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治療目的を明確に持って、乳がんと向き合うために これだけは押さえておこう! 乳がん薬物療法の基礎知識

監修:渡辺亨 浜松オンコロジーセンター長
取材:がんサポート編集部
発行:2009年2月
更新:2013年6月

転移・再発後の治療は3つの「P」が目的

[「進行・再発後の治療」の目的]

「3つの“P”」
Palliate Symptoms=症状緩和
Prevent Symptoms=症状予防
Prolong Survival=延命

初期治療ではがんを完治させることが目的となるが、転移・再発がんの治療では、完治を目指すことはできない。目標とするのは、“3つのP”だとされている。

Palliate symptoms(症状を緩和する)、Prevent symptoms(症状を予防する)、Prolong survival(生存期間を延長する)の3つである。これらの目的を達成するために、どのような治療を行えばいいかを考えていくことになる。

「治療に当たる医師は、治療の目的を明らかにして、どのような治療法があるのか全体像を示す必要があります。しかし、実際には、それがなかなかできていないようです」

使われる薬は、初期治療の場合と同じで、抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬である。何から治療を始めればいいのかは、初期治療のように系統だってはっきり決まっているわけではないという。ただ、基本的な考え方としては、図7に示した『ホルトバギーの治療方針』がよく知られている。

「まず、ホルモン感受性があるなら、可能な限りホルモン療法で行き、使えるホルモン剤がなくなってから抗がん剤治療を開始すればいいという考え方です」

ホルモン療法としては、閉経前なら抗エストロゲン剤とLH-RHアゴニストの併用、閉経後ならまずアロマターゼ阻害剤が使われる。閉経後の場合、抗エストロゲン剤のタモキシフェン(商品名ノルバデックスなど)より、アロマターゼ阻害剤のほうが効果的であることが明らかになっているからだ。

アロマターゼ阻害剤には、アリミデックス(一般名アナストロゾール)、フェマーラ(一般名レトロゾール)、アロマシン(一般名エキセメタスン)といった種類がある。これらは、異なった薬剤ではあるが、効果には大きな違いはないと考えてよく、つまり、この3種類の薬から1種類を使えばよい、3種類をすべて使うというやり方には賛成できない、と渡辺さんは指摘する。では、アロマターゼ阻害剤の次には、どうするか。

「タモキシフェンは、閉経後の患者さんを対象とした臨床試験でアロマターゼ阻害剤に負けていますが、それは最初に使うならどちらがいいかを調べた試験です。したがって、アロマターゼ阻害剤が効かなくなったら、次にタモキシフェンを使います。そのタモキシフェンが効かなくなったときには、黄体ホルモン剤のヒスロンH200も使うべきなのです」

やれるところまでホルモン療法を続け、それでもいよいよ効かなくなったときに、抗がん剤による治療を始めればいいのである。

ハーセプチンをどのように使うのか

HER2が陽性の場合、ハーセプチンはどのように使うのだろうか。いくつかの条件ごとにまとめてみよう。

HER2が陽性でも、ホルモン感受性が陽性なら、まずホルモン療法から行う。NCCN(米国総合がんセンターネットワーク)のアルゴリズム(治療手順)でも、ホルモン感受性が陽性の場合には、まずホルモン療法から始めよう、ということになっている。

「最近、ホルモン剤とハーセプチンを同時併用したらどうかと、比較試験(臨床試験)が行われています。そうした試験の結果によっては、近い将来、変わってくるかもしれません」

HER2は陽性だが、ホルモン感受性が陰性の場合はどうだろうか。〈化学療法+ハーセプチン〉と〈化学療法単独〉の比較試験が行われており、化学療法単独より、ハーセプチンを併用したほうがいいことが明らかになっている。

「抗がん剤治療を使用する場合、ハーセプチンはなるべく早い段階から使ったほうがいいのです。ハーセプチンを後にとっておくという使い方は勧められません」

では、〈ハーセプチン単独〉と〈ハーセプチン+化学療法〉の比較試験はどんな結果になっているのだろうか。最近、日本で行った臨床試験の結果が報告されているが、併用することで生存期間が延長されることが明らかになっているという。化学療法ができるなら、加えたほうがいいということだ。

