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心臓専門医 ツビンデン × 乳がん治療のオピニオンリーダー 岩田 広治 知ってほしいのは、この心障害のリスクを回避する方法があるということ

撮影:河合 修
発行:2009年9月
更新:2013年10月

心障害が現れているかどうかのチェックポイントは?

写真:ステファン・ツビンデンさんと岩田広治さん
乳がん治療薬に伴う心障害の問題について、
日本で初めて話し合われた

岩田 ところで現実的な話になりますが、患者さんに心機能の低下、心障害が現われているかどうかを、どのようにチェックしていますか。 目安となる症状のチェックポイントは、あるのでしょうか。

ツビンデン 経験のない医師の中には、チェックリストに記載されているポイントを1つずつ確認する者もいます。しかし、経験を積めばチェックすべきポイントがわかってきます。1人ひとりの症状をよく診ていくことが大事ですが、血圧が大きな1つの指標になります。他に体重増加や浮腫、頸静脈の拡張の有無、心雑音、血管雑音などでもチェックできます。頸静脈の拡張は患者さんに1度、横になってもらって、また座ってもらう。そのときに横になったときに拡張した頸静脈がそのままの状態であれば、心障害が生じている可能性が高いと考えるべきでしょう。

岩田 呼吸困難はどうでしょうか。

ツビンデン 心不全は、心臓のポンプ機能が低下することにより引き起こされます。心臓が全身に血液を十分送り出すことができなくなると肺にうっ血が生じ、息苦しさ、むくみ、疲れやすさなどさまざまな症状が出現し、その際、急激な体重増加、脈拍の増加、尿量の減少などが起こることもあります。呼吸困難の場合は、心臓に原因があるのかどうかを確認する必要がありますね。

[心臓リモデリング]
図:心臓リモデリング

出典:Mann DL,Bristow MR.Circulation 2005;111;2837-2849

注目される心障害のリスクを回避するTC療法

岩田 心障害のリスクを回避して、乳がん治療を行うには、どうすればいいでしょうか。ツビンデン先生は、実際にどんなサポートを行っていますか。

ツビンデン まず、最初のポイントはアントラサイクリン系の抗がん剤を用いないということです。これは、岩田先生のほうがよくご存知でしょう。そして、アントラサイクリンを使用する場合は、酸化ストレスを抑えるために抗酸化剤を使う選択もあります。もっとも、この薬剤はスイスと同じように日本ではまだ保険が適用されていないよう���思いますが……。また、点滴スピードを落とすことも効果的です。点滴時間を48時間、96時間に設定することで、心障害が軽減されるという報告もされています。さらにハーセプチンとの関係でいえば、両方の薬剤を同時に使わないことも重要です。どうしても両方の薬を使う必要がある場合は、一定の休薬期間を設けることで、かなりリスクを抑えることができるでしょう。ただし、こうしたリスクは治療効果との兼ね合いを前提にして考えるべきでしょう。

岩田 早期乳がんの治療では何より、まず治癒(=再発防止)を目指すことを優先させるべきです。最近の乳がん治療のトピックスとして術後にアントラサイクリンを用いるAC療法(アドリアシン+エンドキサン(一般名シクロホスファミド))より、タキサン系抗がん剤を用いたTC療法(タキソテール(一般名ドセタキセル)+エンドキサン)のほうが、再発抑制効果が高く、生存期間も延長できると報告されています。このことより、最近、私たちの施設では、乳がん術後化学療法にTC療法を積極的に勧めるケースが増えてきております。

治療で生じるリスクについてきちんと患者に説明を!

写真:ステファン・ツビンデンさんと岩田広治さん

岩田 これからは心障害に限らないかもしれませんががん治療の副作用をうまく抑えていくためには、いろんな分野の医師の協力が不可欠ですね。残念ながら、私自身もそうですが、日本では外科医ががん治療を主導する立場にあり、なかなかそうした協力体制が確立できないでいるのが実情です。実際に心障害を抑えるには、どんな領域のスタッフが必要でしょうか。

ツビンデン 乳がん専門医に心臓専門医、それに画像データを分析する画像診断医や不整脈の状態をチェックする、科学者も必要です。これからは、開業医も重要な役割を担うようになるでしょう。薬剤の進歩により、がん治療にも新たな時代が訪れています。長期間、薬剤を利用しながら、患者さん自身ががんをコントロールする時代になっていますから。

岩田 日本ではまだ医師も患者さんもがん治療による副作用というと、たとえば脱毛や吐き気、嘔吐など目の前の事象にばかり捉われている傾向も見受けられます。そんななかで、いつ現れるかわからない心障害について説明することに、ある種の難しさも感じます。
ツビンデン先生は、患者さんへのインフォームド・コンセントとしてどんなことを心がけていますか。

ツビンデン スイスでは、治療にともなって生じるリスクを事前に説明することが医師の義務として定められています。
アメリカでは事前にリスクを説明しなかったことが訴訟に発展することもあるので、医師はより正確に治療のリスクについても話します。
恐怖心をあおる必要はありませんが、治療にリスクがあることはきちんと話すべきでしょう。ただ、その場合でも、個々の患者さんによってリスクは異なることを理解してもらい、そして患者さんに心理的衝撃を与えないようにやわらかく説明していく必要があるでしょう。

岩田 逆に患者さんの立場になれば、自らの状態をきちんと医師に伝えることが大切でしょう。高血圧や糖尿病の持病を持っていれば、それをきちんと医師に伝える。そうして医師とともに副作用を回避するための対策を考えていくことが大切です。乳がん治療には、心臓の問題は避けて通れない。今後よりよい生活をしていくために、患者さんに是非この心臓の問題を知っていてもらいたいですね。

ツビンデン おっしゃるとおりですね。がんの治療はもちろん、副作用対策も医師と患者さんのパートナーシップによって成り立つものなのですから。

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