たとえ全摘必須でも、乳房を失わない方法がある 美しき乳房温存を目指す――内視鏡手術と凍結療法
局所再発率は8分の1に
内視鏡の利点は、一般の手術より再発率が低いという手術成績にも反映されています。
これまで亀田総合病院では、1400人近い患者さんに内視鏡手術を行っています。乳房温存術1000例の時点で成績をまとめたところ、乳房内の局所再発率は5例で0.5パーセントでした。日本での平均的な局所再発率は約4パーセントですから、8分の1に抑えられたのです。ちなみにアメリカは10パーセントだそうです。全摘の場合、再発は胸壁に多いのですが、同病院でのその率は1.5パーセント。一般的には4パーセントほどですから、これも3分の1と、かなり低いのです。
中には、乳頭にまでがんが食い込んでいて、中をくり抜いて乳頭を残す場合もあります。しかし、これまで乳頭や乳輪を残して再発した例は1例もないそうです。これは、技術はもちろん、世界でもトップレベルの性能を持つMRI(磁気共鳴診断装置)や超音波、マンモグラフィなど、画像診断で術前にきちんとがんの状態を把握し、手術後も摘出した組織を徹底的に検査して取り残しの有無を評価しているからです。
ただ、内視鏡手術を行う病院はまだあまり多くありません。「技術的に難しく、習得に時間がかかることも大きな要因です」と福間さん。ただし、海外からの注目度も高く、今年、福間さんは米国乳がん外科学会でワークショップを行う予定だそうです。
しかし、その一方で「ようやく、日本でも形成外科と乳腺外科の医師が一緒に乳がん治療を行う機運が高まってきました」と福間さんは言及します。美容面も治療の一貫として重視してきた欧米では、形成外科と乳腺外科が融合して、乳がん手術と乳房再建を行う「腫瘍形成外科」がすでに一般的になっています。乳房の再建も治療の一貫として考えられているのです。日本でも、ようやくその必要性が専門医の間で認められ、研究会が開かれるようになってきたのです。
乳房にメスを入れずに治療する凍結療法
そして現在、福間さんは究極のがん治療ともいうべき方法に取り組んでいます。これが、全く乳房にメスを入れずにがんを治療する「凍結療法」です。
検査機器の進歩によって、今ではごく小さな乳がんが見つかるようになってきました。福間さんによると「検査機器の進歩で、今では非浸潤がん(乳管の外に出ていない超早期がん)が私たちの施設では2割を超えている」といいます。しかし、たとえ5ミリの大きさで見つかっても、現状では乳房温存療法しか治療法はありません。内視鏡で温存療法を行っても、多少の傷は残ることになりますし、入院も必要です。つまり、微小ながんに見合う治療法がない状況なのです。
そこで今、乳がん治療では、凍結療法や集束超音波療法、ラジオ波治療など、乳房を全く切らずにがんを治す局所療法が注目されています。この中で福間さんが取り組んでいるのが「凍結療法」。日帰り治療が可能という意味でも、凍結療法に期待していると福間さんは言います。 「乳がんの発症は40代後半がピークですが、30代にも少なくありません。この年齢は家庭的にも社会的にも働き盛り。かつては、命を救うためにはキャリアを犠牲にしても仕方ないと考えられましたが、これからは女性のキャリアを守ることも考えなくてはならないと思ったのです」と福間さん。
乳がんの手術後は放射線治療に通い、さらに抗がん剤の投与が必要になれば、1年ぐらい治療に拘束されることになります。それが女性が築いてきた社会的ポジションを脅かすことにもなりかねません。多くの乳がん患者をみてきた福間さんは、諸々考えて日帰りが可能な局所治療法を導入したいと思うに至ったのです。

超音波画像に黒く映し出される凍結部位

直径2.7ミリ、長さ11センチの凍結療法で使用する針
[アイスボールと摘出できるがん細胞の大きさ]
凍結療法は、簡単に言えば高圧のアルゴンガスとヘリウムガスを使って、がん細胞を凍結し、破壊する方法です。治療に使われるのは、直径2.7ミリ、長さ11センチの針。これを超音波の画像を見ながら病巣に刺し、アルゴンガスを使って針先をマイナス160度まで低下させ、がんの病巣を凍結させます。これによって、最大で4×4センチのアイスボールができます。その状態をしばらく維持してから、ヘリウムガスを使って凍結部位をゆっくりと温めます。この作業を2回繰り返します。
凍結時間や融解時間は、がんの大きさによって異なるそうです。がん細胞が死滅する機序としては、細胞内の水分が凍って細胞膜が直接破壊される、また、細胞周囲の凍結と融解によって浸透圧が変わり、細胞内に水分が出入りして細胞膜が破壊される、さらに、血管の内側を覆う内皮細胞が障害されて血管が塞がる、などが考えられています。
凍結療法は「凍結部位がはっきりと超音波の画像で確認できる」ことが大きな利点です。超音波の画像でみると、凍結部位は黒く映し出されるのです(下図)。がん細胞が死ぬのはその中心部。画像で凍結した部位を確認しながら治療できるので、的を外したり、凍結が足りないといった危険が少ないのです。
今のところ、「がんの病巣周囲に1.5センチの安全域をとって破壊したい」ので、凍結療法の対象になるのは1センチ以下の乳がんです。大きさにもよりますが、治療時間は全部合わせてもわずか1時間ほどです。

始めてまだ2年、今は実験的治療だが

超音波画像を見ながら凍結療法を行う福間さん
痛みが少ないのも凍結療法の大きな利点です。「針を刺す部位と周囲に歯科治療程度の局所麻酔をするだけで十分」と福間さん。冷やすと痛みが軽くなるように、凍結じたいが痛みの感覚を麻痺させるからです。治療後は、針を刺した部分を1針縫ってテープを貼るだけ。これならば、日帰りで治療できるのもわかります。
これまで、亀田総合病院で凍結療法を受けた人は、良性、悪性合わせて24例。平均的ながんの大きさは7.6ミリです。再発は1例もありませんが、慎重に経過を追跡しているところです。
「安全性は確認されてきましたが、まだ凍結療法を始めて2年。再発がないといっても長期の観察はまだないので、実験的な治療と考えています」
たとえば、マンモトーム生検で組織を採取すると、がんがなくなるケースがあります。それでも、これまでは乳房温存療法が行われましたが、今後、凍結療法のよい適応になるのではないかと福間さんは考えています。
「将来的には、機器の改良によってアイスボールを大きくし、もう少し大きながんも治療できるようにしたい」と福間さん。
最終的にはセンチネルリンパ節生検、凍結療法、放射線治療を全て短期間の通院で行えるようにするのが目標です。救命と美容の両立から、さらにキャリアの保全まで視野に入れた福間さんの新たな取り組みが始まっています。
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