治療費は14万7000円と高額である。
重篤な合併症はないものの、熱凝固させたがんが皮膚を破って出てきて、潰瘍ができてしまった症例も報告されている。皮膚のやけどを防いでいるとはいえ、ラジオ波により生じた熱が皮膚に及ぶほか、対極板を貼りつけたところでやけどが起こることもある。また、患者によっては焼灼したがんが体内になかなか吸収されずに、しこりとなって乳房の中に残ることもある。
ラジオ波焼灼療法は、乳房の変形を最低限に抑えてがん治療ができる点で、多くの乳がん患者さんに福音をもたらすと期待されるが、安易に飛びつくことなく、長期的な治療成績は未だ不明であることや、合併症もあることも理解した上で受けていただきたい。
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