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副作用の抑制方法が改善し、新たなスタンダードとして普及し始めた 乳がん患者の生存率を改善した術後補助化学療法「TC療法」

監修:川端英孝 虎の門病院乳腺・内分泌外科部長
取材・文:坂本悠次
発行:2010年2月
更新:2013年4月

HER2陽性の患者でもTC療法が良好な傾向に

この長期成績の報告では、ほかにも興味深いデータが示されています。特筆すべきは、再発リスクが高いとされるHER2陽性の患者46人に限定した解析でも、TC療法群の無再発生存率はAC療法群よりも良好な傾向にあったこと。少数例の検討ではあるものの、見逃せない点であると言えます。

「また、ホルモン受容体が陽性の患者さんであるか否か、あるいは65歳未満であるか否かにかかわらず、いずれもTC療法群の無再発生存率がAC療法群より優れていたことも重要な点だと言えます」

副作用の発現率ではTC療法群とAC療法群の両群の患者の間に大きな差は認められなかったものの、65歳以上の患者のみを対象とした場合、骨髄抑制などによる発熱性好中球減少がAC療法群(4パーセント)よりTC療法群(8パーセント)に多い傾向がみられました。一方、貧血はAC療法群(5パーセント)よりTC療法群(1パーセント)のほうが少なかったという結果でした。また、再発がみられないまま長期間生存した後に死亡した患者、すなわちがんそのものが原因ではなく、治療による副作用が関係して亡くなったと推定される患者さんはAC療法群に3人みられましたが、TC療法群には1人もいませんでした。

明らかに少ない吐き気や嘔吐などの副作用

「虎の門病院では第28回サンアントニオ乳がん学会の報告の1年後(06年)から、ホルモン受容体陽性や再発リスクが高くない早期乳がんの患者さんを対象としてTC療法を始めました。その数はいままでに70人にのぼります」

このように、乳がんの治療に先進的に取り組む全国の病院で、TC療法を試みるところが年を追うごとに増えています。

TC療法に豊富な経験を持つ川端さんは、治療効果以外のTC療法のメリットについて次のように指摘しています。

「TC療法が優れているのは、AC療法などで用いられるアントラサイクリン系抗がん剤が省かれるため、心臓への副作用が少ないと予測されるこ���です。さらに、TC療法に明らかに少ない副作用が吐き気や嘔吐です。これは患者さんのQOLにとって大きなメリットだと思います」

また、HER2陽性の患者は術後補助化学療法に加えて、ハーセプチンの1年間投与が必須とされます。AC療法の場合、ハーセプチンとアドリアシンを同時に使用すると心臓に障害が現れやすくなることから、AC療法を終えた後にハーセプチンを投与するため1年3カ月の治療期間が必要です。一方、TC療法の場合、ハーセプチンとの併用投与が可能なことから、より短い1年の治療期間ですむこともメリットと言えるでしょう。

支持療法に習熟するに従い、ひどい副作用が減少

[皮疹の例]
皮疹の例
皮疹の例

TC療法で注意すべき副作用は何でしょうか。TC療法を多く手がけている川端さんは、その筆頭にあげられるのが骨髄抑制による好中球減少と、それによって発熱しやすくなることだと指摘します。

「AC療法と比べて、全身倦怠感や皮疹(写真)、痺れなどの神経障害の副作用も少なくありません。爪の変形などの皮膚障害が生じることもあります」

まれにアナフィラキシー様反応が起きることもあります。TC療法の点滴投与中に血圧が70台まで下がり、息苦しさや呼吸困難感を覚えた患者さんもいたとのことです。

「実は、これまでAC療法やEC療法、FEC療法などを終えた後にタキソテールのようなタキサン系抗がん剤を単剤で投与する治療法はありましたが、TC療法のようにタキサン系抗がん剤とエンドキサンを同時に投与する治療法は馴染みがありませんでした」

そのため、以前はTC療法の副作用を予防し、適切に抑えることが難しいことから、使いづらさを感じる医師がいたことも事実です。

しかし、TC療法が普及するに従い、その副作用を抑制する方法が改善されてきたため、副作用に苦しむ患者は少なくなったとのことです。

発熱性好中球減少対策には抗生物質の予防投与を

では、どのようにTC療法の副作用を抑えるのでしょうか。

「発熱性好中球減少には抗生物質のシプロキサン(一般名塩酸シプロフロキサシン)の予防投与が効果的です。タキソテールなどの点滴投与後7日目から15日目までの間の好中球が減少するころにシプロキサンを服用してもらうことで、38度を超える発熱が減ってきました」

全身倦怠感や皮疹などの軽減には、ステロイド薬の予防的内服が効果的です。抗がん剤の点滴投与の前日と当日、翌日にわたる3日間の服用によって全身倦怠感などが軽くなります。シプロキサンやステロイド薬の投与は、TC療法の副作用予防方法として欧米では確立されているとのことです。

「皮疹は2または3サイクル目の8日目ごろに出てくるケースが多いように思います。虎の門病院では4カ月ほど前から、抗がん剤の投与順序を変えて、まずエンドキサンの投与後にタキソテールを投与する方法で皮疹の軽減をはかることを試みています」

2009年のASCO(米国臨床腫瘍学会)乳がんシンポジウムにて、Kochらはタキソテールとエンドキサンの投与順序がアレルギーの頻度に関係するかもしれないと報告しています。皮疹の原因の一部はアレルギーであることから、川端さんらはこの方法も検討の価値があると考えたそうです。

患者もTC療法についての知識を蓄えることが必要

このように、副作用を抑える方法が進歩してきたこともあり、虎の門病院ではTC療法を予定した回数を最後までやり通せる(完遂)患者の割合は約90パーセントに達しています。また、抗がん剤の投与量を減量することなしに完遂した患者は86パーセントにのぼっているのです。

「従来のAC療法と比べて、TC療法が患者さんにとって非常に楽な治療法というわけではありませんが、様々な取り組みが功を奏した結果、副作用の程度などについては両者の間にさほど大きな違いはなくなったと言えます。一長一短があるというだけでしょう」

今後は、乳がんの術後補助化学療法として4サイクルのTC療法がさらに普及していくことは間違いありません。なぜなら、術後補助化学療法が適切とされる早期乳がんの患者さんのうち、半数はTC療法など「短期間の治療法で十分」と推測されるからです。

患者とその家族は、TC療法の特長やその副作用対策などに関する知識を蓄え、正しく理解することが、より適切な治療を受けることにつながると考えられます。

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