ただ、治療の目的はあくまで“3つのP”を達成することなので、副作用であまり苦しむようなら勧められない。化学療法を加えてみて、副作用があまり強くない場合ならいい、というべきだろう。

抗がん剤はなるべく単剤で使うようにする

ホルモン感受性が陰性の場合や、使用したホルモン剤がすべて効かなくなった場合には、化学療法が必要になる。このとき、どの抗がん剤から使うかについても、明確にはなっていないそうだ。

「最初に飲み薬から始めるのがいいとか、細胞毒性が強い抗がん剤の中でもタキソールから始めるのがいいとか、いろいろな意見があります。最近になって、日本で比較試験が行われています」

この比較試験では、まず経口薬のゼローダ(一般名カペシタビン)やTS-1(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)を使い、それが効かなくなってからタキソールに変える方法と、まずタキソールを使い、それが使えなくなってから経口剤に変える方法を比較している。どちらがいいのか、近い将来明らかになることだろう。

「抗がん剤を使う場合には、できるだけ単剤で使うようにするのがコツです。複数で使用すると、たとえ効果があっても、どの薬剤の効果かを特定することができません。単剤ならば、その薬剤の効果を確実に把握し、その時点で効果のある薬剤のみを使用できること、それ以外の薬剤は、今後のためにキープしておくことができるのです。それが、ひいてはQOLの高い状態をできるだけ長く続けることにもつながるのです」

転移・再発後の治療では、抗がん剤の投与量を減らす場合もある。完治を目指すのではなく、“3つのP”を達成できればいいので、それに必要なだけの投与量でいいのだ。

「初期治療の場合には、治療期間や投与量がわりと厳密に決まっていましたが、転移・再発がんの化学療法は出口の見えないトンネルを走っているようなものです。患者さんにとっては不安なので、期限を区切って行うのも1つの方法でしょう」

たとえば、タキソールならウィークリー投与で12サイクルというように、とりあえず期間を決めてから治療をスタートさせるのである。

HER2が陰性でも1度は血清HER2を調べる

写真:浜松オンコロジーセンター内の抗がん剤投与室

浜松オンコロジーセンター内の抗がん剤投与室。音楽を聴きながらリラックスして受けられる。もちろん、隣室のベッドルームで横になっての投与も可能

切除したがんを調べ、HER2陰性という結果が出ていても、それが間違っていることは決して珍しくない、と渡辺さんは言う。実際、次のような例があったそうだ。

HER2陰性、ホルモン感受性陽性だったため、術後にタモキシフェンを使ったが再発した患者さん。最初はホルモン療法を行ったが、それが効かなくなったために化学療法を行い、それも効かなくなったため、どうしたらいいだろうかということで来院した。

渡辺さんはジェムザール(一般名ゲムシタビン)を使ったが、少し効いただけだった。血清HER2を測定すると、通常は15ナノグラム/デシリットル以下なのに、30ナノグラム/デシリットルになっていた。そこで、HER2陰性となっていたが、副作用も軽い治療法なのでハーセプチンを使ってみると、これがよく効いたのだそうだ。

「検査が間違いだった可能性もあります。また、原発巣は陰性だったけれど、その中からHER2陽性の細胞が転移したということも考えられます。こういうこともあるので、たとえHER2が陰性と言われていても、治療を続けていく過程で、1回は血清HER2を測定してみる価値はあります」

ホルモン感受性が間違っている可能性は低いが、それでもやはりチェックしたほうがいい。NCCNのガイドラインにも、ホルモン感受性に関して1回はトライしてみるべきだと書かれているそうだ。もしホルモン感受性が陽性だったら、大きな恩恵を受けられるのだから、チェックする価値はあるのだろう。

「転移・再発後の治療は、なかなか公式通りにはいきません。たとえば、副作用が出ていたら、投与量を減らしたり、投与間隔をあけたりするなど、効果が損なわれない程度に変更していく必要があります」

どんな状況であっても、“3つのP”が達成できているかどうかを確認しながら、柔軟に対応していかなければならない。そこが転移・再発後の治療の難しいところなのである。

(構成/柄川昭彦)


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