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後発医薬品(ジェネリック)の活用で、高額な治療費の負担が軽くなる可能性あり 家計にやさしいがん治療~乳がん患者の場合~

監修:多田敬一郎 東京大学医学部付属病院乳腺内分泌外科講師
発行:2009年11月
更新:2013年4月

患者に重い負担としてのしかかる高額な薬剤費

治療効果の高い標準療法が比較的数多いのは喜ばしいことだが、重い負担となっているのが薬剤費だ。

たとえば、前出のハーセプチンを1年間投与した場合、その費用は年間242万2248円になる(3割の自己負担額72万6674円)。

)平成20年8月版保険薬事典
「じほう」掲載の薬価より算定

高額療養費制度を利用すれば、1カ月の医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担額)を超える分の医療費は払い戻される。しかし実際は、たとえば、一般の被保険者(標準報酬月額が53万円未満)やその被扶養者の場合、自己負担額の上限(8万100円+〈<医療費―26万7000円>×1パーセント)を超えて薬剤費などを支払った際に上限を超えた分が払い戻されるものの、一旦は自己負担額の全額を病院などの医療機関の窓口で支払わなければならない。

しかも治療は継続して受けるため、毎月高額な薬剤費を払い続けることになる。このため、家計への負担に苦しむ患者やその家族は少なくない。

ジェネリックと治療法の選択が薬剤費軽減の決め手

まずは治療の基本となるホルモン療法剤が投与されていることを想定して、費用を考えてみたい。同じホルモン療法剤であっても使用する薬剤によって薬剤費は異なり、投与期間が5年に及ぶと数10万円もの薬剤費差が生じる。

また、治療はその後も続くことになり薬剤費は年々増加する。この薬剤費の負担を軽減する解決策の1つとして挙げられるのが、後発医薬品=ジェネリックの活用だ。

「すべての薬剤という訳にはいきませんが、乳がんの治療に用いられる薬剤の中にもジェネリックに切り替えられるものがあります」(多田さん)

たとえば、抗がん剤の「タキソール注射液」のジェネリックには「パクリタキセル注「NK」」がある。��ルモン剤の「ノルバデックス」にも「タスオミン」など複数のジェネリックがあり、薬価は3分の2から5分の1以下の薬剤まである。

同様の効果が期待できる異なる化学療法を受けた場合でも、薬剤(ジェネリック)の組み合わせにより医療費に大きな差が生じる。

[図2-1 CEF療法→パクリタキセル→ハーセプチン治療で
先発品とジェネリックを使った場合の累計差額]

図2-1

[図2-2 先発品ナベルビンとジェネリックを使った場合の累計差額]
図2-2

たとえば、すべて先発品の薬剤を使い、CEF療法4コース→パクリタキセルを4コース→ハーセプチン18回(約1年間)の治療を受けた場合、その総医療費は206万4132円(3割の自己負担61万9240円)になる。

一方、すべてジェネリックの薬剤を使った場合の総医療費は154万8164円(同46万4450円)で、累計差額は、51万5968円だ(図2-1)。

ここまでは、長期に及ぶ薬剤費と複数の薬剤を組み合わせた治療の医療費を例に出したが、1剤のみを投与した場合でも、差額を見ることができる。今後、ジェネリックの販売が予定されているナベルビン(一般名ビノレルビン)の場合、1年間投与すると先発品であるナベルビンの総医療費は81万112円(3割の自己負担24万3034円)になる。一方、ジェネリックでは、56万7079円(同17万124円)程度と予想される(図2-2)。長期にわたり膨大な薬剤費を支払っているうえ、さらなる治療費の加算は、家計という面から不安を覚えることもあるだろう。

女性の罹患率が高い乳がんでは、母子家庭で一家の大黒柱である母親が罹患することも多く、家計を助けるため進学や夢をあきらめて就職する子供たちがいる。

高額の薬剤費は、経済的な負担だけでなく、精神的な負担を強いられるケースも見られる。

治療が家計の負担にならないために

今回、例に挙げた治療費は、いずれも代表的な補助療法として使われる薬剤のみである。実際は診察料や注射をする際の技術料のほか、吐き気を抑えるために使う薬剤などの費用が加算される。治療を安心して受け続けるために今後も、家計の負担が減る安価なジェネリックが増えていくことが大いに期待されている。

「乳がんの薬を処方する側の医師にとっても、高額な薬剤を継続して使うのは気にかかります」(多田さん)

乳がんをはじめさまざまながんの治療が、お金持ちしか受けられない治療になりかねないと危惧する医師は少なくない。

「私は、処方せんの後発医薬品への変更の諾否を記す欄をいつも空欄にして、後発医薬品すなわちジェネリックへの変更を可能な状態にしています」と多田さんは語る。

患者の経済的負担が大きい治療では、できるだけその負担を軽くしようと努めている医師は増えてきている。このため、患者の側から担当医にジェネリックの使用を依頼することも重要だ。

欧米では抗がん剤のジェネリック数も多く、また広く普及している。患者の側から積極的に働きかけていくことは、治療を受ける側の権利であり、わが国のジェネリック普及の突破口にもなるであろう。

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